第283話 同級生

――マオはミイナにこれまでの事情を話すと、彼女は納得してくれたのか解放してくれた。しかし、話を聞いた後もミイナはベッドに横たわるマオの背中に抱きつき、部屋から出て行こうとしなかった。



「ミイナ、そろそろ女子寮に帰りなよ。また怒られるよ?」

「大丈夫、朝までに戻ればいい。それより1日分のマオ成分を回収する方が先」

「何だよそれ……ちょ、胸が当たってるって」

「当ててる」



ミイナはわざとらしく胸を押し付けるように抱きつき、マオはそんな彼女に頬を赤らめながらも気分を紛らわせるために話題を変える。



「そ、そうだ!!ミイナにお土産があるんだった……これ、受け取ってくれる?」

「……これは?」

「ドルトンさんに預けてたでしょ?ほら、魔石は僕が用意したよ」



マオは彼女の魔法腕輪を取り出して渡すと、ミイナは魔法腕輪を見て驚き、特に取り付けられている魔石を見て目を見開く。マオが用意した魔石は市場でも滅多に手に入らない一級品の魔石であり、まるで宝石のように光り輝く魔石にミイナは見惚れる。


魔法腕輪を受け取ったミイナは大切そうに抱きしめ、こんな綺麗な魔石を用意してくれたマオに感謝の気持ちを抱くのと同時に本当に受け取っていいのかと尋ねる。



「これ、貰っていいの?」

「遠慮しなくていいよ」

「……あいがとう、マオ。大好き」

「わっ……ちょ、ちょっと」



ミイナは嬉しそうにマオに抱きつき、彼の頬に口づけを行う。ミイナの行動にマオは戸惑うが、その一方で彼女は魔法腕輪を取りつけると部屋の窓に駆け込み、そのまま外に飛び出そうとした。



「早速試してくる」

「え、ちょっ……ミイナ!?」

「ばいばい、また明日ね」



新しい魔法腕輪の性能を確かめたくなったのかミイナは最後にマオにウィンクを行うと、そのまま窓を乗り越えて外に飛び出す。マオが窓に駆けつけた時には既に彼女の姿は見えず、口づけされた頬に手を押し当てながらマオはため息を吐く。



「全くもう……」



残されたマオはベッドの上に戻るが、しばらくの間はミイナの唇の感触が忘れられずに眠る事ができなかった――






――翌日、ひと眠りした事でマオは魔力を完全に回復させると、食堂で朝食を食べた後にこれからどうするべきか考える。いつもならば両親の仕送りのために学園の外に出向いて魔物退治を行い、倒した魔物の素材を冒険者ギルドで換金していたが、今回は臨時収入があったのでその必要はない。



(昨日貰った報酬、凄い額だったな……これなら父さんと母さんの仕送りもしばらくは大丈夫だな)



マオが金を稼ぐ理由は故郷に残した両親に楽させたいためであり、休日は魔物退治に出向いて金銭を稼いでいた。しかし、大商人のネカに受け取った報酬はマオがこれまで稼いだ金額の何倍もあり、これだけあれば危険を犯して無理に金を稼ぐ必要はない。


早速受け取った報酬を両親の仕送りのために送ろうと考えた時、マオの前に数名の生徒が寄ってきた。その生徒達の顔を見てマオは面倒そうな表情を浮かべた。



「よう、月の徽章の生徒がお通りだぜ」

「ふん、学園長に依怙贔屓されている奴はいいよな。自由に外に出入りできてよ」

「俺達が外に出る時は面倒な手続きをしないといけないのによ」

「……また君達か」



マオに絡んできた生徒は同じ三年生であり、カマセが担当する生徒達だった。彼等は最近、マオによく絡んできた。理由は彼等がミイナに好意を抱いており、そんな彼女と仲が良いマオに嫉妬していた。



「おい、お前調子に乗るなよ。少しばかりバルト先輩に可愛がられたり、ミイナさんと同じ教室で授業を受けてるからって偉そうにするなよ」

「別に偉そうなんて……」

「はっ、よく言うぜ!!昨日も夜遅くに戻ってきたんだろ?外で何をしていたんだ?言ってみろよ、おい!!」

「そんな事、答える必要ないよ」

「ちっ、俺達より魔力量が低い癖になんで学園長は何でお前なんかに月の徽章なんて……」

「……ねえ、魔力量が低いの事に何が悪いの?」



絡んできた生徒の一人の言葉にマオは素朴な疑問を問いかける。確かにマオは彼等と比べたら魔力量が低いが、それがどうして自分が彼等に劣る理由になるのかを問う。



「魔力量が低いからって何なの?魔力量が大きい方が偉いの?」

「あ、当たり前だろ!!俺達はな、お前の何倍の魔力を持ってんだぞ!!だから……」

「だから?」

「え、えっと……と、とにかく凄いんだ!!」

「何が凄いのかを教えてよ」

「く、くそっ!!調子に乗りやがって!!」



マオの質問に明確な答えを出せない同級生たちは反射的に杖に手を伸ばすが、それを止めたのはマオではなかった。



「おい、何やってんだお前等!!寮内での争いはご法度だぞ!!」

「ひっ!?」

「バ、バルト先輩……」

「い、いや、これはですね。ちょっとふざけてただけですよ」



廊下に現れたのは五年生に上がったバルトであり、彼の姿を見た瞬間に同級生は顔色を変えてわざとらしく愛想笑いを浮かべ、仲良さげにマオと肩を組む。そんな彼等を見てバルトは鼻を鳴らす。

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