『迷惑な強運』

石燕の筆(影絵草子)

第1話

天野は昔から運がいい。

福引きをすれば必ず一等が当たり、懸賞に応募すればかなりの低確率でも当たる。


商店街の福引きで当たった景品を手に彼は自宅に帰りつく。


思えば小学生の頃、ヒーローのカードは買えば必ずレアカード。

どんなどしゃ降りの雨でも一歩外に出れば嘘のように降りやんだ。

話をあげればきりがない。

だからか周りにはまるで神童のように扱われた。


部屋には懸賞などで当たった沢山の品々が山のようにある。


たまには外れてみたいな。

そんなことを考えるようになった。ツキ過ぎるのはやはりつまらない。

順調な人生はいい。しかし順調過ぎる人生はただ退屈なだけだ。


たいして勉強もせず難関大学に合格し、上々企業に勤める。


ただそれも昨日までの話だ。

自らツキを手放してみたらどうなるかが知りたかった。

わざと貧しい暮らしに身をおくことでツキからも解放されるのではと思った。


しかし、無駄だった。金持ちの養子の話が持ち上がり、自分はいつの間にか成金になってしまった。

再び、金と欲の生活に舞い戻ってしまう。

やがて養父が亡くなると使いきれないほどの財産が残ってしまった。


彼はこんなところにはいられないとすべての財産や家、株にいたるまでを慈善団体などに寄付し、自分は夜逃げ同然に家を出た。


その道中、どこに逃げるかと思っているとふいに空からお金が落ちてくる。

札束がひとつ、ふたつ、みっつ。


なんだあと空を見上げると沢山の札束が落ちてきてあっという間に札束の山に埋もれてしまった。


翌日のニュースで現金輸送のヘリから誤って数億円の札束が地上に降り注いだというニュースが流れた。

なお、この事故での被害者は一名おり、東京都在住の天野広明さん。天野の笑った顔写真が画面に映る


「ツイてるなあ、この人。札束に埋もれて死ねるなんて」電気屋のショウウィンドウのテレビに向かって下校途中の小学生二人が言う。

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『迷惑な強運』 石燕の筆(影絵草子) @masingan

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