『ショートショートつめあわせ』
石燕の筆(影絵草子)
第1話
『眼鏡』
ある眼鏡屋に新商品の眼鏡が発売されていた。
その眼鏡をかけると全然見えない。
それどころか真っ暗な真っ黒な闇が視界を覆う。
これはなんのための眼鏡なのかと店主に聞くと
「ああ、これは目が節穴の人用の眼鏡です。節穴じゃない人がかけても何も見えませんよ」
入れ違いに来店してきた客がその眼鏡をかけて
「これはよく見える。私の節穴の目にぴったりだ。これで私もおまえの目は節穴かなんて言われないですむ。大事なことをもう見逃さないでいられるね」
「どうやら、この客の目は節穴らしい」
それを聞いていたが、節穴の目を持っていない彼にはさっぱりその良さがわからなかった。
多少なりとも節穴の目を持つ客に憧れた。
『気分は世界一周』
長い休みが終わるとやれどこに行っただのと旅行の自慢話でクラスは盛り上がる。
Kくんは家にいたというが、町内にいながらにして世界一周をしたというのだが、どういうことかを聞いたクラス一同は大爆笑した。
「パリという喫茶店に行ったりスリランカというカレー屋に行ったり南極というパチンコ屋に行ったりしたよ。まあ次の休みにはベルギーっていうケーキ屋に行くけどね」
『もくじだけの本』
ある図書館で貸し出された本の中にひときわ大きなもくじだけの本がある。何百ページと続く本すべてがもくじで埋め尽くされている。
肝心の中身がないのだ。
なぜこんな本があるのかと図書館の司書に問うと司書は双眼鏡を取り出した。
ばかでかいプレパラートに本を裏表紙にして置くとのぞけと促した。
覗いてみるとたくさんの活字が第一章から最終章まで分子レベルの細かい字で書かれていた。
ただ、そのすべてがある人物の人生における失敗談をまとめたもので内容はひどくつまらないものだった。
ただの黒い裏表紙だ と思っていたのはすべて本の中身だったのだ。
『指輪』
Kのおばあさんが昔からずっと大事にしていた指輪がある。指輪は高価なもので売れば相当なお金になることがわかる。
やがて時が経っておばあさんは死に、遺品を整理していたらその指輪を見つけた。もらおうと思って指輪に手をかけた瞬間、指輪がいきなり光って音声が聞こえた。
「がちゃピー、聞こえますか?聞こえますか?M8星雲モア星です。おばあさんに八十年指輪を預かってもらったのですが、それを条件にお金を渡す約束をしたのですがどうやらおばあさんは亡くなってしまったようですね。かわりにお孫さんのあなたにお礼を贈ります。」
すると指輪はひときわ強い光を放って瞬時に消えてしまった。
かわりに米粒ほどの何かがあった。
よく目を凝らすとそれは小さな小さなおもちゃのような札束だった。
どうやらモア星人は小さな種族でその体のサイズに合ったお金らしい。
しかしこれではこの星では到底使えない。Kは残念そうに肩を落とした。
『再々々々々々生』
近未来。死刑ではあまりに甘いという意見が国民の大半から出たため、国は極秘に開発していた輪廻転生機を使って犯罪者を小さな虫や動物に永遠に転生させて生き地獄を与える。つまり何度生まれようが自然の摂理や脅威にさらさせて永遠に生と死を繰り返させる刑を死刑を廃止するかわりに制定した。
『ショートショートつめあわせ』 石燕の筆(影絵草子) @masingan
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