第225話 風の魔術痕
――翌日、マオは初めて学校に遅刻した。朝の授業の時間を迎えてもマオが来ない事に不思議に思ったバルル達は迎えに行くと、そこにはベッドの上でうつ伏せの状態で倒れたまま動かないマオの姿があった。
「おい、マオ!!大丈夫か!?」
「う、ううっ……」
「マオ、しっかりして……」
「こいつは……ただの寝坊じゃなさそうだね」
ベッドに倒れたまま動かないマオにバルトとミイナは心配そうに声をかけるが、バルルは彼の右腕に昨日はなかったはずの紋様が浮かんでいる事に気付く。
「こいつは魔術痕かい?そういえば昨日、先生から話は聞いていたけど……」
「バルル、この部屋妙に散らかってる」
「あれ、おかしいな。俺が昨日、こいつを運んだ時はもっと綺麗だったはずだが……」
魔術痕をマリアに刻んで貰った後、マオはバルトに肩を貸して貰って男子寮の自室まで運んでもらった。彼の部屋は常に整理整頓されていたが、部屋の中の家具や日用品が微妙に位置がずれていた。
絨毯がめくれているのを見てバルルは考え込み、眠っているというよりも意識を失っているマオを見て彼が魔力切れを起している事に気付く。すぐに彼女はマオの右腕に刻まれた魔術痕が原因だと悟る。
「なるほど、そういう事かい……どうやら魔術痕が暴走したみたいだね」
「暴走!?」
「そういえば前にバルルも魔術痕を刻んだ時に暴走したとか言ってたような気がしないでもないような……」
「うろ覚えかい!!いや、そんな事よりもこいつを何とかする方が先だね。とりあえずはこれをこうすれば……」
バルルは意識を失っているマオの右腕を掴み、紋様の部分に触れると僅かにだが風属性の魔力が漏れ出している事に気付く。部屋の中が荒らされた様に散らかっているのは魔術痕から漏れ出す風の魔力のせいだと判明する。
「こいつの右腕から風属性の魔力が漏れ出してるね。そのせいで部屋の中が風圧で荒らされたようだね」
「えっ!?それってまずいんじゃないのか?」
「大丈夫だよ。こいつは元々は魔力量が少ないからね、だからこの程度で済んだんだよ。あたしの魔術痕が暴走した時は建物を危うく全焼させかけて大変な目にあったけどね」
「その話、詳しく聞きたい」
「人の黒歴史に興味を持つな!!そんな事よりもマオを何とかする方が先決だろうが……よし、バルト!!あんたの出番だよ!!」
「えっ!?俺!?」
急に名指しされたバルトは驚いた声を上げるが、バルルはマオの右腕を彼に差し出すと紋様の部分を抑え込むように促す。
「この中で風属性の適性を持つのはあんただけだからね。あんたは風属性の魔法に耐性があるだろ?なら紋様を抑えて魔力が出てこないようにしな」
「いや、それはそうだけどよ……」
「先輩、早くして……でないと顔を引っ掻く」
「や、止めろ!!お前の炎爪は洒落にならねえよ!!」
マオを救うためにはバルトの力が必要であり、二人に急かされて彼はマオの右腕を掴む。右腕に刻まれた「渦巻」のような紋様をバルトが抑え込むと、漏れ出した風の魔力が体内に収まっていく。
風属性の適性を持つ人間は風属性の魔法に高い耐性を持ち、そのお陰でバルトは風の魔力の影響をほとんど受けない。しばらくするとマオの顔色も良くなり、やがて目を覚ます。
「うっ……あ、あれ?どうして皆ここに?」
「マオ!!気が付いて良かった……」
「たく、心配させるんじゃないよ」
「あの、俺はいつまでこうしていればいいんですかね?」
「ああ、そいつの意識が戻ったのならもう離していいよ」
バルトはマオから手を離すと改めて彼を椅子に座らせ、意識を失うまでの経緯を尋ねる。マオは昨日の出来事を思い返し、何が起きたのかを話す。
「確か先輩に部屋まで運んでもらった後、ちょっと頭が痛くなってすぐにベッドで横になって……そこから先は覚えていません」
「なるほど、やっぱり魔術痕の影響で風の魔力が漏れてたんだね」
「でも、そうなるとマオは一晩中も魔力を垂れ流してたんですよね。こいつの魔力量の事を考えるとそれってかなりやばいんじゃ……」
「いや、マオの魔力の回復速度はあたしらの比じゃないからね。眠っている状態でも魔力を回復させて完全に魔力は枯渇させなかったんだろうね」
「マオ、凄い……でも、無茶はいけない」
「あいてっ」
心配させたマオにミイナは軽く頭を小突き、皆に迷惑を掛けた事にマオは申し訳なく思うが、一方で魔術痕から風の魔力が滲み出していた事を知ってマオは喜ぶ。
(学園長の言う通りだ。僕は風属性の魔力を生成できるんだ……!!)
これまでのマオは氷の魔法しか扱えなかったが、魔術痕を刻んだ事で風属性の魔力を放出できる事が明らかになった。これまでは氷の魔法しか扱えなかったが、魔術痕を制御できるようになればマリアのように魔石を使用して他の属性魔法を扱えるかもしれない事に希望を抱く。
※午後にも投稿します。
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