第138話 その後のバルト
――試合を終えた翌日、バルトは自分の学生寮の部屋のベッドの上で横たわっていた。昨日の試合の疲れがまだ残っており、学園長の方から今日は休んでも良いと正式に許可を貰った。
「……気持ち悪い」
魔力切れの影響のせいかバルトは頭痛に悩まされ、昨日から休んではいるが本調子ではない。魔力量が多い人間程に魔力の回復には時間が掛かり、昨日からバルトは寝たきりの状態でまともに動く事もできない。
昨日の試合から目を覚ました時は既に深夜を迎え、彼は一晩中ベッドに横になりながら考え事をしていた。昨日の試合の結果は既に聞いているが、彼本人は人生で二度目の「敗北感」を味わう。
(俺の負けだ……)
試合の結果は引き分けだと聞いてはいるが、バルト自身はマオとの勝負に負けたと思っていた。理由としては自分が一番の強みにしていた魔法が正面から打ち破られた時点で彼は自分が魔術師として負けたと感じた。
(あのガキ、凄い魔法だったな……)
リオンを倒すためにバルトは必死に自力で習得した「スライサー」それを正面から逃げずに打ち破ったマオに彼は敗北を認めるしかなかった。しかもバルトは試合前にタンから杖を受け取り、しかもマオが使用した魔石よりも効果で性能が高い魔石を受け取っておきながら敗れた事に悔しく思う。
(装備も魔力量も俺の方が上だったはずだ……それなのに負けた)
マオの身に着けている杖はドワーフが造り上げた優れものだが、バルトが使用したのは仮にも魔法学園の教員が扱う代物であり、性能面に関しては決して引けを取らない。むしろ使用している魔石の質はバルトの方が有利なはずだった。
装備も魔力量もバルトがマオよりも大きく上回っていた。しかもマオの場合は中級魔法は扱えず、下級魔法しか使えないと聞いていた。だからこそバルトは勝利を確信していたが、結果は彼が自分自身で敗北を認める程の終わり方を迎える。
(何が下級魔法だ……あんなの、インチキだろ)
最後にマオが使用した氷柱弾の事を思い出すだけでバルトは背筋が凍り付き、心の中で彼がきっと何らかの不正をしてあれほど凄まじい魔法を使用したのだと思い込もうとした。しかし、実際の所は彼自身も理解していた。
「……違う、あれがあいつの実力か」
いくらマオの不正を疑おうとしても、既にバルトは理解していた。彼が負けたのは自分の実力がマオに及ばなかったからであり、そもそもどんなに高性能な装備を身に着けていたとしても魔術師は自分の力量以上の魔法を生み出す事はできない。
魔力量が少ないマオはどんなに足掻いても下級魔法以上の魔法は扱えない。魔力量を誤魔化して試合を行ったという可能性も否定はできないが、そもそも魔力量が少ない事を公言する必要がない。第一に彼の魔力量が少ない事を教えてくれたのは学園長である。
『バルト君、少しいいかしら?』
『学園長……何の用すか?』
『今から戦う相手の事よ』
試合前にバルトはマリアから話しかけられ、これから戦うマオがどのような人物なのか教えてもらう。学園長に関しては月の徽章を自分に与えてくれない存在という事でバルトは恨みを抱いていたが、魔術師としては彼女が誰よりも優秀で尊敬に値する人物だとは思っていた。
『貴方が戦う相手は魔力量も少なくて下級魔法しか扱えないのよ』
『そんな馬鹿な……』
『嘘じゃないわ。でも、彼は魔力量が少ないからと言って魔術師になる事を諦めたりはしない。むしろ、自分の欠点を知った上でそれを補うために努力を怠らない強い心の持ち主よ』
『それが……何だというんですか?』
『あの子は強い、だから手加減はしないで戦いなさい』
『……俺が負けるとでも思ってるんですか!?』
魔力量も少ない、しかも年齢も年下の相手に自分が負けるはずがないと思っていたバルトはマリアに突っかかる。しかし、そんな彼にマリアは告げた。
『勝負はどうなるのかは分からないけれど、彼は昔の貴方とよく似ているわ』
『は?』
『昔の貴方は目標を目指して真っ直ぐに成長していた。けれど、今の貴方は目標を見失っているように見えるわね』
『な、何を言ってるんですか!!俺の夢は昔も今も変わらない!!俺が欲しいのはあの徽章だけで……』
『本当にそうなのかしら?』
バルトが求める物は「月の徽章」であると言おうとしたが、マリアは彼が求めているのはもっと別の何かではないかと思った――
――昔のバルトは月の徽章に対して憧れを抱き、それに相応しい生徒に成ろうと頑張って努力をしてきた。だが、彼が変わり始めたのはリオンと出会って彼に敗れたからである。
リオンは年下でしかも自分がどれだけ求めても手に入れる事ができなかった月の徽章を持っていた。だからこそ彼はリオンを越えるために必死になって魔法の練習を行い、一刻も早く月の徽章を手に入れようと頑張ってきた。しかし、そのやり方が間違っていた。
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