第257話 夢を捨てた人間と夢を諦めぬ人間

「はあっ、はあっ……!?」

「くっ……流石に頭が痛くなってきた」



炎の魔剣を維持するリオンも相当な魔力と体力を消耗したが、何十発も氷弾を生み出したマオも限界が近付いていた。二人は魔法を解除して一旦距離を置くと、リオンはマオを睨みつけた。



「こんな、小手先の技術で……俺に勝つつもりか!?お前に誇りはないのか!?」

「はあっ……好きに言えばいいよ」

「見損なったぞ……貴様の目指す一流の魔術師はこんな姑息な真似はしない!!正々堂々と戦えないのか!?」



リオンはマオに魔術師としての誇りがないのかを問い質すが、その言葉に対してマオは迷いもなく答えた。



「魔術師である事を捨てた奴に……そんな事を言われる筋合いはないよ」

「っ……!?」



マオの言葉にリオンは言い返す事はできず、マオは三又の杖を見てしばらく考えた後、腰に差していたリオンから受け取った杖に持ち替える。それを見たリオンは呆気に取られ、彼は呆然と呟く。



「その杖、まだ持っていたのか……?」

「捨てられるはずがないよ。だって……僕は魔術師なんだから」



以前にリオンに託された杖を手にしたマオは彼に向けると、リオンは魔剣を構えた。しかし、もうリオンには炎の魔剣を発動させる魔力は残されておらず、魔剣を構える体力も限界だった。


もうこれ以上に戦う事はできないと察したリオンは黙って立ち尽くし、構えていた魔剣を下ろす。それを見た者達は驚くが、リオンはマオを正面から見つめて答える。



「……お前の勝ちだ」

「リオン……」

「やれ……終わらせてくれ」



マオはリオンの言葉に驚いたが、覚悟を決めた表情を浮かべたリオンを見てマオは杖を構えた。そして残された最後の魔力を振り絞り、杖先から小さなを放つ。



「やああっ!!」

「っ――!?」



氷の破片はリオンの頭部に的中し、粉々に砕け散った。頭部に衝撃を受けたリオンはゆっくりと後ろ向きに倒れ込み、それを見たマオは彼の元に駆けつける。


リオンが床に倒れる前にマオは彼の身体を抱き留める事に成功し、この時にリオンは薄れゆく意識の中でマオの顔を見た。マオもリオンの顔を見て彼に声をかけた。



「リオン!!」

「……マオ」



お互いの名前をまともに呼び合うのは二人とも初めてであり、マオの腕の中でリオンは意識を失った――






――リオンは白い靄に包まれた場所に立っていた。彼は周囲を振り返り、自分が何処にいるのかと戸惑う。



「ここは……夢か?」



自分が夢を見ている事に気づいたリオンはため息を吐き出し、目が覚めるまで待つ事にした。この時に彼は頭に手を伸ばし、最後に受けたマオの魔法を思い出す。



「あんな小さい欠片程度の攻撃で敗れるとはな……」



最初に出会った時のマオも氷の欠片しか作り出せなかった事を思い出し、あの時のリオンはマオが魔術師として大成は出来ないだろうと考えた。しかし、現実は自分をも超える魔術師として成長した彼に嫉妬心すら抱く。


魔術師になる事は諦めたつもりだったが、やはり心の何処かではリオンは魔法剣士として生きていく事に不安を抱いていた。しかし、マオに敗れたお陰か今の彼の気分は晴れやかだった。



「兄上……もう僕は、いや俺は迷いません」

「……それでいいのかい?」



背後から感じ取った気配に気づいたリオンは振り返りもせずに告げると、後ろから懐かしい声が聞こえた。きっと振り返ればそこにはリオンがずっと会いたかった人物の顔が見れるだろうが、それでも彼は振り返らずに答える。



「リオン、君は一流の魔術師に成れる素質を持っている。もしも僕のせいで魔法剣士を目指そうとしているのなら……」

「それは違います。確かに切っ掛けは兄上のためだったかもしれません。ですが……今は新しい目標ができました」

「目標?」



リオンは立ち上がると彼の手元には何時の間にか魔剣が握りしめられ、それを見たリオンは天に魔剣を掲げて告げる。



「今の俺の夢は……どんな魔術師にも負けない魔法剣士になる事です」

「リオン」

「もう後悔はありません。俺が目指すのは……最強の魔法剣士です」



マオに敗れた事で魔術師になる事から吹っ切れ、彼はマオに負けた悔しさをばねにして最強の魔法剣士になる事を目指す。そんなリオンの返答を聞いて満足したのか、兄の気配は消え去った――






――リオンは目を覚ますと、自分がベッドの上に横たわっている事に気付く。傍にはジイの姿があり、リオンが目覚めるまで待ち惚けだったのか瞼を閉じた状態で涎を垂らして身体をふらつかせていた。



「ううっ……王子~」

「……寝ているのか」



座ったまま眠り込んでいる自分の配下に呆れながらもリオンは身体を起き上げると、額に手を伸ばした。特に傷跡は残っておらず、完璧に治療されたらしい。



「……一からやり直しだな」



外の景色を眺めながらリオンはもう一度やり直す事を決め、再びこの学園を離れて修行する事を決めた――

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