全ては清水のせい
第7話 キャッチコピーをつけましょう①
俺のWEBデザイン会社は、基本的に小規模なグループで活動をしている。
特に事業開発部は複数の仕事が舞い込んでくるため、全体で動くことはほとんどない。各小規模チームにはチームリーダーという存在が一人いて、その人はWEBプランナーという役職に就いている。
WEBプランナーというのは、WEBサイトを作る際にクライアントから要望を聞くなどして具体的なイメージや方向性を定め、UIデザイナーにそれを伝えるという仕事だ。一方の俺たち平社員は、WEBプランナーの補佐として雑用を行う。
「さて、早速だけど何かいいの思いついた?」
水瀬先輩がホワイトボードの前で腕を組みながらこちらを向く。
今日の先輩はなんだかセクシーに感じる。モカベーチュのタイトなノースリーブワンピースの上に羽織っている白ニットで柔らかい印象なのだが、髪がシニヨンスタイルでまとめられているため、すらっとした首筋とうなじを覗くことができ、とても爽やかな女性らしさを演出している。
――え、分析してる俺きもくね?
「黒崎君、いいのある?」
「げっ。」
不意に声をかけられて、お得意の変な声が出てしまった。清水先輩はむっと頬を膨らませて「何ですか?げって。」とこちらに視線を当てる。可愛すぎる顔を直視できない俺は慌てて清水に発言権をパスした。
「あ、清水が良い案あるそうですよ。」
「おい、投げんなよぉ!!え~、そうですねぇ、クライアントの運営してるサイトって転職系ですもんね?」
怒りながらも水瀬先輩と話せる機会を得た清水は、顎に手を当てまんざらでもない様子で仕事の顔をする。水瀬先輩は「逃げたな?」という表情で俺を見つつ話を続けた。
「うん、そうね。今の仕事やめたいと思ってる人が主に利用するから、背中を後押しできるようなキャッチコピーがいいかも。」
清水は持ち前の演技力で「う~ん」と深く悩むフリをしながら、すっと立ち上がり白い長テーブルに両手をついた。
…何やら演説が始まるぞ。
清水は「出来るヤツ」を気取る癖がある。つまりかっこつけたがりなのだ。加えて自己主張も激しい。場を盛り上げたり笑わせたりするのは得意だが、仕事は全く出来ない。
「そもそもぉ、サイトのキャッチコピー考えるのって僕らの仕事なんですかぁ?だって、それWEBデザイナーの仕事ですよ!!」
いつもろくなことを言わない清水だが、これは確かに正論だ。俺たちの気持ちを代表して言ってくれた。ありがとう。
「まぁそうなんだけど、そういう作業はUIデザイナーに任せてないの。」
「…いや確かに水瀬先輩の言うとおりだ。もう少し考えろ、清水。」
「ちょっと黒崎、さっきは僕の言うことに頷いてたくせに!!」
清水はぷんすか怒って席に座り直した。
清水のことは好きではないが、なぜか憎めない。話し方も行動も全て腹が立つが、生意気な少年を見ているようで少し面白い。
ちなみにUIデザイナーとは、UI(ユーザー・インターフェイス)を設計し、メニューの配置、表示の仕方、文字の大きさなどをはじめとするホームページのデザインを担当する役職だ。
俺たちのような中小企業には、プログラミング言語を使ってシステムを構築するコーディングやプログラミングを行うマークアップエンジニアないしプログラマーを雇う余力がないため、これらの作業を全て複数名のUIデザイナーに担当させている。
それではUIデザイナーの負担が大きすぎるということで、その他の雑務やサイト名・キャッチコピーの草案はクライアントと相談しながら開発部が分担することになっているのだ。
「転職なので、『さっさと仕事をやめよう!』とかどうですか?」
「いやいや、黒崎。さすがにそれはださすぎ――。」
俺は無意識に清水の首を掴んで振り回していた。我に返って手を離すと、清水は「お前暴力的すぎ…!」と首筋をさすりながら、ハンカチで涙を拭いている。
先ほどからいろいろと案は出ているが、これだ!というものが見つからない。三人寄れば文殊の知恵というが、「人による」という注意書きが必要だと思う。
一番案を出していないのは俺だが…。
だって怖いのだ。渾身の案も清水にボコボコにされたし…。←ボコボコにしたのは俺だわ。
水瀬先輩に「それダサい」なんて言われたら立ち直れる気がしない。全人類代表の陽キャ女子から否定されるなんて考えただけでもトラウマものだ。
そんな風に考えてしまって、さっきから頭の中に案が出ては消えていっている。
三人で頭を抱えていると唐突に清水が立ち上がった。多分こいつは立ち上がらないと発言できない仕組みか何かなのだろう。
「頭を一度柔らかくした方が良いです!てなわけで、お互いにキャッチコピーをつけましょう!!」
再び訳の分からないゲームが始まった。
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