第96話 盗賊団
「お前等、やっているようだな」
「その声は……お頭!!」
「お頭って……うわっ!?」
何処からか男の声が響き、マオは声のした方に振り返るとそこには屋根によじ登る男の姿があった。その男はマオ達が尾行していた男で間違いなく、長髪のカツラと帽子で誤魔化しているが、間違いなく手配書に記された賞金首の男で間違いなかった。
どうやら壁を自力で登って来たらしく、屋根の上に移動すると男は首を鳴らす。改めてみるとかなりの大きさを誇り、体格の方も盗賊達の中では一番大きい。マオは自分達がこの男に嵌められた事を知って悔しく思う。
(何時から気付かれていたんだ?いや、それよりもこの状況を何とかしないと……)
盗賊達はどうやら賞金首の男の手下らしく、この状況を切り抜けるには戦うしか道はない。逃げるにしても既に取り囲まれているため、何とかこの状況を脱するためにマオは両手の小杖を構える。
「マオ、気をつけて……こいつらは私と同じ獣人族」
「……分かってる」
「へへへっ……今日は高い酒が飲めそうだぜ。お前等、やれ!!」
『へいっ!!』
賞金首の男が指示すると盗賊達は武器を構え、徐々にマオとミイナと距離を詰めてくる。それを見たミイナは両手を広げるとまずは自分から魔法を発動させる。
「炎爪」
「うおっ!?」
「あちちっ!?」
「ちっ、魔拳士か!?」
両手に火属性の魔力を集中させる事で炎の爪を纏ったミイナに盗賊達は怯み、慌てて距離を取った。彼女が魔法を使った姿を見て賞金首の男はすぐに「魔拳士」だと見抜き、即座に自分も身構えた。
炎爪を見て怯んだ盗賊達を見てマオは隙を逃さずに両手の小杖を構え、相手がミイナと同じ獣人族ならば「
「
「うおおっ!?」
「な、何だ!?」
「くそっ、そっちの小僧は魔術師か!?」
氷の刃がマオの傍に浮かぶのを見て盗賊達は慌てて距離を取り、炎の爪と氷の刃を操るマオとミイナに警戒心を抱く。だが、ミイナはともかくマオは氷刃を操作している間、非常に緊張してしまう。
(氷刃だとこの人達を殺しかねない……やっぱり、氷弾じゃないと倒せない)
殺傷能力が高い氷刃は本来は魔物専用の攻撃魔法であり、もしも人を相手に使用すれば手加減などできない。高速回転する氷の刃の切れ味は鋼鉄以上の硬度を誇るオークの肉体すらも切り裂き、生身の人間ならば容易く身体を切断してしまう。
相手を気絶させる程度ならば威力を加減した氷弾を叩き込むので十分だが、氷弾の攻撃速度では獣人族には避けられてしまう。練習の時もマオはミイナに氷弾を躱すかあるいは炎爪で無効化されており、彼女と同じ獣人族の盗賊達には反応されてしまうかっもしれない。
(氷刃は使えない、かといって氷弾を撃ち込んでも当たるかどうか……待てよ、それなら避けられないようにすればいいんじゃないか?)
ここでマオは過去に通り魔に襲われた時の事を思い出し、最初に襲われた時にマオは無我夢中に通り魔の顔面に杖を構えて魔法を放った事を思い出す。あの時は無我夢中だったが、至近距離からの攻撃ならばいくら獣人族だろうと反応できずに攻撃を当てられる可能性がある。
(そうだ、近づく事ができれば倒せるかもしれない!!)
マオは周囲を見渡して攻撃を仕掛けやすい相手を探し、丁度いい事に自分の前方に立っている男に視線を向けた。盗賊達はミイナの炎爪とマオが作り出した氷刃を警戒して動かず、攻撃を仕掛ける絶好の好機だった。
(迷うな、行け!!)
盗賊達が混乱して動けない間にマオは前方に立っている獣人族の男に目掛けて踏み込み、右手の小杖を伸ばして魔法を発動させる。
「喰らえっ!!」
「なっ!?」
自分に向かって飛び込んできたマオに盗賊の男は戸惑うが、突き出された小杖を見て顔色を変える。いくら獣人族が人間よりも身体能力が高いとはいえ、いきなりの不意打ちに対処しきれずに男はマオが突き出した小杖に反応できなかった。
小杖を伸ばした状態でマオは魔力を送り込み、無詠唱で氷塊を生み出す。この時に昨日の訓練が功を奏し、マオは氷塊の移動速度をある程度調整できるようになっていた。発射された氷塊は盗賊の男の腹部に的中し、男は向かい側の建物の屋根の上にまで吹っ飛ぶ。
「ぐはぁあああっ!?」
「なっ!?」
「お、おい!?」
「ちっ……逃がすな!!捕まえろ!!」
「マオ、今のうちに逃げる!!」
「うわっ!?」
マオが盗賊の一人を吹き飛ばした事で包囲網が瓦解し、その隙を逃さずにミイナは駆け出してマオも後に続く。この時にミイナは右腕に纏った炎爪を解除すると、マオの腕を掴んで隣の建物に目掛けて飛び込む。
「にゃあっ!!」
「うわぁああっ!?」
ミイナに引っ張られる形でマオは隣の建物に目掛けて飛び込み、彼女の力も借りたお陰でどうにか屋根に着地する事ができた。だが、それを見ていた盗賊団は慌てて追いかけようとする。
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