第110話 コボルト
「師匠、どの魔物と戦えばいいんですか?」
「へえ……随分と落ち着いているじゃないかい。その様子なら期待できそうだね」
「……マオ、今の表情はちょっと格好良かった」
マオの表情を見てバルルは少し驚いた様子を浮かべ、ミイナは何故か頬を赤く染める。一方でマオの方は二又の杖を取り出し、何時でも魔法を扱える準備を行う。
バルルはマオの落ち着いた様子を見た後、周囲を見渡して適当な相手を探す。そして彼女が目に付けたのは草原に生息する魔物の中でも比較的に危険度が低く、マオが前に戦った事がある獲物を見つけた。
「あそこに一角兎がいるだろう?ここからあんたの魔法で狙ってみな」
「えっ……ここからですか?」
「魔力操作の鍛錬は毎日行ってるならこれぐらいの距離でも当てられるはずだよ」
一角兎の姿を確認したバルルは丘の上から一角兎を狙うように指示する。丘の上から一角兎がいる場所はかなりの距離が離れており、魔法が覚えたてのマオでは到底魔法を当てられる距離ではなかった。
しかし、マオは毎日の魔力操作の鍛錬は怠らず、数十メートルは離れている一角兎に目掛けてマオは二又の杖を構えた。この時にマオは二つに分かれた杖の先端から同時に氷刃を繰り出す。
(今なら……この距離でも当てられる!!)
昔は氷の破片を十数メートル先に飛ばす事しかできなかったマオだが、厳しい訓練の日々を乗り越えた事で彼の魔法は強化されていた。無詠唱でマオは二つの氷刃を作り出すと、草原を闊歩する一角兎に放つ。
「行けっ!!」
「これは……」
「……当たるっ!!」
杖から離れた二つの氷の刃は高速回転しながら一角兎の背後に接近し、一角兎が気づいて振り返った瞬間、首と額の角が同時に切断されて死体が地面に転がり込む。
「ッ――!?」
「や、やった!!当たった!!」
「へえ、中々の命中精度じゃないかい」
「流石はマオ……私も負けてられない」
無事に標的に魔法を当てる事ができたマオは喜ぶと、バルルは感心した表情を浮かべてミイナは拍手を行う。急いでマオ達は一角兎の元へ向かい、切断された首と角を見て確実に死んでいる事を確認する。
生き物を殺す事にまだ慣れていないマオは一角兎の死骸を見て顔を青く染めるが、それでも彼は殺した以上は倒した死骸から素材を回収するために短剣を取り出す。前にバルルから教わった方法を思い出してマオは死骸を解体し、素材を剥ぎ取った。
「うっ……」
「マオ、きついなら代わる?」
「いや、最後までやりたい」
「そう、その調子だよ。大分手慣れてきたじゃないかい」
自分で倒した以上はマオは自分の手で素材を回収しなければならないと思い、他の二人の力を借りずに一角兎から素材を剥ぎ取る。その様子をマオとミイナは見届けようとするが、ここで血の臭いにつられてきたのか他の魔物が姿を現わす。
「ガアアッ!!」
「おっと、どうやら血の臭いに釣られてきたようだね」
「あれは……!?」
「……コボルト」
一角兎の血の臭いに釣られて姿を現わしたのは狼と人間が合わさったような姿をした魔物であり、それを見たミイナは目つきを鋭くさせてマオを庇うように立つ。
コボルトはファングと同じく狼型の魔獣だが、ファングと違う点は人間のように二足歩行で手足も狼より人間に近い。その爪と牙は鋼鉄さえも容易く切り裂く程の切れ味を誇ると言われている。
「くそっ、こんな時に……」
「マオは下がってて……ここは私が戦う」
「気をつけるんだよ。そいつは動きが素早いからね、獣人族のあんたでも油断したら足元をすくわれるよ」
「グルルルッ……!!」
血の臭いに釣られたコボルトはマオ達に対して牙を剥き出しにしながら唸り声をあげるが、そんなコボルトを前にしてもミイナは動じずに構えを取る。彼女は新しい魔法腕輪に視線を向け、両手を広げると「炎爪」を発動させた。
「にゃんっ!!」
「うわっ!?」
「あちちっ!?も、もっと離れてやりな!!」
「ガアッ!?」
可愛らしい掛け声とは裏腹にミイナは両手から以前よりも火力を増した炎を纏い、それを爪の形に変形させた。炎の爪を纏ったミイナに大してコボルトは一瞬だけ怯み、その隙を見逃さずにミイナは踏み込む。
「にゃあっ!!」
「ガアッ!?」
「馬鹿、大振りの攻撃なんてしたら……!?」
「ミイナ!?」
ミイナは右腕を振りかざすとコボルトは空中に跳躍して回避を行い、彼女の背後に降り立つ。それを見たバルルは慌てて注意するが、コボルトは彼女の背後から首元に目掛けて牙を放つ。
「ガアアアッ!!」
「引っかかった」
「ガハァッ!?」
「「えっ!?」」
後ろからミイナの首にコボルトが噛みつこうとした瞬間、唐突に腹部に衝撃が走った。マオとバルルもコボルトの身に何が起きたのかと驚き、一方でミイナは勝利を確信した笑みを浮かべる。
彼女はコボルトが背中側に回り込んだ瞬間、振り返りもせずに後ろに立つコボルトの腹部に蹴りを叩き込む。彼女は手技だけではなく、足技も得意としていた。
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