第317話 思いもよらぬ遭遇

――マカセを利用して遂に外に抜け出したブラクは真っ先にマオを殺しに向かおうとした。学生に化けて魔法学園に通っていたので彼は学生寮の位置も把握しており、今頃の時間帯ならば生徒達は学生寮で眠っているはずだった。



(殺してやる、あのガキだけじゃない……あいつらも一緒に始末してやる)



ブラクが殺したい人間はマオだけではなく、彼に力を貸したバルトやミイナも含まれていた。勿論、自分を封じ込めたマリアも殺すつもりだったが、流石のブラクも何の策も無しにマリアに挑む程無謀ではなかった。


マリアの恐ろしさは嫌と言う程に知っており、盗賊ギルドの間でもマリアに接触する事は禁じられていた。しかし、ブラクはマリアが苦しむ方法を思いつき、彼女が面倒を見ている魔法学園の生徒を殺せば如何にマリアと言えども責任問題となる。


魔法学園の生徒の中には貴族も多く含まれ、もしも貴族の子供が死ねばマリアは責任を追及されて国から今の地位を剥奪されるだけではなく、何らかの罰を与えられる。いくらマリアが国にとって重要な人間だろうと自分の子供が死ねば貴族が黙ってはいない。



(あの女はここにいないのは調査済みだ……ひひっ、あの操り人形は役に立つな)



事前にブラクはマカセから情報を引き出しており、作戦を実行する前に彼に黒蟲の卵を体内に埋め込んでいたのが功を奏した。本当ならばもっと早く脱出したかったが、マリアの監視が厳しかったので中々抜け出す好機がなかった。


ブラクがマカセを利用していたのは学園に忍び込む一か月前であり、学生に化けるために必要な道具も彼に用意させた。学園の教員であるマカセを味方につけた事でブラクはあっさりと学園内に侵入できたが、一突きになる事があった。



(しかし、あの女がマカセの裏切りに全く気づいていないのかどうか気になるな……)



マリアがマカセと自分が繋がっている事に気付いていないのかブラクは疑問を抱き、ここまではあっさりと脱出できたが実は罠ではないのかと彼は考える。しかし、今の所は学園内にマリアの気配は感じられず、彼女程の魔術師ならばマカセが気づかないはずがない。


盗賊ギルドの中でもブラクは他者の魔力を感知する能力が極めて高く、マリア程の魔術師ならば例え数キロは離れていても感知できる。しかも夜の間ならば彼の闇属性の魔力が高まり、より広範囲に魔力を感知する事ができた。



(マリアは間違いなくここにはいない……俺の思い過ごしか?ひひっ、まあ罠だとしても俺を出した時点で終わりだ)



ブラクは夜の間ならば何者であろうと逃げ切れる自信はあった。彼の影魔法は暗黒空間でこそ真価を発揮し、もしもマリアに見つかったとしても今の彼ならば逃げ切れる自信はある。しかし、ブラクは外を見た瞬間に忌々しい表情を浮かべる。



「ちっ……今日は満月か」



夜空を確認したブラクは苛立った表情を浮かべ、彼は満月の夜が大嫌いだった。満月の光のせいで夜にも関わらず外は明るく、完全な暗闇でなければブラクの真の力は発動できない。それでも日中と比べればマシである事に変わりはなく、彼は気にせずに外に出ようとした。



(さあ、こんな場所からさっさと出るか……ん?)



窓に手を伸ばして外へ飛び出そうとしたブラクだったが、何故か廊下の方から足音が聞こえてきた。不審に思ったブラクは自分の身体に影も纏わせ、暗闇の中に紛れ込む。


全身が影に覆われた事で建物内の影と一体化したブラクは完璧に姿を隠す。気配すらも完璧に消したブラクは足音の主を確かめようとした。



(誰だ?まだ学校に人が残っていたのか……人だと?どういう事だ!?)



ここでブラクは違和感を抱き、彼の魔力感知の能力では校内には自分と先ほど別れたマカセ以外には魔術師の気配は一切感じられなかった。それにも関わらずに校舎内に足音が響いている事にブラクは疑問を抱き、何者かと警戒心を抱く。



(魔力は全く感じられない……一般人か?いや、そうだとしても全く魔力を感じないのはどういう事だ!?)



魔力とは生命力その物であり、仮に魔術師でない人間が校内に入り込んでいたとしても全く魔力を感じないのは有り得ない事だった。不審に思ったブラクは影魔法を解除して足音の主が現れる前に逃げ出そうとしたが、唐突に足音が消えた。


足音が聞こえなくなった事でブラクは疑問を抱き、彼は影魔法で身を隠したまま動けなかった。長年の勘が不用意に動けば大変な事態に陥ると告げ、警戒心を高めたままブラクは廊下の様子を伺う。



(……あれは!?)



やがて廊下に人影が現れると、ブラクはその人物を見て驚愕した。彼が学生に化けて学園に潜伏していた際、マリアと同じく警戒していた人物が姿を現わす。

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