第97話 街中の攻防

「逃がすか!!」

「追えっ!!絶対に捕まえろ!!」

「うおおおおっ!!」



盗賊達も二人の後に続いて屋根の上を駆け抜けて飛び越えようとしてくる。それを見たミイナは盗賊達に追いつかれる前にマオの腕を掴み、急いで屋根の上を駆けていく。



「マオ、走って!!」

「は、走ってと言われても……」

「いいから早く!!」



建物を飛び越える際の着地の衝撃でマオは足が痺れてしまい、普通の人間であるマオが獣人族のように建物を飛び越えて移動するのは無理があった。それでもミイナはマオを無理やり立たせて屋根を駆け抜ける。


ミイナの腕に引っ張って貰いながらマオは小杖を握りしめ、先ほど生み出した氷刃ブレイドを思い出す。マオは走行中も氷刃を引き寄せて自分の側に移動させ、何時でも攻撃できるようにしておく。



「逃がすか!!おらぁっ!!」

「うわっ!?」



逃走中に盗賊の一人がマオに目掛けて短剣を投げ放ち、それを見たマオは慌てて氷刃を操作して迫りくる短剣を弾き返す。氷刃はマオの思い通りに動くため、逃走の際中でも攻撃や防御に利用する事ができた。



「馬鹿野郎!!殺すつもりか!?死んだら売れないだろうが!!」

「す、すいやせん!?」

「…………」



短剣を投げつけた盗賊に賞金首の男が怒鳴りつけ、盗賊達の狙いはあくまでも二人を生け捕りにして売り払うつもりだった。だからこそ下手に傷をつけるような真似はできず、マオとミイナにとっては都合が良かった。


盗賊達は自分達を傷つけられないと知るとマオも少しは余裕を取り戻し、屋根の上を駆け抜けながらこの状況を打破する方法を考える。しかし、既に次の建物に飛び移らなければならず、ミイナが声を上げる。



「マオ!!また跳べる!?」

「くっ……大丈夫!!」



次の建物の位置と距離を確認したマオは昨日の訓練を思い出し、咄嗟に自分が作り出した氷刃に視線を向けた。マオは新しい魔法を作り出す余裕はないと判断し、氷刃の回転を止めると先回りさせて空中に足場を固定させる。



「にゃあっ!!」

「とりゃあっ!!」

「な、何だと!?」

「馬鹿なっ!?」



氷の円盤を空中に固定させる事でマオは足場を用意すると、建物を飛び越えて氷塊に乗り込み、そのまま次の建物へ移動を行う。昨日の訓練の成果であり、どうにか今回は氷に足元を滑らせずに飛び越える事に成功した。


無事にマオ達は屋根に着地すると、盗賊達は後を追いかけてくるが、この時に盗賊の一人がマオが作り出した氷塊の円盤に乗り込もうとした。



「ちっ、こんなもんで逃がすかよ!!」

「あっ……せやっ!!」

「うわああああっ!?」



自分が作り出した氷塊の円盤を使って飛び込もうとした盗賊に対し、咄嗟にマオは小杖を振って円盤を傾けさせる。足場が傾いた事で盗賊は体勢を崩し、悲鳴を上げながら地上へ落下した。かなりの高さはあるが、人間よりも頑丈な獣人族ならば死ぬ事はない。



「馬鹿野郎!!何をしてやがる!?」

「お頭!!あ、あいつら只者じゃありませんぜ!?」

「怖気づくな!!相手はガキだぞ!?」



仲間が二人もやられた事で他の盗賊はマオ達を警戒するが、賞金首の男は彼等を怒鳴りつけて後を追うように告げる。それを見たミイナは何か思いついたのか、彼女は足を止めて小馬鹿にしたような態度を取る。



「……ぷっ、ださい」

「ちょ、ミイナ!?」

「こ、このガキ共!!」

「ぶっ殺してやる!!」

「あ、馬鹿!?挑発に乗るな!!」



ミイナの子供じみた挑発に盗賊の内の二人が激怒し、切れた勢いで二人の立っている建物に跳躍しようとしてきた。それに対してミイナは両手に炎爪を纏うと、空中から迫る二人の盗賊に目掛けて思いもよらぬ攻撃を繰り出す。



「爪弾、発射」

「うわっ!?」

「ぎゃああっ!?」

「あぢぃいっ!?」



彼女が腕を伸ばした瞬間に両手に纏っていた炎の爪が分離し、爪の形をした炎が建物に着地しようとした盗賊二人に襲い掛かる。盗賊達は彼女の炎に包まれ、そのまま屋根の上を転がり回る。


これで合計で四人の盗賊が戦闘不能に陥り、残されたのは賞金首の男と配下の盗賊一人だった。しかも最後に残った盗賊は怯えた表情を浮かべ、賞金首の男に縋りつく。



「お、お頭!!こいつら普通のガキじゃありませんぜ!?もう諦めましょう!!」

「……そうだな、確かに諦めるか」

「えっ!?」



盗賊の言葉に意外な事に賞金首の男は賛同し、まさか本当に諦めるのかとマオとミイナは驚いていると、男は笑みを浮かべて最後に残った盗賊の頭を鷲掴む。



「勘違いするな、俺が諦めると言ったのはに捕まえるのを諦めたという事だ」

「お、おかし……あがぁあああっ!?」

「なっ!?」

「何を……!?」



頭を握りしめられた盗賊の男の悲鳴が響き渡り、唐突な賞金首の男の行動にマオ達は戸惑うが、男は勢いをつけて自分が掴んだ男を投げ飛ばす。


投げつけられた盗賊はマオとミイナの立っている場所に向かい、二人は慌てて左右に避けると、盗賊の男は転がり込んで屋根から滑り落ちてしまう。それを見たマオとミイナは顔色を青く染め、その一方で残された賞金首の男は跳躍して二人のいる建物の屋根に着地する。




※今日中に100話まで投稿します。

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