第362話 不死身

『あがぁっ……』

「うわっ!?こ、こいつ……本当に何なんだい!?」

「下がってください!!この男は私が!!」



自らの死体に憑依したブラクは最早まともな意識は持ち合わせておらず、焦点が定まっていない瞳でバルル達の元に近付く。それに対してリンダは今度こそ止めを刺すために右腕に風の魔力を込め、魔光を放ちながら拳を繰り出す。



「はああっ!!」

『がああっ!?』



リンダの拳がブラクに放たれると、魔光を浴びた途端にブラクの身体に纏わりついていた影が消え去る。ブラクの身体は影が消えた事でつなぎ合わせていた部分が崩壊し、上半身と下半身に分断されて床に倒れ込む。



「えっ!?こ、ここまでするつもりは……」

「こ、殺してしまったの!?」

「いや……こいつ、元々死んでるみたいだね。気に病む必要はないよ」



自分の攻撃でブラクが見るも無残な状態で倒れた事にリンダは動揺するが、バルルはいち早く彼の肉体が既に死んでいた事を見抜く。リンダの一撃で死体に憑依していた魔力は消え去った。


倒れたブラクを見て勝負は決したかの見えたが、床に倒れた瞬間に黒霧がブラクの死体に集まり、やがて新しい影が取り着いてブラクの死体を繋ぎ合わせる。



『あああああっ!!』

「そ、そんな!?」

「嘘でしょう!?」

「ちっ……そう言う事かい!!」



死体が吹き飛んでも学園内を覆い込む黒霧が纏わりつき、死体を繋ぎ合わせて再び憑依する。それを見たリンダとエルマは動揺するが、二人よりも経験が豊富なバルルはいち早くブラクに踏み込んで拳を繰り出す。



「爆拳!!」

『ごあっ!?』

「きゃああっ!?」

「くぅっ!?」



本来ならば室内で発動するのは危険な攻撃だが、バルルはブラクが入って来た時に扉が開いているのを確認し、彼を廊下側に吹き飛ばす。爆炎によってブラクの身体を包み込んでいた影は消失し、今度は死体に炎が燃え広がる。


廊下に吹き飛んだブラクの死体は燃え続けたが、時間が経過すると効果が切れて炎は消えてしまう。残されたのは黒焦げとかした死体の残骸だが、黒霧が即座に纏わりついて再び復活を果たす。




――あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙っ!!




全身が黒焦げと化そうと細かい肉片に吹き飛ばされようとブラクは黒霧が生み出す影魔法によって死体を繋ぎ合わせて復活し、それを見たバルルは舌打ちする。



「くそったれが!!こいつ、やっぱり不死身かい!?」

「あ、あり得ない……こんなの怨霊の域を超えています!!」

「……哀れな」



変わり果てたブラクの姿にバルル達は追い込まれ、この状態のブラクを如何に攻撃を加えた所で復活を果たす。生者ならば攻撃を受ければ痛みを感じて怯ませる事もできるが、生憎と死体であるブラクにはあらゆる攻撃が通じない。


バルルの爆拳でさえもブラクの死体を跡形もなく吹き飛ばす事はできず、この状態のブラクを倒すとしたら完全に消滅させるしかない。灰となるまで焼却させれば流石に復活はできないだろうが、そこまでの攻撃を行える魔力はバルルには残っていない。



(くそっ……次の攻撃であたしの魔力も尽きちまう)



これまでの戦闘でバルルは魔力を殆ど使い切ってしまい、こんな事ならばマオのように変換術を極めておくべきだったかと後悔してしまう。



(反省は後だ、こいつをまずはぶっ飛ばす!!)



バルルに残された手段は自分の魔力を使い切ってでもブラクの死体に攻撃を仕掛け、今度は跡形も残らずに焼き尽くすために攻撃を繰り出す覚悟を決める。リンダの魔拳では相性が悪く、彼女の扱う風属性の魔法の性質のせいで相手に衝撃や斬撃を与える事はできたとしても、粉々に吹き飛ばす事が限界で跡形もなく消し飛ばす事はできない。



(女は度胸だ!!)



拳を構えたバルルは残された魔力を右拳に集中させ、最大火力の一撃をブラクに繰り出そうと準備する。それを見たリンダは彼女の意図を察し、この状況を打破するために援護を行おうとした。



「先生、私が隙を作ります!!」

「止めなっ!!あんたはそこに寝ている寝坊助を守ってな!!」

「で、ですが……」

「生徒の分際で教師を心配するんじゃないよ……大丈夫、こんな奴なんて冒険者時代はよく相手にしてたさ」

『うぎぃいいいっ……!!』



最早人間というよりも獣のような声を上げてブラクはバルルの元に迫り、両腕を広げて彼女に飛び掛かろうとした。それに対してバルルは拳を構えようとした瞬間、唐突にブラクは動きを止めた。


飛び掛かる寸前で停止したブラクにバルル達は呆気に取られるが、その一瞬の隙を突いてブラクは右腕を振りかざす。彼はあろう事か右腕に纏っていた影魔法を解除させ、右腕を切り離してバルルに放つ。



「うわぁっ!?」

「先生!?」

「あ、危ない!!」



自らの肉体の一部を切り離して投げつけてきたブラクにバルルは意表を突かれ、彼女は顔面に腕が衝突して注意が逸れてしまう。その間に右腕を失ったブラクはバルルに飛びつく。

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