第315話 七影同士の争い
――同時刻、ネカの屋敷にはリクが訪れていた。彼はネカと向かい合う形で坐り、杯の中の酒を味わう。どちらも黙々と酒を味わっていたが、やがてネカが口を開く。
「先ほど、密偵から連絡が届いた。どうやら他の三人組が集まっているらしい」
「ふん……大方、俺達を排除して盗賊ギルドを牛耳ろうとしているんだろうよ」
リクの言葉にネカは返事はしなかったが彼も同じことを考えていた。ゴーノはワンとスリンを取り組み、自分達を潰そうとしている事に気付いていた。
「尤もゴーノの狙いは俺じゃなくてあんたの方だろうな。昔からあんたらは仲が悪かったからな」
「……奴が突っかかってくるだけだ」
「そうかね、俺の目から見ればあんたもゴーノの事を殺したいと思っているように見えるがな」
「余計な口は叩くな」
ネカはゴーノとは因縁があり、二人とも同年代で同時期に盗賊ギルドに加入した。そのせいでお互いに意識し、お互いに負けたくなくて功績を上げて七影にまで上り詰めた。
ゴーノの狙いはリクではなく、ネカを始末する事で彼の拠点を得ようとしていた。七影の中でもネカは資金力が豊富であるため、ゴーノは彼を始末する事でこれまでにネカがため込んだ資金を手に入れ、やがて盗賊ギルドを支配するつもりだろう。
「ゴーノの目的は盗賊ギルドを掌握する事だ。奴にとってワンもスリンもただの捨て駒……大方、計画を果たせば二人とも始末するつもりだろう」
「そして残った奴は盗賊ギルドを一人で支配する……か。流石は策略家だ、やる事が汚い」
「策略家は貴様の方だろう……まさか、この俺と組んであんな計画を立てるとはな」
「あんたには感謝してるよ」
今回のリクの作戦が通ったのはネカの協力のお陰であり、リクは少し前からネカと接触し、彼の協力があったからこそ今回の作戦の準備を整える事ができた。
ゴーノが他の二人と手を組んで盗賊ギルドを支配しようとしているように、実はリクもネカと手を組んで盗賊ギルドを支配するつもりだった。但し、彼の場合は盗賊ギルドの支配など興味がなく、計画終了後はネカの下に就く事を約束する。
「計画が終わり次第、俺はあんたの手足として活動する。奴等を始末すればあんたが盗賊ギルドの支配者だ」
「本当に貴様はそれでいいのか?」
「ああ、俺の目的はシチを殺したあのガキと、あの忌々しい女を始末すればどうでもいい」
「……いいだろう。作戦が成功すればお前は俺の右腕だ」
リクは作戦を立てる際にネカを盗賊ギルドの新たな支配者に成りあがらせ、自分はその下に就く事を条件に作戦の協力をしてもらう。ネカとしては盗賊ギルドの実験を握り、更には優秀な部下が手に入るとなれば断る理由はない。
本当にリクが復讐を果たす事だけが目的なのかは怪しいが、既にゴーノが他の二人と手を組んだ以上はネカもリクと手を組まざるを得ない。流石にネカが一人だけではゴーノ達に対抗はできず、彼は杯に新しい酒を注ぐ。
「さあ、乾杯だ」
「ああ……裏切るなよ」
「それはこちらの台詞だ」
二人は杯を交わすと明日に備えて身体を休める事にした――
――同時刻、拘束された七影のブラクは部屋の中で寝息を立てていた。拷問の後なのか捕まった時よりも酷い怪我を負っており、最低限の治療を済ませた状態でブラクは椅子に括り付けられて眠っていた。
盗賊ギルドの七影であるブラクは有益な情報を持っている事は確かであり、何としても情報を引き出す必要があった。しかし、ブラクはどんな拷問を受けようと口を割らず、むしろ今の状況を楽しんでいる様子だった。
「こいつ、薄気味悪いな……」
「しっ、余計な口を叩くな……目を覚ましたらどうする。目が覚めたらまた騒ぎ出すぞ」
ブラクの見張りは魔法学園の警備兵が行い、この部屋の事を知っているのは一部の教師と兵士だけだった。拷問を行うのも兵士の役目であり、彼等はブラクが魔法を使えないように最善の注意を払う。
影魔法を扱うブラクの弱点は強い光であり、常にブラクは明るい部屋で隔離しなければならない。暗闇と比べて明るい場所では影魔法は効力を失い、怪我を負った状態のブラクでは一般兵士にも逆らえない。しかし、用心のために兵士達は食事や拷問の時以外はブラクには近づかない。
「そろそろ交代の時間だな……たく、さっさとこんな奴は始末しちまえばいいのに」
「同感だな……ん?もう来たのか?」
交代の時間まで間もなく迎えようとした時、予定の時間よりも少し早めに扉がノックされた。兵士の一人が不思議に思いながらも扉の前に移動すると、ここでブラクは目を開く。
(……来たか)
ブラクは寝たふりをしながら兵士の様子を伺うと、扉の鍵を兵士が開けた瞬間、外側から扉が勢いよく開かれて兵士は吹き飛ぶ。
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