第250話 負けたくない
――自分一人の力でリオンに挑む事を決めたマオは他の人間の手を借りず、どのように彼を倒すのか自分で考えて行動する事にした。しかし、決意してから1日ほど経過してもマオはリオンを倒すための手段が思いつかない。
「う〜ん……リオンを倒すと言ってもどうすればいいのかな」
先日の試合ではマオはリオンに勝利したが、あれは最初からリオンが本気を出してこなかった事、そしてバルトとの試合の経験が大きい。本人達は否定したがるだろうが、リオンもバルトも同じ系統の魔術師であるせいか戦い方は似ていた。
あくまでもマオの見立てだがリオンとバルトにはそれほど大きな力の差はなく、先日の試合でもリオンが使用したのは過去にバルトが利用した魔法だけである。リオンの年齢で三年生のバルトが扱う魔法を使用するのは凄い事だが、生憎とマオはそれらの魔法の対処法は知っている。
(やっぱり、氷弾で杖を狙うのが一番かな……)
前の試合の時のようにマオは氷弾を繰り出して杖を破壊する方法が相手を傷つけず、確実に倒せる方法ではないかと思う。もしもこの方法を早く思いついていたらバルトとの試合の時も一瞬で決着を着ける事ができた。
氷弾は魔力消費が少なく、更には人並外れた反射神経を誇る獣人族でもなければ攻撃しても反応できない程の速度を誇る。威力に関しても風の魔力を使用して回転を増せば赤毛熊でさえも急所を貫けば一撃で倒せる威力を誇る。
「やっぱり、氷弾しかないのかな。けど、リオンにはもう見られてるし……」
先の試合でリオンはマオの氷弾を見ているため、彼も次の試合の時はマオが氷弾を繰り出す事を予測して対抗策を練っているかもしれない。そうなると氷弾で倒せるとは過信せず、他の攻撃方法をマオは考えた。
(氷刃や氷柱弾で戦う手もあるけど、どっちも人が相手だと危険過ぎるし……)
魔物が相手ならば遠慮せずに使用できるが、敵が人間の場合はマオの作り出した魔法はどれも殺傷能力が高過ぎるため迂闊に扱えない。
(相手を傷つけず、それでいて確実に倒せる魔法なんてあるのかな……)
自分の持つ杖を見つめながらマオはリオンを傷つけずに倒す手段を考え、結局は思いつかないまま1日を過ごす――
――決闘の期日まで5日を切ると、今日は休日だったのでマオは一人で外を出歩いていた。休日は生徒も外に出る事が許されているため、彼は何となくドルトンの元へ訪れた。
ドルトンは仕事中らしく、熱心に熱した金属を鉄槌を叩き付けていた。彼が何を作っているのか気になったマオは話しかけようとした。
「あの……」
「誰だ!?今は仕事中だ、後にしろ!!」
「あ、すいません」
話しかけようとするとドルトンは怒鳴り散らし、彼の仕事がひと段落するまで待つ事にした。マオは待っている間に机の上を見ると、そこには見た事もないほどの巨大な「鎖」が並べられていた。
(何だろう、この大きな鎖……もしかして魔物を拘束するための鎖かな?)
尋常ではない大きさの鎖を見てマオは動揺を隠せず、恐らくは大型の魔物を拘束するための物と思われる鎖が置かれていた。こんな物で拘束された身動きができず、力が強い魔物だろうとどうしようもない。
ドルトンの元にマオが訪れたのは決闘前の自分の装備を見直して貰おうと考えたからだが、彼はドルトンが制作している鎖を見てある事を思いつく。
(鎖……!?)
マオは衝撃を受けた表情を浮かべて机の上の鎖に手を伸ばし、しっかりと細部まで確認を行う。しばらくしてドルトンが作業を終わって振り返った。
「おう、誰だか知らないが悪かったな……あん?」
ドルトンが振り返った時にはマオの姿は見当たらず、彼は誰が自分に声をかけたのかと戸惑いの表情を浮かべた――
――
「よし、慎重に焦らず……だけどできるだけ早く」
変わった形をした氷塊同士をマオは結合させると、続けて氷塊の数を増やして同じように結合させていく。最終的にはマオの目の前には「氷の鎖」ができあがった。
多数の氷塊を繋ぎ合わせる事でマオは氷の鎖を生み出し、それを操作する事でマオは建物の煙突部分に狙いを定めて氷を移動させる。かなりの数の氷塊を繋ぎ合わせて作り出したので操作は困難したが、それでも煙突に鎖を絡ませる事に成功した。
「やった!!これなら傷つけずに捕まえられ……あっ!?」
しかし、力が強すぎたのか鎖が絡みついた煙突に亀裂が走り、少しでも力加減を謝ると鎖が締め付けすぎて捕まえた対象に危害が及ぶ事を確認する。誰も住んでいない廃墟の煙突だったので問題はなかったが、もしも人間相手にしていれば今頃は内臓破裂を引き起こしていてもおかしくはない。
「も、もうちょっと練習しようかな……」
新しい魔法を思いついた事で興奮していたマオだが、罅割れた煙突を見て力加減を覚えるために練習を行う――
※午後にも投稿します。
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