第258話 そして3年後……

――リオンとの決闘から二年以上の月日が流れ、マオは晴れて魔法学園の三年生に昇給した。ミイナは四年生、バルトは五年生に昇級し、そしてリオンもマオと同じく三年生に昇級した。


彼が三年生に昇給する間は特に大きな問題も起こらず、日々魔法の鍛錬に励んでいた。身長も伸びて髪の毛も大分長くなり、何故か髪の毛の方はすぐに切っても伸びるようになったため、現在は髪の毛を後ろにまとめている。



「ふうっ……」



学校の屋上にてマオは空中に浮揚させた氷塊の上で座禅を行い、彼の周囲には無数の小さな氷塊が浮かんでいた。三年生に昇給したマオは魔力操作の技術をさらに磨き、今では50個を超える氷塊を操れるようになっていた。



「よし、こんなもんかな」



空中に浮かんだ氷塊の上でマオは立ち上がり、氷塊から降りようとすると彼の周囲に浮かんでいた氷塊が移動して足場となる。氷塊を操作して降りる前に新しい足場を作り出し、まるで階段を降りるようにマオは氷塊の上を降りていく。



「う〜ん……やっぱり、精神鍛錬するなら静かな場所が一番かな」



屋上に降り立つとマオは背を伸ばして身体を解し、屋上から学園の様子を伺う。3年の間に魔法学園は特に変わった様子はないが、異なる点があるとすれば生徒の数だった。


朝の精神鍛錬を行っている間に既に生徒達の登校時間を迎えていたらしく、マオは屋上から地上の様子を確認すると十数名の生徒が登校していた。今年の新入生は例年よりも数が少なく、現在の魔法学園の生徒の数は100人にも満たない。



(今年の新入生はこれだけか……何だか寂しいな)



後輩達の姿を見てマオはため息を吐き出し、ここ数年の魔法学園の生徒は減少していた。元々魔法の才を持つ人間が滅多に生まれないが、ここ最近は魔術師の素質を持つ子供の数が減っていた。



「学園に在籍中の生徒も何人か辞めちゃったし……大丈夫なのかな」



魔法学園の生徒は一定の評価を得られないと昇給できない仕組みとなっており、年内に必要な評価を得られなかった生徒は留年かあるいは退学する事になっている。そして生徒の何名かは辞めてしまう。


マオとは同級生だった生徒の中にも退学者は含まれ、退学の理由は様々だった。評価を得られずに留年になった事で自暴自棄を引き起こし、問題を起こして退学になった生徒もいれば、魔法学園で学ぶよりも別の人間に教えを乞いたいと判断して学園を去る生徒もいる。



(学園長以上に優れた魔術師なんていないと思うけどな……)



魔法学園を去って別の魔術師の元で魔法を学ぼうとする生徒の考えをマオは理解できず、マリアこそが国内で一番の魔術師だと彼は確信していた。実際にマリアは魔法学園の学園長を務めながらも様々な形で国に貢献している。


最近では魔法学園の卒業生を集めてマリアは新しい組織を立ち上げた。その組織の名前は「黄金の鷹」と名付け、主な活動内容は「派遣」だった。優秀な魔術師や魔拳士が必要な人間に組織に所属する人間を派遣し、成果を上げれば報酬を受け取る。マリアが認めた魔術師は全員が腕利きのため、国内でも人気が高い。


黄金の鷹にはバルルも所属しており、彼女は宿屋の主人と教師でありながらもマリアのために組織に加入して活躍していた。時々、どうしても人手が足りない時はマオ達もバルルの手伝いとして仕事に参加する事もあった。



「さてと、今日はリオンが戻ってくる日だったな」



マオは手紙を取り出すと差出人にはリオンの名前が記されていた。リオンとは決闘の日以来、定期的に手紙のやり取りを行う。彼は月に一度ぐらいしか魔法学園に戻らず、現在は高名な魔法剣士の元で修行をしているらしい。


昔のリオンならばマオにわざわざ手紙を書くような真似はしなかったが、決闘を通して二人は和解して今では一番の親友のような関係になっていた。また、ミイナやバルトとの関係も良好で今日の放課後はバルトの修行にマオもミイナも付き合う約束をしていた。



「さてと、今日は何をしようかな」



本日の授業は担当教師であるバルルが不在のため、彼女からは自習を命じられていた。そのためにマオは教室に戻らずここで訓練でも行おうかと考えた時、彼はある事を思い出す。



「あ、そうだ。ドルトンさんに頼んだ装備の点検が終わってるかも……ちょっと行ってみようかな」



マオは少し前にドルトンに自分の装備の手入れを頼んだ事を思い出すと、彼は小杖を取り出す。学園側が支給する小杖であり、自分の足元に杖先を向けると彼は氷板を作り出す。



「出発!!」



気合を込めた声を上げると、マオが乗り込んだ氷板が浮上して空中に浮上し、一年生の時とは比べ物にならない移動速度で空を飛ぶ。一年生の時よりも魔力操作の技術を磨いたお陰で現在のマオの氷板の移動速度は馬よりも早く、なによりも障害物に邪魔をされずに移動できるので目的地であるドルトンの鍛冶屋まで直行した――






※これにて下級魔導士と呼ばれた少年は終わりとさせていただきます。元々、優秀なリオンにおちこぼれのマオが追いつくまで描く予定でしたが、思いもよらずかなりの長い話になりました。


まだ色々と書きたい話はありますが、とりあえずは一旦完結とさせていただきます。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る