第365話 最後の賭け
『うがぁあああっ!!』
「ぐあっ!?」
「なっ!?先生!!」
「そ、そんな馬鹿な!?早過ぎる!!」
階段からバルルを受け止めたのはブラクであり、いつの間にか彼女達の後方にまで接近していた。あまりにも早く追いついて来たブラクにエルマは驚き、一方でリンダは捕まったバルルを助けようと手を伸ばす。
バルルはリンダが伸ばした腕を咄嗟に掴もうとしたが、背後から彼女に掴みかかったブラクは身体から黒腕を出現させてリンダの腕を振り払う。彼女は黒腕に阻まれて衝撃の表情を浮かべ、一方でバルルは拘束された状態でブラクが追いついた理由を悟る。
(こいつ……自分の身体から影を作り出して手足に利用しているのかい!?)
現在のブラクは完全な死体と化しており、黒霧が生み出した影魔法で身体を操っているにしか過ぎない。しかし、影魔法を応用してブラクは肉体を操作するだけではなく、新しい影の実体を作り出して追いついて来た。
現在のブラクは最早人の姿を保っておらず、身体のあちこちから黒腕を出現させていた。黒腕を身体に生やしたブラクはリンダとエルマも拘束しようと腕を伸ばす。
『あああああああっ!!』
「きゃあっ!?」
「先輩、下がって下さい!!」
無数の黒腕が迫る光景を見てエルマを守るためにリンダは前に出た。彼女は両手を構えると、風の魔力を腕に纏った状態で腕を回す。
「風輪!!」
『うあっ!?』
回し受けの要領でリンダは腕を回転させると、彼女の正面に渦巻状の風が発生して黒腕を受け流す。本来ならば物理攻撃は通用しない黒腕だが、風の魔法で造り出された風圧は突破できず、全ての黒腕があらぬ方向へと飛ばされた。
リンダの思わぬ行動でブラクの意識が一瞬だけ逸れ、その隙を逃さずに拘束されていたバルルは抜け出そうとした。彼女はもう魔力は残されていないが、それでも掌に残った魔力を集中させて指先に火を灯す。
「喰らいなっ!!」
「ぎゃあああっ!?」
ブラクの目元に目掛けてバルルは指先に灯した火を近づけると、思わぬ攻撃を受けたブラクは悲鳴を上げて床に倒れ込む。この時にバルルも倒れそうになったが、今度こそリンダが彼女の腕を掴む。
「先生!!」
「はあっ、はあっ……!?」
「いけない!!早く上の階へ!!」
最後の魔力を使い果たしたバルルは意識を半ば失い、それを見たエルマはリンダと共に彼女を肩に背負って階段を移動した。ブラクは暗闇の中でもがき苦しみ、最後のバルルの攻撃で片目は潰れた。
二階に上がるとバルルを担いだエルマとリンダは三階に向かおうとしたが、その途中でリンダは階段下を見下ろす。ここで逃げてもブラクに追いつかれる事は間違いなく、彼女はエルマにバルルを任せて先に行かせる事にした。
「先輩は先に向かってください」
「リンダ!?何を言っているの!?」
「奴をここで仕留めます!!それしか方法はありません!!」
「や、止めな……あんたがどうにかできる相手じゃないよ」
リンダが時間稼ぎのために階段を降りようとした時、バルルが彼女の腕を掴んで引き留めた。もう意識を保つのも限界のはずだが、彼女はそれでも教師として生徒を守るためにリンダの腕を掴む。
「馬鹿な真似をするんじゃないよ、自己犠牲なんて格好良いとでも思ってるのかい?」
「先生!!私は……」
「いいから言う事を聞きな!!ここであんたが死んだらあたしだって生きていけないよ!!」
「せ、先生……!?」
自分の犠牲にしてでも足止めを行おうとしたリンダにバルルは叱りつけ、彼女はかつて大切な冒険者仲間を失った。彼女は冒険者時代に圧倒的な存在を前にして仲間を失い、それ以来に誰かを犠牲にするようなやり方は認められなかった。
「あたしの腕輪に嵌め込まれている魔石を使いな……こいつで一か八か、奴を燃やすしかない」
「魔石を……!?」
「でも先生、魔石を壊せば大変な事に……」
「だから一か八かだと言っただろう……これは賭けだよ。全員が生き延びるか、もしくは仲良く死ぬかの二択さ」
バルルは自分が装着していた魔法腕輪から火属性の魔石を取り外し、これを使えばブラクを倒せる可能性はまだ残っている。しかし、失敗すれば全員の身が危険に晒される。
ゆっくりと考えている暇もなく、階段下から無数の黒腕が出現した。それを見たリンダはバルルから受け取った火属性の魔石とエルマが持っているランタンに視線を向け、覚悟を決めた表情で二つを手にした。
「やりましょう」
「リンダ!?本気なの!?」
「はっ……良い度胸だね、気に入ったよ」
『うがぁあああっ!!』
覚悟を決めたリンダに対してエルマは驚き、バルルは笑みを浮かべると階段下からブラクが現れた。彼は全身に黒腕を生やし、階段を登ってくるブラクに対してリンダは両手に持った魔石とランタンを振りかざす。
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