Pusher's Delight

芥子川(けしかわ)

1

息苦しい社会状況。

それを乗り切る為に麻薬に溺れる人は増加するのだった。

そして、それを売る売人プッシャーも。


駆け出しの 売人プッシャー、ヒロは町中を走ってた。

ヒロを狙う『叩き( 売人プッシャー相手の強盗の意)』に追われてるのだ。


「くそっ! なんで俺がこんな目に!」


ヒロは走りながら悪態をつく。


「おい! 待て!」

「止まれ!」

「止まらないと撃つぞ!」


後ろから罵声を浴びせられる。

ヒロは必死に逃げる。


(しかし、久し振りのお客様が『叩き』とはな…俺もツイてない…)


ヒロは走りながらため息をつく。

ヒロは駆け出しの売人プッシャーだ。

正直、余り売り上げてるとは言えない。

だが、ヒロは売人プッシャーとしての素質があった。

ヒロは逃げ足が速い。

それに、人一倍正義感が強い。

だからヒロは素性不明の混ぜ物は扱わず、太くて確かな卸元からしか仕入れない。その分、値段は高いが、ヒロは気にしない。

自分の生活がかかってるのだ。


ヒロは、この町の外れにある廃工場に逃げ込んだ。

ここは、昔、大きな工場だったが、不況の煽りを受けて倒産。

今は誰も使っていない。

ヒロは廃工場の中に自前の大麻畑を作って、そこで育てたものを難病を患ってる父親の為に渡してるのだ。

おかげで本来食欲を失い痩せる一方だというのに、大麻の作用で健康的でいられる。

これがヒロの親孝行だ。


幸いな事に『叩き』連中を撒くことが出来た。ヒロは廃工場の床に座り込む。


「はぁ、はぁ、はぁ……」


ヒロは息を整える。


「はぁ、はぁ、はぁ……」


ヒロは息を整えながら、これからの事を考える。


「取り敢えずTwitterで報告するか…」


ヒロはいつも使ってる売人プッシャーのアカウントから『叩き』にあったことと叩き連中のTelegramのアカウントを晒し、注意喚起した。

すぐさま同業者の返信が付く。


『大丈夫か? 今、助けに行く』

『今、何処にいる?』

『そいつらの特徴は?』


ヒロは返信する。


『ありがとうございます。でも、大丈夫です。何とかなります。場所は……』


ヒロは場所を伝える。


『分かった。すぐ行く』


ヒロは返信を見て安心する。


「これで大丈夫だろう」


ヒロはそう思い、スマホをポケットにしまう。

その時、廃工場の扉が開いた。


「見つけたぞ!」

「くそっ!」


ヒロは慌てて立ち上がる。


「動くな!」


ヒロは銃を突きつけられる。


「くそっ!」


ヒロは両手を上げる。


「お前がヒロだな?」

「そうだ」

「よくもTwitterで晒してくれたな。もう誰からも引けなくなっちまった…」

「それは自業自得だろ…」

「うるせぇ!」


男はヒロの腹を殴った。


「ぐふっ!」


ヒロは殴られた衝撃で倒れる。


「この野郎!」


ヒロは男に馬乗りされる。


「やめろ! 離せ!」


ヒロは暴れるが、男はヒロを押さえつける。


「大人しくしろ!」

「くそっ!」


ヒロは男を睨む。


「なんだその目は!」


男はヒロの頬を殴る。


「うぐっ!」


ヒロは殴られた痛みで涙目になる。

その時…。


「ヒロ、無事か!?」


同業者のタツが様子を見に来たのだ。


「タツさん!」


ヒロは叫ぶ。


「なんだテメェは?」


男がタツに尋ねる。


「俺はタツ。こいつの仲間だ」


タツは答える。


「仲間だと?」

「ああ、そうだ」

「なら、一緒に痛い目に…」


男が言い終える前にタツの回し蹴りで吹っ飛んだ。


「ぐあっ!」


男は壁に激突して気絶した。


「タツさん、ありがとうございます」


ヒロはお礼を言う。


「いいってことよ」


タツは笑顔で答える。


「く…クソ! また別のTelegramアカウントで接触して叩いてやるからな!」


叩き連中は捨て台詞を吐いて立ち去った。


「全く、困った奴等だぜ」


タツは呆れる。


「本当ですね」


ヒロも同意する。


「まあ、何にせよ、無事で良かった」


タツはヒロの肩に手を置く。


「はい、本当に助かりました」

「よし! ならお前のおごりで昼飯な!」

「えー、そんなー」


そんなヒロも急激に空腹感に襲われた。


「あ、日高屋でいいぜ」

「わかりましたよー」


二人は最寄りの日高屋に昼飯を食べに向かった。

タツはWダブル餃子定食ライス大盛、ヒロは生姜焼き定食を頼む。


「しかし、ヒロ。今日はツイてなかったな」


タツが餃子を頬張りつつ慰める。


「はい…」


ヒロはそういってため息をつく。


「まあ、ヒロは売人プッシャーらしからぬ生真面目さが取り柄なんだけどな」

「いやー」

「余剰在庫が出来ても手を付けたりしないし」

「たまーにやりますけどね」


そんな事を話してヒロはタツと別れた。

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