第364話 階段
「先生、リンダ!!今の内です!!」
「あ、あんた……居たのかい!?」
「ずっと居ましたよ!!失礼ですね!?」
『うがぁっ……!?』
完全にエルマの存在を忘れていたバルルは驚いた声を上げるが、彼女のお陰でブラクは棚に押し潰されて身動きが取れなかった。エルマは今のうちに逃げるように促し、リンダとバルルはすぐにマカセを連れて外へ出る。
3人は医療室を抜け出すとエルマは立ち去り際に薬品棚から取り出したアルコールをばらまく。そしてマッチを取り出すと床に振りかけたアルコールに火を放つ。
「喰らえっ!!」
『ぎゃあああっ!?』
アルコールに火を灯した瞬間に医療室内に炎が広がり、それによって薬品棚に押し潰されたブラクは悲鳴を上げる。エルマはそれを確認すると戸を閉めて逃げ出す。
「これでしばらくは時間が稼げるはずです!!早く外へ逃げましょう!!」
「あ、あんた……地味な癖に意外とやる事が派手だね」
「本当に失礼ですね!?」
「流石は先輩です!!」
前任の生徒会長を務めていたエルマはリンダにとっては尊敬の対象であり、彼女の機転のお陰で状況を脱する事ができた。しかし、時間を稼ぐ事はできても校舎から逃げ出せなければいずれブラクは追いつく。
「くそ、暗いせいでよく分からないね……どっちに行けばいいんだい!?」
「窓は開かないの!?」
「駄目です!!廊下の窓も外側から抑えられています!!」
廊下に出たバルル達は最初は窓から外へ脱出しようとしたが、内側だけではなく校舎の外側も闇属性の魔力が覆い込み、外側から窓が抑えられていた。厄介な事に魔法学園の窓は魔法耐性がある素材で硝子を構成しているため、内側から魔法の光を当てても外側の部分に存在する闇属性の魔力には影響を与えられない。
魔法学園の外へ抜け出すためには外側と内側の闇属性の魔力をどうにかしなければならず、夜明けを迎えれば朝日で闇属性の魔力は完全に消え去るはずだが、それまでの間はどうする事もできなかった。
「くそっ……先生の用心深さが仇になったね!!」
「窓を破壊するのは本当に不可能なんですか!?」
「無理ね、魔物が入ってこれないぐらいに頑丈に作られているから……」
物理攻撃で窓を破壊するのは難しく、そもそも魔物が侵入して来ないように校舎が造り替えられているため、簡単に破壊できる窓を設置するはずがない。折角医療室から抜け出せても脱出する方法がなければ意味を為さず、これからどうするべきか悩む。
「どこか外へ抜け出そうな場所に心当たりはないのかい!?」
「そういわれても……いや、もしかしたら!?」
「あるんですか!?」
バルルの言葉にエルマは天井を見上げ、彼女の行動にリンダは不思議に思うとエルマは天井を指差す。
「屋上よ!!屋上の扉からなら外に出られるかもしれない!!」
「屋上!?どうしてですか!?」
「屋上が最も月に近い位置にあるからよ!!月の光を浴びているなら屋上の扉の外側は闇の魔力で覆われていない可能性がある!!」
「……なるほど、確かにその可能性はあるね」
屋上は最も月の光を浴びやすい位置に存在し、光がある場所なら闇属性の魔力も弱まっている可能性が高い。しかし、屋上まで移動するにしても時間は掛かり、その間にブラクに追いつかれないとは限らない。
「他に考えている暇はないね、早く屋上へ行くよ!!」
「わ、分かりました。マカセ先生は任せてください」
「先頭は私が歩くわ。周りの闇には気をつけて!!」
暗闇の中から黒腕が出現してくるかもしれず、間違っても移動中に捕まらないように気を配りながら三人は屋上へ向かう。医療室に閉じ込めたブラクがいつ脱出して追いかけてくるかは分からないが、一刻も早く屋上へ向かう必要があった。
移動中、バルルは頭痛と吐き気に襲われた。先の戦闘で魔力を殆ど使い切ってしまい、もしも次に魔拳を使用したら今度こそ死んでしまう。
(たくっ……年は取りたくないね。若い頃はもっと動けたのに)
昔の自分ならば怨霊程度に苦戦などしなかったと思いながらもバルルは二人の後に続くと、彼女の背後の暗闇から黒腕が伸びてきた。丁度バルルは階段を登っている最中に苦労では彼女の足を掴み、無理やりに引き寄せる。
「うわぁっ!?」
「先生!?」
「危ない!?」
階段を登っている最中に足元を引っ張られたバルルは大きな声を上げ、それに気づいたエルマとリンダは振り返ると、そこには階段から転げ落ちそうなバルルの姿が映し出された。
片足を黒腕に掴まれたバルルは咄嗟に手すりに手を伸ばすが、届かずに体勢を崩して階段から転げ落ちようとした。しかし、彼女が転げ落ちる寸前に何者かが背後に現れ、バルルの身体を支えた。
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