2、冒険者チーム「夜回り」ー2

 

 イスダの魔法の爆発により、碑門エントランスを中心に広大なエリアが波及されている。


 ヤリークがどうにか火炎を飛び散らしたが、魔法の壁に庇られなかった、碑門エントランス周辺の樹幹は焼き焦げ、草葉は炭化され狂風により雲散した。

 半分以上の芝生が消え、土壌が露出し漆黒に彩られた。残り火が僅かに残っている可燃物を貪る。


 なのに、こんな無残な光景の真ん中にあり、≪六狐乱火フォックスファイア≫の直撃を受けた碑門エントランスは真っ白のまま、傷一つなき。



 破壊不可。謎宮自体も、入口である碑門エントランスも。

 それはこの世の法則に反している存在である。



「ふー、危なかったな」


「ヤリーク、ナイス援護」


「……悠久で美しくて、……滅多にない安全な森林が……。イスダ、ヤリーク。俺ら冒険者組合ギルドに除名されるかもな」


 地獄絵図を前にしてゲンの頭が留守になった理由は自然破壊による慙愧の念ではなかった。歴史のあり、浄土とされるヒーラの大森林をこんな酷い有様にして詰責されかねないことだった。


「悠久は間違いないね、確かに千年以上の古樹ばっかりらしい。美しいか、ま、自然美はよくわからないけど居心地は良かった。けどって、……どうでしょうね」


 ゲンに応じながらイスダが碑門エントランスに足を向ける。


 意図がつかめないが、ヤリークとゲンは顔を見合わせたら、さらなる説明を求めずにただついていく。


 碑門エントランスに近づくとその周りに黒焦げた何かがあるのを二人は気づいた。


「……………焼死体。四体か」


 ヤリークが眉根を寄せる。

 瞬間的な高温で面目全非、真っ黒の人型の何かが横たわる。サイズは明らかに人間より大きい。


 人間じゃないとは言え、その凄まじい様子はまだ気分を害する。


碑門エントランスに貼りついてたね。七体いたけど、どっかに飛ばされたんでしょう」


「人型で体色を変えて姿を隠す魔物……、“白幻猿カメレモンキー”か。 碑門エントランスに吸い寄せる冒険者を待ってた? さすが高知能魔物」


 気づかないまま近づくと七体の白幻猿に不意打ちされる。「夜回り」の三人だとしても危ないだったのだろう。


 やりすぎとは言え、三人が無事でいるのもイスダのおかげだった。


「だから、あたしたちは無暗に森林を破壊しちゃうってことじゃなかったね。高危険度上位魔物討伐の巻き添え被害なんだ。仕方がな――」


 一閃。

 シャキーンとイスダの頭上に刀光の弧線が描かれ、神速の居合だった。


 イスダのすぐ後ろに空気が歪み白毛の巨猿が現れる。両手を持ち上げイスダを叩こうとする姿勢で静止した。


 赤色の顔に驚きが浮かび、腹部から両断され崩れ倒れる。


「あら、危なかったね。サンキュー、ゲン」

 振り返ずにイスダは状況を把握しているように、少しの驚きもない。


「余裕さ。またいると思ってたからな。っていうか、隠形してても普通に歩いて来るなんて、猿如きに舐められたんじゃないか」


 ゲンは未だ手を柄から離れようとしない。抜刀の態勢のまま不敵に笑った。


 回視し、不自然な空気流れ二か所に狙いを定める。

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