朝起きたらネコになっていた。

海鼠さてらいと。

ネコになっていた。

朝起きたらネコになっていた。


慣れない耳と尻尾をひょこひょこ動かしながら、前足になった手で布団から這い出した。

鏡を見る。ちんまりとしたネコが居た。

全ての光を吸収する黒い毛に覆われ、その顔には青い光が2つ灯っていた。

何故だか、あまり驚きはしなかった。

僕には家族が居ない。信頼出来る友人も無い。だから僕がネコになろうが、誰一人として困らない。半分空いた網戸からするりと体を滑り込ませ、庭に降りる。

あぁ、空は残酷なくらいに快晴だった。

僕は車の群れを縫い、水溜まりを弾けさせ、ゴミ袋を荒らしながら走った。

通学中の小学生達の足の間を潜り抜け、駐車場に止まった車の隙間を駆け抜けた。

目的なんて考えてない。

それどころか僕は何も考えてない。

雲ひとつ無い空の様に、罅ひとつ無いガラスの様に、まっさらに走った。

一頻り走ってから、僕は立ち止まって考えた。

どうしてネコになったのだろうか?

ニンゲンである事に嫌気が指したのか?

画一化された社会から逃げたかったのか?

ネコに複雑な話は分かる訳が無い。

ただ一つだけ分かる事があるならば。

僕は今日付けで厳重に管理された一人の個体を引退し、名も無き一匹のイキモノになったという事だ。

「これからは自由だ」

ネコは欠伸を一つすると、路地裏へ消えた。


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朝起きたらネコになっていた。 海鼠さてらいと。 @namako3824

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