第294話 思いもよらぬ助っ人

(やばい、このままだと魔力が……このっ!!)



吸魔石や吸魔腕輪で訓練をしていた頃の事を思い出し、触手から奪われようとする魔力をマオは留めようとした。その一方で男のほうは拘束したマオに杖を構えながらも他の三人に視線を向ける。


倒れている三人も何時の間にか男の影の触手に捕らえられており、特にゴヨクは顔色が悪く、身体が痙攣していた。先ほどの戦闘と男の魔法で彼は魔力を奪われ、もう間もなく限界を迎えようとしていた。



「ひひっ……お前等のお陰で良い実験結果が手に入った」

「実験……!?」

「そうだ、この馬鹿に薬を渡したのは……俺だ」



男は触手に囚われているマオに見覚えのある薬瓶を取り出し、先ほどゴヨクが飲み込んだ薬と同じ物であるとマオは気付くと、彼をけしかけたのが男の仕業だと知って怒りを抱く。



「まさか、ゴヨクが持っていた薬は……!?」

「そうだ、俺が開発した薬だ。まあ、まだ試作段階の薬だからな……こうも暴走して理性を失うようじゃ使い物にならないな」

「このっ……!!」

「おっと、無駄な足掻きは辞めた方がいい。その気になれば今ここでお前を殺す事もできるんだぞ」

「ぐふっ!?」



マオを拘束する影の触手が無理やりに彼に立たせ、強制的に男の元へ歩かせる。マオはどれだけ力を込めようと触手は引き剥がせず、男はマオよりも彼の持っている杖に興味を抱く。



「お前、変わった杖を持っているな……それは魔杖か?」

「……違う」

「そうか、確かに改造を加えているようだが普通の杖のようだな……だが、面白い。俺のコレクションに加えてやる」



男は杖を振るとマオの右腕に纏わりついた触手が無理やりに彼の腕を伸ばさせ、男はマオの持つ三又の杖を奪おうとした。だが、それを見たマオは反撃の好機だと判断して魔力を集中させる。


普通ならば影の触手に捕らわれた人間は魔力を乱されて魔法を使えなくなるが、吸魔石や吸魔腕輪で魔操術を鍛え上げてきたマオならばこの状態でも魔法を放つ事ができた。不用意に近付いてきた男に対してマオは至近距離から魔法を放つ。



「喰らえっ!!」

「ぐうっ!?」



杖を奪い取ろうとした男に対してマオは魔法を発動させ、三又の杖から三つの氷弾を同時に放つ。男は至近距離から氷弾を受けて悲鳴を漏らすが、すぐに笑みを浮かべてマオに振り返る。



「残念だったな」

「なっ!?」



男は服をはだけると何時の間にか内側に影の鎧をまとっており、どうやら会話中も男は自分の服の裏に影の鎧をまとっていたらしい。だからこそマオが放った三つの氷弾は男の来ていた服の一部を破る事しかできず、攻撃を無効化された。



「ひひっ、お前の噂はよく耳にしているぞ。氷の魔法の使い手だとな……だが、お前の氷は俺には通じない」

「くそっ……」

「だが、これで確信したぞ。お前がシチを殺した魔術師だな?」

「……シチ?」



シチという名前にマオは呆気に取られるが、そんな彼を見て男は笑みを浮かべた。そして改めて男はマオに対して名乗り上げる。



「そういえばまだ名前を名乗っていなかったな……俺の名前はブラク、お前が殺したシチの同僚だ」

「まさか……!?」



マオはシチの名前は知らないが、男の話しぶりから察するにかつてマオが倒した魔術師だと気付く。バルルを死の寸前にまで追い詰めた恐るべき女魔術師であり、魔杖と呼ばれる特殊な杖を所持していた。


シチの同僚を名乗るブラクも当然ながら盗賊ギルドの人間であり、しかも彼の場合はシチと同格の立場である。つまりは彼も「七影」の一人であり、ブラクという名前も本名ではない。しかし、そこまで正体を明かす義理はないため、ブラクはマオの杖を取り上げようと手を伸ばす。



「さあ、そろそろお前も死んでもらうぞ」

「や、止めろ……!!」

「ひひっ、安心しろ。殺しは……!?」



ブラクは三又の杖に手を掴もうとする寸前、彼の背後から赤色の光が放たれた。咄嗟にブラクは振り返ると、そこには右手に炎を纏った鉤爪を装着したミイナの姿があった。



「炎爪!!」

「ちぃっ!?」

「うわっ!?」



ミイナはブラクに大して炎の爪を放つと、咄嗟にブラクは後ろに下がった。この時にマオを拘束していた影の触手がミイナの炎爪から放たれる光を浴びた途端に色が薄まる。



「マオを離してっ!!」

「ぐっ……!?」

「わわっ!?」



ブラクに大してミイナは炎爪を振り払うと、先ほどとは打って変わってブラクは焦った表情を浮かべて彼女から距離を取る。するとマオや他の三人を拘束していた影の触手がブラクの元に戻り、全員が拘束から解放された。


身体が自由になったマオは驚いてブラクの様子を伺い、彼はミイナが現れた途端に顔色を変えて警戒していた。一方でミイナの方はマオを庇うように前に立つと、彼女は珍しく怒った様子でブラクに告げる。



に手を出さないで」

「こ、小娘が!!調子に乗るな!!」

「いや、調子に乗ってんのはてめえの方だろうが」

「何!?」



ミイナに向けてブラクが杖を構える前、何処からか声が聞こえてきた。マオは声のした方に振り返ると、そこには屋上の扉から杖を構えるバルトの姿があった。

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