おまけ:水瀬先輩のパジャマ
久しぶりの休日ということもあって、駅まで買い物に来た。
普段は近くのスーパーで食料品から日用品まで揃えているのだが、今日はそうはいかない。実は仕事用の服を買いに来たのだ。
俺はいつも黒いスーツで出勤しているものの、会社の原則として服装自由であるらしく、他の陽キャたちはありとあらゆるおしゃれコーデをしてきている。
だからさすがの俺も何か新しい服をと考えたのだ。
しかし、さっぱり分からない。どれとどれを合わせれば大人っぽいのか、自分に合っているのかが全く分からない。
店員さんに声をかけるのは陰キャとして気が引けるし、誰か知ってる人と来れば良かったと後悔する。
「あ、あれ、水瀬先輩…?」
ふと目の前を水瀬先輩のような人が通りかかったような気がした。思わず名前を呼ぶと、案の定その人は声につられて振り返る。
「く、黒崎君!?」
あ、勇くんじゃない。
あの呼び方は意識して呼んでいたというわけか…、ふむふむ。
「先輩、奇遇ですね。買い物ですか?」
「はい、そうなんです!勇くんもですか??」
あ、勇くんだ。
俺は自分でも気づかないくらい元気に頷いた。少しずつ水瀬先輩に毒されているような気がしてならない。
でも、ちょうどいい。
あのおしゃれな水瀬先輩に服を選んでもらえば、俺だって陽キャっぽくなれるかもしれない。べ、別になりたいとかじゃないけど。
「あ、あの、もし時間があれば服を――。」
いつもと違って髪を下ろしている水瀬先輩の美しすぎる顔を見ていられず、足元に視線を落とした瞬間、俺は気づいてしまった。
…パ、パジャマじゃね?
下に履いてるの絶対にパジャマだ。
ラフな白いティーシャツの下に、ピンク色の柔らかそうな素材が存在感を露わにしている。
い、いや待てよ。
上もパジャマか…?はたまた、こういうコーデか?
「俺には分からない。誰か教えてくれ!!」
道のど真ん中で大きな声を出してしまい、周りの視線が一気に俺へと集まる。思わず心の叫びを口に出してしまった。水瀬先輩も少し驚いた顔をして、頭の上に?を浮かべている。
「…今日の服装、おしゃれですね?」
俺は勇気を振り絞って挑戦をしてみた。これでも言葉を選んだ方だ。パジャマでなければ「ありがとう!」、パジャマであれば「恥ずかしっ!」が返ってくる完璧な質問だ。
当の水瀬先輩はふふっと笑って「そうですか~?」とその場をひらひら回りながら自分の服装を確認している。
「…あ。」
水瀬先輩は突然動くのをやめて、かぁっと顔を赤くした。
…こ、これはやったか?
俺はその次の言葉をゆっくりと待つ。
しかし、水瀬先輩は何も言わずに猛ダッシュで来た道を走り去ってしまった。
探究心を抑えられず答え合わせをしてしまった自分を叱りながらも、難問に正解したことで少し自信がついた俺だった。
「ごめんよ、水瀬先輩。」
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作者の酸素です。
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