第111話 散弾
「け、蹴った!?しかも効いてる……」
「たいしたもんだね、まあ獣人族の脚力で蹴りつけられれば無事では済まないね」
獣人族であるミイナは普段から建物の屋根を飛び越える程の脚力を誇り、そんな彼女の足技を受ければ如何に
コボルトが隙を見せるとミイナは両手の炎爪を振りかざし、止めの一撃を食らわせるために飛び込む。彼女は両手を左右から振りかざすと、コボルトの首元に向けて放つ。
「爪斬り!!」
「ギャウッ!?」
「やった!!」
「やるじゃないかい……けど、その技の名前はちょっとダサいね」
炎爪で攻撃を受けたコボルトは倒れ込み、首筋に受けた炎を必死に掻き消そうとするが、魔法で生み出された炎は簡単には消えない。やがて炎が収まった頃には首元は焼け焦げてしまい、苦悶の表情を浮かべたままコボルトは絶命した。
「ふうっ……良い汗をかいた」
「ミイナ、凄いよ!!前よりも炎が強くなったんじゃない?」
「この魔法腕輪のお陰、前よりも魔力が伝わりやすくなった」
ドルトンが制作した新しい魔法腕輪のお陰で彼女は以前よりも炎を使いこなせるようになり、本人も気に入った様子だった。マオの二又の杖は二つの魔法を同時に扱えるようになったが、彼女の魔法腕輪は性能面だけが上がったらしい。
「どうだい?新しい装備の具合は?」
「気に入った」
「使いやすくて凄く良いです!!」
「そうかい、それなら……とりあえず、他の奴等の相手もしてやりな」
「「えっ?」」
バルは二人の後方を指差すと、彼女の示す先にマオ達は顔を向ける。指し示された場所にはミイナが倒したコボルトとは別個体のコボルトが迫っていた。
「ガアアアッ!!」
「うわっ!?」
「マオ、下がって!!」
「落ち着きな!!まだ敵との距離はあるんだ!!それなら先に魔法で攻撃を仕掛けた方が得だよ!!」
迫りくるコボルトを見てマオは驚愕の声を上げ、咄嗟にミイナが彼を守ろうとした。だが、それを見たバルルはマオに指示を出す。
言われた通りにマオは接近するコボルトとの距離を確認し、足の速いコボルトならば数秒も経過しない内に自分達の元に迫る事は間違いない。しかし、逆に言えば数秒の猶予がある。その数秒の間にマオは魔法を発動して先手を打つ事ができた。
(そうだ!!敵が遠くにいるなら僕が仕掛けるんだ!!)
接近戦を不得手とする魔術師だが、距離がある相手ならば優位に立てる。魔拳士であるミイナは接近戦を得意とする反面に遠距離への相手の攻撃手段を持ち合わせておらず、そんな彼女の代わりにマオは自ら戦うべきだと思い直す。
「ミイナ、そこを退いて!!」
「マオ!?」
「大丈夫、任せて!!」
ミイナはマオの言葉に驚いて振り返ったが、すぐに彼が二又の杖を取り出したのを見て頷く。迫りくるコボルトに対してマオは二又の杖を構えると、この時に彼はある魔法を試す。
(
賞金首のガイルとの戦闘でマオは新しい魔法の使い方を覚え、最近は新しい魔法の練習を行う。彼はコボルトが接近するまでの間に無詠唱で魔法を作り出し、複数の氷弾を作り出す。
二又の杖のお陰で一度の魔法で二つの氷弾を作り出せるようになり、更にコボルトが迫るまでの間にマオはぎりぎりまで氷弾の制作を行う。そして杖の先端に複数の氷弾が形成されると、マオは敢えてコボルトに向けて杖を突き出す。
「
「ガハァアアアッ!?」
「にゃっ!?」
「うわっ!?」
複数の氷弾を杖の先端に作り上げたマオはコボルトに目掛けて発射すると、まるで散弾銃の如く氷弾が拡散して放たれ、コボルトは全ての氷弾を避け切れずに攻撃を受けてしまう。
マオが編み出した「散弾」は動きの速い相手の対抗策として作り出した氷弾の応用法であり、原理としては複数の氷弾を作り出して一斉掃射を行う。但し、単純に撃つのではなく、それぞれが別の角度で打ち込む事で広範囲に攻撃を行える。
「ウガァッ……!?」
「まだ生きてるよ!!油断するんじゃないよ!!」
「はい!!」
散弾の攻撃を受けたコボルトは地面に倒れ込むが、まだ息はあるのか起き上がろうともがく。それを見たバルルが注意を行うと、マオは今度は二又の杖を天に向けて集中する。
(質と量……これだ!!)
以前にバルルから言われた助言を思い出し、二又の杖の性能を発揮させてマオは一度に二つの氷塊を作り出す。更に作り出した氷塊の形を変形させ、二つの氷の塊を合体させてより大きな氷を生み出す。
量で質を補うのではなく、ましてや質で量を補うわけでもなく、量を生かして質を向上させる。二つの氷塊を組み合わせた事でより大きな氷塊を生み出したマオはコボルトに止めを刺す。
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