第205話 情報屋との取引
「あんた、マオさんだったな?弟の事を捕まえてくれて本当にありがとうよ。そのお礼と言っちゃ何だか……俺と取引しないか?」
「取引?」
「あんたは冒険者狩りの情報を知りたいんだろう?だったら俺が掴んだ情報を教えてやってもいい……愚弟を捕まえた例として初回は無料で情報を教えてやるよ」
「……怪しい」
マオにとっては都合の良い話だったが、いきなり現れて情報屋を自称する男にミイナは怪しむ。マオもミイナと同じ気持ちだったが、今の状況では城下町で起きている情報を確認する術は他にはない。
「本当に教えてくれるんですか?」
「ああ、嘘は言わない。但し、今の時点で俺が知っている限りの情報は無料だ。今後新しい情報を手に入れた場合、次からは情報を聞きたい場合は金を払って貰う」
「……ちなみにいくらぐらいですか?」
「そればかりは情報の内容によるな。まあ、法外な値段は要求するつもりはないから安心してくれ」
「マオ、この男は怪しい」
「うん、そうだけど……今のうちに聞ける事は聞いた方がいいんじゃない?」
情報屋を自称する男を怪しむミイナはマオの腕を引くが、自分の素性を知る男にマオは彼が情報屋である事は嘘ではないように思えた。弟を捕まえた事に感謝しているという男を信用できるかどうかはともかく、情報を無料で提供するというのであれば試しにマオは話を聞く事にした。
「師匠以外に冒険者狩りの被害を受けた人は?」
「現れていない」
「警備兵と冒険者の方の調査に進展は?」
「それもないな」
ドルトンから教えてもらった限りの情報をマオは確かめると、ドルトンの言った通りの答えを男は返した。しかし、当然だがその程度の事だけで男を信用するわけにはいかず、今度はマオ達も知らぬ情報を尋ねる。
「冒険者狩りの正体は?」
「……心当たりはある」
「えっ、本当に!?」
「ああ、だが奴がもしも犯人だとすれば……お前さんらの手には負えない相手だ」
情報屋の言葉にマオとミイナは驚き、一方で情報屋はパイプを口から外して真剣な表情を浮かべる。これまではへらへらとした態度を貫いていたが、一変して真面目な顔で話を行う。
「冒険者狩りの正体は恐らくは盗賊ギルドが関わっている」
「盗賊ギルド?」
「王都の裏社会を実質的に支配する恐ろしい連中さ。そいつらに目を付けられたら、仮に黄金冒険者だろうと命はねえな」
「その盗賊ギルドと冒険者狩りが関わってるの?」
「そういう事だ。冒険者狩りは数十年前から存在する腕利きの殺し屋だが、恐らく奴は盗賊ギルドが育て上げた暗殺者だ」
「暗殺者……」
冒険者狩りの正体は盗賊ギルドが育て上げた暗殺者の可能性が高く、実際に冒険者狩りがこれまで犯した殺人事件の中には盗賊ギルドにとっては邪魔な存在と成りえる人物が大半を占めていた。
盗賊ギルドは裏社会を牛耳る組織のため、表社会の代表的な組織である冒険者ギルドとは対立関係にある。この二つのギルドが王都の表と裏の社会を支配していると言っても過言ではなく、度々衝突を繰り返しているらしい。
「盗賊ギルドとしては冒険者ギルドほど目障りな存在はいない。冒険者ギルドが有力な冒険者を抱えれば、盗賊ギルドからすれば敵対組織に厄介な戦力が増えた事になる。だから冒険者狩りは優秀な冒険者を殺して冒険者ギルドの戦力を削いでいるんだ」
「でも、それならどうして冒険者狩りは優秀な冒険者を片っ端から始末しないの?」
「いくら冒険者狩りが一流の暗殺者と言えども、高階級の冒険者程に厄介な相手はいない。下手に手を出せば自分が殺される可能性だってあるからな。だからこそ暗殺に行動を移す時は慎重に動く」
「でも、それならどうして師匠が狙われたんだ!!師匠はもう冒険者じゃないのに……」
「さあな、その辺の事情までは流石に分からないが……元白銀級冒険者が弟子を引き連れて冒険者ギルドに出入りしているんだ。盗賊ギルドからすればこのまま放置するとお前の師匠が現役に復帰するかもしれないと危惧したんじゃないのか?」
「そんなっ!?」
「何にせよ、冒険者狩りが盗賊ギルドの関係者なのは間違いない。お前等のようなガキがどうこうできる相手じゃない……退くなら今の内だぞ」
情報屋によれば冒険者狩りの背後には盗賊ギルドが控えており、子供であるマオとミイナの手の終える相手ではない事を告げる。
(盗賊ギルド……それが冒険者狩りを操る組織)
バルルを傷つけたのは冒険者狩りで間違いないないが、その冒険者狩りを裏で操る組織がいる事にマオは冷や汗を流す。このまま冒険者狩りを追うという事は盗賊ギルドを敵に回す事を意味しており、マオは自分とミイナだけで冒険者ギルドと渡り合える程の大組織を相手にできるのか不安を抱く。
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