第361話 出来損ないの亡者

「――くそったれが!!いい加減にしつこいんだよ!!」

「バルル先生!!無暗に魔力を使っては駄目です!!」

「くっ……数が多すぎる!!」



同時刻、バルル達は医療室に到着していた。医療室の中には治療中のマカセと彼の様子を見ていたエルマが存在し、暗闇の中から出現する黒腕をバルルは魔拳で振り払う。


火属性の魔拳の使い手であるバルルは闇属性とは相性は悪くないはずだが、どれだけ黒腕を消滅させても新しい黒腕が出現して襲い掛かる。そのせいで彼女の魔力の方が先に限界を迎えそうになり、顔色が悪化していく。



「はあっ、はあっ……くそっ!!窓も扉もどうして開かないんだい!?」

「この黒霧のせいです!!内側から鍵をへし曲げて開かないようにしています!!」



既に校舎内の窓や扉の鍵は黒腕が細工を施し、鍵を開けて外へ出られないようにしていた。それならば窓や扉を破壊して抜け出そうとしたが、生憎と現在の校舎は侵入者対策で頑丈な素材に造り替えられており、扉も窓も簡単には破壊できない。



「リンダ、あんたは窓は壊せないのかい!?」

「やっては見ますが……はああっ!!」



リンダは窓に目掛けて風の魔力を纏った拳を叩きつけるが、彼女の拳は窓に跳ね返されてしまう。生徒が悪戯で魔法を放っても壊れないように窓には魔法耐性が備わった素材も含まれており、リンダ程の腕前の魔拳士でも破壊は不可能だった。



「くっ……駄目です、壊すのは難しいかと」

「くそっ……先生、今回ばかりは恨むよ!!」

「こ、このままだと守り切れません!!早くにここから離れないと……」



部屋の中は既に無数の黒腕に取り囲まれ、今の所はベッドで横たわるマカセを中心にバルル達は奮闘していた。しかし、いくら黒腕を消滅させても切りがなく、このままでは先にバルル達の魔力が尽きてしまう。


せめて強い光を放つ道具があればなんとかなったかもしれないが、生憎とその手の道具は持ち合わせていない。バルルとリンダが所有していたランタンでは光が弱く、せめて部屋全体を照らす程の強い光を放つ物でなければどうしようもできない。



「くそっ……先生は何をしてるんだい!?早く助けに来てくれよ!!」

「どうにか先生に連絡が取れれば……」

「くっ、私にもっと力があれば……」



バルルはマリアが救援に来ない事に文句を呟くが、如何にマリアでも居場所が特定できない状態では彼女達の救出はできない。リンダは窓を破壊できない自分の拳に悔し気な表情を浮かべるが、彼女は足音を耳にした。



「待ってください!!誰かが廊下から近付いています!!」

「何だって!?」

「ど、どういう事!?」



足音を耳にしたリンダの言葉にバルルとエルマは信じられない表情を浮かべるが、人間よりも聴覚が優れているエルフのリンダは耳を澄ます。彼女は間違いなく何者かが廊下を歩いている音が聞こえる



「確かにこちらに誰かが歩いています!!」

「先生かい!?」

「いえ、学園長とは足音が違います」

「そんな事も分かるの!?」



学園長の足音は普段からリンダも聞いているので廊下に現れた人物が学園長ではない事は見抜き、彼女は足音を注意深く聞いてみるが誰なのか分からなかった。



「どんどんと近付いています……もうすぐ到着します!!」

「くそっ、この際は誰でもいいよ!!マオでもミイナでもバルトでもいいから早く来な!!」

「だ、誰!?」



バルルはマリア以外の人間でもいいのでこの状況を打破するために助っ人を求めるが、やがて扉が開け開かれる音が鳴り響く。暗闇の中から何者かが近付く足音がバルル達の耳にも届き、全員が警戒しながら待ち構える。




――暗闇から出現したのは傷だらけの男だった。その男の顔を見た途端、リンダは信じられない表情を浮かべる。男の正体は彼女とマカセが倒したはずのブラクであり、何かったのかブラクは全身に影を纏った状態で現れた。




ブラクの登場に驚いたのはリンダだけではなく、バルルとエルマも同様の反応を示す。現在のブラクは血塗れの状態でしかも影魔法で傷だらけの身体を強制的につなぎ合わせ、動かしている状態だった。



『う、ああっ……』

「な、何だいこいつは!?」

「この顔は……まさか、七影のブラク!?」

「二人とも下がって!!様子がおかしい……!?」



バルルはブラクの傷だらけの顔を見て最初は誰だか分からなかったが、エルマは七影に潜入している時にブラクの顔を確認しているので正体を見抜く。リンダは二人の前に立つとブラクに身構えるが、どうにも様子がおかしかった。


影魔法で全身を動かしているブラクの瞳は虚ろであり、生者の気配を全く感じられない。皮膚の色も傷の具合を見ても生きているとは到底思わず、既に彼の肉体は完全な死を迎えていた。しかし、それでも周りの黒霧がブラクの死体に纏わりついて操っているかのように見える。


ブラクは既に死亡しているが、彼の魂は闇に囚われて現在は怨霊と化した。そして怨霊と化したブラクは自分の死体に取り着く事で疑似的に生き返り、リンダ達の元に現れた。

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