第17話 モブは気になって仕方がない!
◇◇◇
あれから数日が過ぎた。
相変わらず、はぐれ苔ウサギとは巡り会えていない。エコーロケーションで定期的に探りは入れているが、必ず逃げられてしまう。
やはり向こうも何らかの感知系スキルを持っていると見て良いだろう。
さて、だからといってこの数日俺が全く何もしていなかったかといえば、そういうわけではない。見てくれこのステータスを。
◇◇◇
種 族:龍種
邪龍ウロボロス
性 別:雌
名 前:──
状 態:普通
レベル:5(5900/6000)
H P:1045(1215)
M P:1215(1215)
攻 撃:972
防 御:365
敏 捷:851
技 力:486
隠 密:729
魔 力:608
精神力:486
スキル:「蛇牙」「丸呑み」「マーキング」「鑑定.LV5」「ステルス.LV4」「空間認知.LV6」「温度感知.LV6」「???」
加 護:「天使ラブリエル」
◇◇◇
レベルアップこそしていないものの、俺は鑑定、ステルス、空間認知、温度感知のスキルレベルをしっかりと上昇させていた。
できる限り短期間でスキルレベルを上げるために、俺はこの谷一帯の苔ウサギを集めまくった。コイツらモブの苔ウサギは本当に動かないので、スキルレベルを上げるにはうってつけの獲物だった。
いま俺の背後には、恐らくこの谷に今いる苔ウサギのほとんどが
壁の裂け目なんかに挟まっていたものも掘り出して集めた。
宝探しのようでけっこう楽しかった。もしかしてウロボロスってそういう習性があるのかな?
鑑定レベルが上がって、苔ウサギの情報にも大分厚みがでてきた。俺は試しに一匹の苔ウサギをロックオン(鑑定の時などに意識を集中させると視界に浮かび上がる照準リングを俺はそう呼ぶことにした)する。
◇◇◇
《鑑定結果.Lv 5》
種 族:獣種・魔物
苔ウサギ
成体
性 別:雄
名 前:──
強 さ:とても弱い
レベル:1
H P:5(5)
M P:10(10)
攻 撃:5
防 御:1000
敏 捷:50
技 力:8
隠 密:500
魔 力:0
精神力:0
スキル:「苔むす」「聴覚強化.Lv1」
説 明:暗くてジメジメした場所を好む夜行性のウサギ。
身体の表面が岩のように硬いので、これが斬れるかどうかが冒険者として一流と二流の差だと言われている。主食は苔、繁殖期を除いて一日の摂取量は大人の拳の半分ほどで足りる。背中に苔を貼り付けているため、じっとしていれば岩と区別がつかない。
その肉には独特の香りがあり、美食家の間では大変な高値で取引されるが、危険な地域に生息していることが多く、流通量は非常に少ない。味だけではなく、経験値もウマい。
◇◇◇
鑑定結果のとおり、コイツらは夜行性でめちゃめちゃ動きが遅い。また食事も一日に苔をほんの少量食べれば足りるようだ。
消費と供給が釣り合うような形になっているのだろう。こうして一箇所に集めてきてからも、お互いの背に自生する苔を食べ合っているだけで何処かに移動していく様子はない。
ここまで集めまくれば、同族の危機にハグリン(はぐれ苔ウサギ)が颯爽と救出に来るかもと思ったが、流石は
その一匹狼を貫く姿勢に、何だか俺も前世を思い出してしまった。
(ふふ、大衆に迎合しないその精神。好きだぜ俺は)
俺は無い指を心の中でサムズアップした。まあ、俺は好きでボッチしてたわけじゃなく単に影が薄かっただけだけどな!
ここ数日で分かったことは、あと他にもある。
それは、この谷の魔物達はスポナーのようなものから自動湧きしているわけではない。ということである。
苔ウサギ達は所謂天然物、自然繁殖によって数を保っているようなのだ。
ウサギ達を一箇所に集めて数を幾らか減らしてみても、谷に新しい苔ウサギがスポーンすることはなかった。
(これが某有名RPGの世界なら何回魔物とエンカウントしてもフィールドから絶滅させるなんて無理なのに……異世界とはいえ、ここはちゃんと現実的なんだな)
詳しくはわからないが、たぶんコイツらを全て食べてしまえば、もう今後はこの谷に苔ウサギが湧くことはないのだろうと俺は直感的に理解した。
だからこの次のレベルアップは、というよりもラブリエルと話す機会はかなり貴重だ。
はぐれ苔ウサギを倒すまでに可能なレベルアップの回数は限られているし、できればこの谷の苔ウサギを絶滅させたくは無い。しっかり繁殖させてからまた経験値集めに訪れたいと思っているからだ。
だが、俺はラブリエルにどうしても
というのも、ここ数日俺は自分のステータスを眺めて自己分析に勤しんでいたのだ。そして、色々と自分の戦闘スタイルやら何やらを考えた。
自分なりの分析結果では、俺の基本的な戦闘スタイルは隠密と敏捷を活かした先制攻撃による一撃必殺特化がいいのではないかと思っている。
それに、俺のステータスにある「???」も気になっている。ラブリエルが素直に教えてくれるかどうかはわからないが、何らかのヒントくらいなら寄越してくれるかもしれない。
だが……そんなことよりも俺が気になって仕方がないのは……
ゴクリ……
俺は苔ウサギを一匹、喉の奥へと押し込んだ。
その瞬間──
『レベルアァァアーーップ!! お久しぶりです萌文様〜、あれ? なんだかとても深刻そうな顔してますね? 眉間に皺が寄っていますよ??』
脳内に残念天使ラブリエルの声が響く。
(ラブリエル……教えてほしいことがあるんだ……)
俺はゴクリと唾を飲み込んで、一言ずつ丁寧に言葉を選びながらラブリエルに語りかける。
『はいはい、なんでしょう??』
ラブリエルの声は相変わらず間伸びしている。
呑気なものである。俺はこれに気がついてからというもの、ウサギも碌に喉を通らないほど気になって仕方がないというのにッ……!!
俺は地面の近くまでゆっくりと顔を下ろすと、舌先をある一点に向けて指し、天使に問いかける。
(この
そこにあったのは、千切った苔を並べて書いた《雌》の一文字であった。
◇◇◇
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