閑話 《マリアの暗躍》
――盗賊ギルドが本格的にマリアの暗殺計画のために準備を行う中、彼等に命を狙われるマリアも動き始めていた。彼女は学園長室にバルルとリンダを呼び出し、彼女達に指示を与える。
「おいおい、先生……それ、本気で言ってるのかい?」
「冗談でこんな事は言わないわ。これを頼めるのは貴女だけよ」
「いや、そう言われても……どうしてもあたしじゃないと駄目なのかい?」
バルルはマリアの指示を聞いて唖然とした。彼女はこれまでもマリアに頼まれて様々な仕事を行ってきたが、今回の指示に関してはあまりにも拍子抜けする内容だった。
「別にあたしじゃなくても他の奴に任せればいいじゃないかい」
「それは無理ね、貴女以外にこの役目を任せられる人材はいない」
「嬉しい事を言ってくれるけど、本当にこれはあたしじゃないと駄目なのかい?」
「ミイナを守れるのは貴女だけよ」
困った表情を浮かべてバルルはマリアから与えられた指示書を確認し、書かれている内容を見て困った表情を浮かべる。バルルとしては危険な任務を与えられる方が気が楽なのだが、どうしてもマリアはバルルにしか役目を果たせないという。
その一方でバルルの隣に立つリンダは手紙を読んでいた。手紙の主はマリアではなく、学園の卒業生でリンダが尊敬していた人物だった。
「学園長、先輩は……」
「その手紙に書かれている通り、彼女にも任務に就いて貰っているわ」
「ですがこの内容は!!」
「彼女が自ら志願したのよ。自分の能力なら必ず成功できる、だから自分に任せてほしいと頼んできた。私は彼女の実力を知っているからこそ任せたの」
「くっ……」
手紙を握りしめながらリンダは顔を伏せ、マリアの言う通りにリンダの知る相手なら仲間を危険に晒すぐらいなら自らを危険に挑む女性だった。マリアはリンダとバルルに視線を向け、彼女達にしかできない役目を任せる。
「私が学園を不在の間、ここを守れるのは貴女達だけよ。後の事は任せたわ」
「先生、他の教師には相談しないのかい?」
「既に信頼する先生方には連絡は伝えてあるわ」
「信頼する、ね……つまり、先生が信頼できない教師もいるわけかい」
「…………」
バルルの言葉にマリアは言い返さず、沈黙を肯定だと受け取ったバルルもそれ以上の追及はしなかった――
――その一方、魔法学園の教師を勤めるマカセはとある酒場に立ち寄っていた。彼は仕事終わりに酒を飲むのが日課であり、馴染みの酒場に訪れていた。
「ふうっ……いつものを頼む」
「おや、マカセ先生。まだ日も暮れていないのに酒なんていいんですか?」
「大丈夫さ、明日から連休だからな……」
「ほう、それは珍しい」
魔法学園の教師は多忙で滅多に休みは取れない。その代わりに高額な給金が支払われているが、何故か今回に限って複数名の教師に連休が与えられていた。理由としては魔法学園の設備の点検を行うという理由で教師も生徒も数日の間は校舎内に立ち寄れず、その間は休日として英気を養うように通達されていた。
マカセとしては連休は素直に喜べず、三年生の生徒は問題児が多いのでどのように教育を施すべきか悩んでいた。下手に生徒に休みを与えるとまたどんな問題を起こすのか分からずに困っていたが、彼の悩み事はそれだけではない。
「マカセ先生、最近痩せたんじゃないですか?」
「そ、そうか?気のせいだろう」
「いや、痩せましたよ。1年前と比べてやつれてますよ、そんなに仕事がきついんですか?」
「……そうかもしれないな」
酒場の店主の言葉にマカセは俯き、彼は大きな悩み事を抱えていた。そんな彼に店主は酒を注ぐと、ある事に気付いた。
「おや、先生?その痣はなんですか?」
「痣?」
「ほら、首の所に……まさか入れ墨ですか?」
「あ、ああ……なんでもないよ」
マカセの首に黒い蛇のような痣を見つけた店主は不思議そうに尋ねると、彼は苦笑いを浮かべながら隠した――
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