第53話 モブvsファムザの悪霊(その2)


 ◇◇◇



「お前達、餌の時間だぞ! このまま消えたくなければ……こいつの身体を奪い取れ!!」



 ファムザが叫ぶと、4つの人魂は一瞬ゆらりと揺れてその光を増す。直後、俺めがけて突っ込んで来た。



(ッく、なんだ!? 消えたくなければってどういう……ッ!?)


 彼等を傷つけてはいけない。直感的にそう判断した俺は、それらを躱しながら人魂の一つに向けて鑑定を発動させた。




 ◇◇◇


《霊魂:キール》


 呪いの人形に取り込まれていた、サンディ・リゾンの隊員──キールの魂。

 器を壊されて無理矢理引き剥がされた魂は、新たな器を得ようと生者を無意識に求める。ファムザによって使役されている。


 ◇◇◇




「ッな!? キールの魂だと!?」



「ほぉ……気づいたのか。動きから察するに近接戦闘は全くの素人。お前、さては聖職者崩れ何かか? それと、やはりお前はコイツらの仲間だったようだな、これは面白い」



 クククと笑いながらファムザが手を突き出すと、再び人魂は俺に向かって突っ込んでくる。


「行け!! 現世に縛られた哀れな魂ども!! そいつを呪い殺してやれ!!」


 ォォオオォォォ……



 人魂達は悲しげな叫びを上げながらも、俺の身体に吸い寄せられるように幾度も突っ込んできた。もちろん、それに混じってファムザも俺に攻撃を仕掛けてくる。



(ロッチたちの仲間じゃねぇか!! 倒していいのか!? いやそもそも、塩や馬乳酒ぶっかけて倒せるのかこいつら!?)



 5方向から迫る攻撃となれば、流石に避け切るのは難しい。ファムザの振るう短刀に何度か身体を切り付けられた。


 未だ致命的な一撃はもらってはいないが、それでも少しずつ、俺の身体にはダメージが蓄積されている。



「ほらほらどうした酔いどれ小娘、こいつらも浄化したら良いだけじゃないか!! 聖なる酒があるんだろう? 何を躊躇っている!! クハハハハッ!!」



(この野郎……俺に奪った魂をけしかけて楽しんでやがる。くそっ、俺にキール達の魂を消滅させて意気を削ごうってか!? やることが一々陰湿だぜこいつは!!)



 焦る俺の都合など知った風もなく、ファムザは一方的に俺に斬りかかってくる。



(くそっ何かないか!? 何かッ……)



 その時、必死で突破口を探す俺の眼に飛び込んで来たのは、ファムザの背に建っている朽ちかけた祠。そして、そこに供えられた白い花だった。



 そこに感じられた、微かな



 ファムザはなのだ。人形を依代にして人を呪い殺し、悪魔を信奉するような存在だ。何故そんなものが祀られた祠に、花がある?



 そして、ファムザの立ち回り。思い返せば、ヤツはいつも祠を背にして戦っているようだ。まるで、そこに何か存在を見出しているような……



(待てよ、そもそもいったい……この祠には何が祀られているんだ?)



 俺は祠に向けて鑑定を発動させ、そこに映り出された結果に目を見開いた。


 

(……これは!!)



 自然と、俺の口に笑みが浮かぶ。



「何を笑っている小娘!!」



 怒鳴りながらも、キール達の人魂と一体になったファムザの連撃は止まない。


 手数が多すぎる。相変わらず致命傷は受けていないものの、俺が目的を達成するためには、やはり先にキール達の魂をどうにかする必要があるだろう。



「アレが実体の無いものに効くかどうかはわからないが……」



 これはある意味チャンスかもしれない。基本的に、死者の魂は世界を巡っているとラブリエルは言っていた。だが、彼らの魂はまだのだ。だからもし、これが成功すれば……



 できるかどうかじゃねえ、やるしかないッ……!!



 俺は突っ込んできた魂の一つに向けてスキルを発動させる。放たれた青白い光の中、やがて人魂は消失した。



 続く3つの人魂にも同様に右手を突き出し、俺は次々にそれらを消していく。ファムザはいったん攻撃の手を止め、いやらしい笑みを浮かべながら俺を見ていた。



「クハハ……クハハハハッ!! やはり、除霊したか! そうだよなぁ!! もう死んだものの魂なんぞに構ってなどいられないよなあ!?」


 高笑いをしながらファムザがそう告げる。



「……勘違いしているぞファムザ。だが……良いものをいただいたぜ。じゃあ次は、俺がお前に良いものを見せてやろう」



「ハンッ! 何を言っている? 仲間の魂を消し飛ばして気でも触れたか?? だがな、少しだけ判断が遅かったぞ? この短刀には毒が塗ってある。それはお前の傷口から入り込み、徐々に身体を蝕むだろう。何時迄そうやって逃げていられるかな?」



(毒だと……?)


 ステータスを覗くが、状態表示に変化はない。遅効性の毒なのか? 真偽は不明だが、もしもファムザの言葉が本当なら、もうあまり俺に時間は残されていないのかもしれない。



「さあ、そろそろ毒が回った頃合いか? そろそろ終わりにしてやる!!」



 ファムザが俺の胸元に向けて短刀を突き出した。しかし俺は怯まない。進む方向は決まっている。いまはただ──前へ


 腰を落として溜めを作り、加速。


 ファムザの構えた刃と交差して祠へ向かって直進する。一瞬後、頬が裂けて血が噴き出したが、痛みは感じない。この時間を無駄にはできない。



「おいどこへ行く!! 俺はここだぞ!!」



 振り返ったファムザが呼び止めるが、俺は止まらない。勢いのまま祠に迫り、右手を伸ばす。



「…………おいッ!! やめろ!! 頼むッ、それだけはやめてくれぇえええ!!」



 ファムザも俺の狙いに気づいた様だ。その声は絶望に満ち、どこか悲哀さえ感じられる。


 祠に向けて右手を伸ばし、スキルを発動した。



「丸呑み!! 目標は……ファムザの祠!!」



 刹那、右の掌からは大口を開けた蛇──ウロボロスの頭部が現れる。蛇はその身体を伸ばすようにして一瞬で祠に迫ると、それを側面から一呑みに喰らったのだった。



 ◇◇◇

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