第133話 試合の準備
――放課後を迎えるとマオはミイナと共にバルルに連れられ、学校の屋上へ移動した。そこには以前にマオが試験を受けた時のように教師陣が待ち構え、その中にはタンの姿もあった。
「ふん、やっと来たか……怯えて逃げ出してしまったかと思ったぞ」
「笑わせるんじゃないよ、あんたの方こそ顔色が悪いね。そんなに自分の生徒が心配なのかい?」
「き、貴様!!私を愚弄する気か!?」
「止めなさい」
到着早々のマオ達にタンは嫌味を言い放つと、それに対してバルルは真っ向から言い返す。二人が一触即発の雰囲気に陥る中、それを止めたのは学園長のマリアだった。流石のタンもバルルも彼女に割り込まれれば喧嘩腰でいるわけにはいかず、大人しく引き下がる。
「二人とも仲良くしろとは言わないけれど、こんな時に争うのは止めなさい。教師であるのならば試合を行う二人を先に気遣いなさい」
「も、申し訳ございません!!」
「わ、悪かったね……よし、マオ。準備はいいかい?」
「あ、はい。大丈夫です」
「ふんっ……ようやく逃げずに戦う覚悟ができたか」
タンの傍にはバルトも控えており、彼の手には小杖ではなく、掌程の大きさの風属性の魔石を取り付けた杖を手にしていた。それを見たバルルは驚き、一生徒が持つにしてはあまりにも立派な杖に彼女は驚きを隠せない。
「あんたその杖……何処からかっぱらってきたんだい!?」
「かっぱらってきたとは人聞きが悪いな……この杖は先生の御下がりでな。俺の杖は生徒会のリンダに取られたままで仕方ないから先生に相談したらこれを貸してくれたんだ」
「くくく、文句はあるまい?お主の方こそ弟子に杖や魔石を与えたのだろう?」
「ちっ……そうきたかい」
バルトはこの日のためにタンに相談して彼が所有する杖を受け取り、その杖の性能は彼が元々所有していた杖よりも優れていた。自分のよりも何倍の大きさを誇る風属性の魔石を見てマオは驚きを隠せないが、もう後には引けない。
新しい杖を手に入れたバルトは自信に満ちた表情を浮かべて屋上に設置された闘技台に移動し、その後にマオも続く。魔術師同士の試合の場合はお互いに距離を離し、試合の合図は公平を期すためにバルトとタン以外の別の教師が執り行う。
「今回の試合条件は相手を戦闘不能に追い込む、あるいは杖を失う、もしくは杖を破壊されれば負けとみなす!!また、必要以上に相手を痛めつける行為も禁じる!!」
「は、はい!!」
「はいはい……さっさとしてくれよ」
審判役は一年生の担当教師にしてバルルとは昔から付き合いがあるカマセが執り行い、彼は二人に試合の条件を告げると急いで闘技台から降りる。今回の試合は前回の試験と同様に教師たちが結界を張り、最後の確認を行う。
「よし、では試合を始める!!二人とも本当に覚悟はできたか!?」
「大丈夫です!!」
「……始めてくれ」
気合を込めた声で返事をするマオに対し、バルトの方は意外な程に冷静だった。その彼の態度はまるで自分が勝利する事が当たり前だと言わんばかりの様子であり、自分の魔法の力に絶対の自信がある事をうかがわせる。
(この人……間違いなく強い)
余裕の態度を取るバルトに対してマオは警戒心を緩めず、彼の強さには実を言えばマオは憧れも抱いていた。三年生の授業でバルトが魔法を使った時、マオは彼の魔法が印象的に覚えていた。
彼の扱う氷刃はバルトの「スライサー」を見て参考に作り出した魔法だが、威力も規模もバルトの魔法には及ばない。それでも彼なりに今日まで頑張って魔法の力を磨き続け、遂に昨日にマオは魔石を使った新しい魔法の強化を思いつく。
「……始め!!」
「はああっ!!」
「おらぁっ!!」
試合開始の合図と同時にマオとバルトは同時に杖を突き出した瞬間、二人は無詠唱で全く同時に魔法を発動させた。マオは最初に作り出したのは「氷の壁」であり、魔石のお陰で以前よりも大きくて強度が高い氷を作り出せるようになっていた。
一方でバルトが発動させたのはリオンも扱っていた「スラッシュ」だった。風属性の魔力を三日月状の斬撃へと変換させて放つ攻撃魔法だが、杖に取り付けられた大きな魔石のお陰なのか、リオンが放った魔法よりも規模が大きい。
「一発で終わりだ!!」
「くぅっ!?」
マオが作り出した氷壁にバルトの放った風の斬撃が衝突し、氷壁は罅割れてしまったがどうにか耐える事には成功した。そして氷壁に触れた瞬間に風の斬撃は四散して周囲に突風が襲い掛かる。
「ちぃっ……耐えたか。だが、もう一発は耐えられるか!?」
「うわっ!?」
自分の魔法をマオが堪えた事にバルトは苛立ちを抱くが、すぐに彼は杖を振り払って二発目のスラッシュを放つ。今度は横向きに放たれた風の斬撃を見て咄嗟にマオは自分が作り出した氷壁に視線を向け、敢えて彼は氷壁を自分の元に近付けさせる。
※中途半端は嫌なので試合の決着まで今日は投稿します。
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