第249話 魔剣

「おい、マオ!!言っておくが決闘でわざと負けるんじゃねえぞ!!あいつが可哀想だからって手を抜いて負けたら許さないからな!!」

「いや、流石にそんな事は……」

「あれだけ負けた後に果たし状を送り込むぐらいだから、きっとリオンも何か考えがあるはず。油断しない方がいい」

「たくっ……言っておくがあたしは今回の決闘には関わらないからね。あんたには助言しないし、その代わりにリオン君にも手助けはしない。それでいいね?」



今回の決闘に関してはバルルは関わるつもりはないらしく、彼女は二人の間で決着を着けるように告げる。いつものバルルならばマオに適切な助言を与えてくれるのだが、リオンが関わると知った途端に非協力的な彼女にマオは不思議に思う。



「師匠、リオンとはどういう関係なんですか?もしかして師匠が僕に手助けをしてくれたのは……」

「そ、そんな事はどうでもいいだろう!?あんたも一回勝ったぐらいで余裕こいてると後悔するからね、ちゃんと決闘まで準備しておきな!!」

「よし、マオ!!あいつに勝つためなら俺も協力してやるぞ!!決闘の相手役なら任せろ!!」

「私も協力する」



マオが決闘する覚悟が決まるとバルトとミイナも協力する事を告げるが、二人の申し出にマオは嬉しく思うが、ここで彼は思い留まる。



「いや……二人とも気持ちは有難いけど、僕一人で大丈夫だよ」

「は?何でだよ?」

「どうして?私達じゃ……先輩じゃ役に立たない?」

「おい、なんで言い直した!?」

「そういう事じゃなくて……その、リオンが一人で戦うのなら僕も一人で頑張りたいと思って」



リオンが自分に挑むつもりならばマオも誰の力も借りず、自分だけの力でリオンと戦いたいと思った。だからマオは二人の協力を拒み、自分自身で決闘までの間は準備を整える事にした。



「師匠、決闘は一週間後でしたね」

「ああ、細かい内容は手紙に書いてるから自分で確認しな」

「分かりました。二人とも、悪いけど協力はいいよ」

「まあ、お前がそういうなら別にいいけどよ……」

「マオ、油断禁物」

「分かってるよ」



先の試合でマオがリオンに勝てたのは彼がバルトとの試合を経験していたお陰であり、もしもバルトとの試合をしていなかったらマオはリオンの繰り出す魔法に冷静に対処できなかったかもしれない。


スラッシュもスライサーもマオはリオンとの試合で経験していたからこそ対処できたが、もしも初見ならばマオはどのように対抗すればいいのか分からずに敗れていた可能性もある。



(リオンは強い、でも僕だって強くなったんだ!!)



リオンとの決闘の期日までにマオ自身も自分がもっと強くなる方法を考え、残り一週間の間に彼はリオンに打ち破る方法を考える事にした――






――同時刻、魔法学園から離れたリオンは王城へと戻る。彼は城内に存在する訓練場にて無心に剣を振っていた。その様子を離れた場所で彼の配下の騎士達は見守る。



「リオン王子、何があったのでしょうか……折角、魔法学園に戻られたと思ったら城に引き返してくるなんて」

「うむ、儂も気になって聞いてみたがなにも答えてくれんかった。しかも一人で訓練すると言い出して聞かんのだ」



リオンは配下の騎士から剣の指導を受けず、自分一人だけで鍛錬を行う。その様子を騎士達は心配そうに眺めるが、リオンは無心に剣を振る。



(雑念を捨てろ、もうあいつは俺よりも魔術師の高みにいる……ならばくだらない誇りなど捨ててしまえ!!)



心の中でマオの姿を思い浮かべながらリオンは熱心に剣を振りかざし、彼は魔力を込めると刀身部分に風が渦巻き、そして柄の部分に嵌め込まれた火属性の魔石が輝く。


リオンは風属性の適性しかないが、彼が扱う剣は只の剣ではない。この国に代々伝わる宝剣であり、伝説の火竜の素材を利用して作り出されたと言われる「魔剣」をリオンは使いこなすために剣を振りかざす。



「はあああっ!!」



刀身に風の魔力が渦巻くと、柄に嵌め込まれた魔石が光が輝き、刀身部分から炎が発火した。風と火の魔力が組み合わさり、炎の竜巻と化して刀身を包み込む。それを見た騎士達は慌ててリオンに声をかけた。



「王子!?いけません、まだその剣の力は……」

「お辞め下さい!!」

「……黙れ!!」



魔剣の力を解放しようとするリオンに騎士達は騒ぎ立てるが、リオンはそんな彼等を一括して剣を振りかざす。彼が剣を振り下ろした瞬間、爆炎が発生して訓練場の一部の地面が吹き飛ぶ。



「お、王子ぃいいいっ!!」

「そんなっ……」

「何て事をっ!?」



地面に剣を叩き付けた瞬間にリオンの身体は爆炎に包み込まれ、それを見ていたジイ達は慌てて彼の元へ駆けつける。やがて地面から舞い上がっていた煙が晴れると、そこには信じられない光景が映し出されていた。



「はあっ、はあっ……」

「お、王子!?ご無事でしたか!?」

「……見ればわかるだろう」



黒煙が晴れるとそこにはリオンがの状態で立ち尽くしており、彼の周囲にはまるでクレーターのように爆発の衝撃で地面が盛り上がっていたが、リオン自身は火傷どころか掠り傷一つ負っていなかった。


凄まじい爆発が起きたかと思ったが、爆発の中心地に存在したリオン自身は怪我一つなく、彼は魔剣を見つめて笑みを浮かべた。これまでの訓練では一度も成功しなかったが、遂に彼は魔剣の力を完全に制御する事に成功した――

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