第204話 情報屋

――バルルがドルトンに依頼していた新しい装備品を身に付け、マオとミイナは改めて冒険者狩りの情報を集めるために行動を開始した。ドルトンによれば今の所は警備兵も冒険者も冒険者狩りの調査に進展はないらしく、やはり手がかりが「エルフの女性」というだけでは見つけるのは困難らしい。


マオとミイナが学園を抜け出してから1時間程経過し、流石に疲れた二人は路地裏にて休憩を取る。誰にも見つからないように建物の屋根の上を移動してきたが、流石に体力と魔力が限界だった。



「はあっ……今夜はもう帰った方がいいかもしれないね」

「むうっ、明日はもっと昼寝しておかないときつい」



明日も学校の授業があるので二人はそろそろ学園に戻らなければならず、しっかりと休んでおかないと身体が持たない。正気に戻ったドルトンがマオとミイナが訪れた事に疑問を抱くかもしれないが、かなり泥酔していたので二人が会った事も忘れている可能性も高い。



「やっぱり、闇雲に探しても見つからないか……」

「今度は昼間に抜け出して人から話を聞く必要もあるかもしれない」



夜間の間ではマオ達は派手な行動はできず、昼間の方が捜査をしやすい。休日に学園を抜け出せば昼間でも行動できるかもしれないが、今回は引き上げるしかなかった。



「じゃあ、そろそろ帰ろうか……先輩にも迷惑を掛けたし、謝っておかないとね」

「待って」



マオは立ち上がろうとすると、ミイナは何かに気付いたように振り返る。彼女の行動にマオは不思議に思うと、ミイナは路地裏の奥に視線を向けて声をかけた。



「そこに隠れているのは誰!?」

「えっ!?」

「……ひひっ、中々に勘が鋭いな」



誰もいないはずの路地裏に男の声が響くと、暗闇の中から男が姿を現わす。その男は全身を黒色のフードで身を包み、完璧に暗闇に紛れて姿を隠していた。


現れた男にマオとミイナは咄嗟に身構えたが、男性は両手を上げて戦う意思はない事を示す。男はフードから顔を晒すと、その顔を見てマオは驚愕の表情を浮かべる。



「お、お前は!?」

「マオ?知ってる人?」

「……前に僕を襲った通り魔だよ!!」



姿を晒した男性はかつてマオが王都に来たばかりの頃、彼を襲った通り魔と瓜二つの容姿をしていた。その顔を見てマオは咄嗟に三又の杖を構えたが、おかしな事に通り魔と思われる男はかつてマオに片目を魔法で潰されたはずだが、何故か傷跡が残っていなかった。



「あ、あれ?傷が消えている……どうして?」

「ひひっ……何の事を言っているのか知らないが、俺は通り魔じゃないぞ?」

「どういう意味?」

「言葉通りの意味さ。お前が言っている通り魔とやらは俺の双子の弟の事だ」

「双子!?」



マオが捕まえた通り魔は現在も監獄の牢獄にいるはずだが、その通り魔の兄を語る男が現れた事にマオは動揺を隠せない。その一方でミイナは男に視線を向け、警戒しながらも尋ねる。



「私達の話を盗み聞きしていたの?」

「おっと、それは人聞きが悪いな。ここは俺のねぐらでね、勝手にお前等がここへ来て話を始めただけだろう。別に盗み聞きするつもりもなかったが……」

「……そうですか、なら僕達はもう行くので失礼します」



通り魔とそっくりの顔をする男を前にしてマオはあまり良い気分はせず、早々にその場を立ち去ろうとした。だが、そんな彼に対して男は思いもよらぬ言葉をかける。



「冒険者狩りの正体……知りたいと思わないか?」

「えっ?」

「こう見えても俺はでね、この王都で起きている事は大抵の事は知ってるぜ」

「情報屋?」



自身を情報屋だと語る男に対してマオとミイナは胡散臭げな表情を浮かべるが、男はパイプを取り出すと火を灯す。そして彼は自分が情報屋である事を証明するために二人に語り掛けた。



「俺の言葉を信じられないといった表情だな。だが、俺はお前達の事を知っている。元白銀級冒険者バルルの弟子のマオとミイナだな?」

「何でそんな事を……」

「お前さんの事は色々と調べたぜ。仮にも弟を豚箱に送り込んだ奴だからな……ああ、別に弟を捕まえたからって恨んではいないぞ。あいつはどうしようもない屑だったからな……けっ、人の女に手を出した報いだ」

「仲悪かったの?」

「あのくそ野郎は俺と同じ顔だからって、俺の女を騙して一緒に寝たんだよ!!むしろ捕まえてくれてせいせいするぜ!!」

「は、はあっ……」



通り魔の兄を語る男はマオが弟を捕まえた事に恨みは全くなく、むしろ目障りだと感じていた弟を捕まえた事に感謝していたという。しかし、弟を捕まえた相手という事も会って情報屋の男は独自でマオの事を調べていた事を語る。


元々マオは王都に来たばかりの頃に通り魔を捕まえた少年として噂は広まっており、彼が魔法学園に入学した後も色々と騒動を引き起こしている事も情報屋は知っていた。そんな彼がマオの前に現れたのは弟を捕まえた事への感謝を告げるためだけではなく、取引を持ち掛けるために姿を現わす。





※午後にも1話投稿予定です

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