第86.5話 《その頃のリオンは……》

――魔法学園にてマオが試験を合格してからしばらく経過した頃、リオンの元にバルルから手紙が届く。彼は王都から遠く離れた場所にある山の中に滞在し、自分に仕える部下と共に訓練を行っていた。



「リオン様、どうされましたか?ずっとその手紙を読んでいるようですが……」

「……何でもない」



リオンはバルルから送られた手紙を何度も読み返し、彼女の元で「マオ」が魔法の修行を頑張っている事を知る。マオの顔が頭に浮かぶとリオンは僅かに口元に笑みを浮かべ、そんな彼の態度にジイは疑問を抱く。


手紙によれば最初の頃は氷の欠片ぐらいしか作り出せなかったマオが魔力操作の技術を身に着けた途端、様々な魔法の応用法を見出して遂には魔物を倒せるようになったと記されていた。正直に言えば信じ難い内容だったが、バルルがリオンに嘘を付く理由がない。



(オークを相手にしただけで失禁するような奴が、まさかこんな短い間に魔物を倒せる程に成長するとはな……)



マオが魔法を覚えてから一か月程度しか経過していないが、既に彼の魔法は危険度が低い魔物を倒せる程度にまで腕を磨いていた。リオンはマオの魔力量が少ない事から彼が立派な魔術師になる事はできないと思っていたが、彼の覚悟を感じ取ってバルルに面倒を見るように頼んだ。


実を言えばバルルがマオの面倒を見てきたのはリオンの指示で有り、もしもマオが魔術師になる事を諦めるようであれば彼を故郷まで送り届けるように命じていた。だが、もしもマオが諦めずに魔術師を目指すのならば彼の手助けをしてやるようにも命じる。どうしてリオンが森の中で偶然遭遇しただけのマオに拘るのかと言うと、理由は二つある。




――最初に一つ目の理由はファングの群れに襲われた時、マオの魔法のお陰で命が助かった。マオはリオンが一人だけならば逃げ切れると思い込んでいたが、実際の所はリオンは森の中でになっていた。


もしもマオと遭遇していなかった場合、リオンは一人で森の中を彷徨い、最悪の場合は魔物に殺された可能性もある。あの時のリオンはを身に着けておらず、他の仲間とはぐれた時に合流する手段も考えていなかった。


だからこそ魔法が扱えるマオと合流できたのはリオンにとっても幸運だった。もしもマオが魔法の力を使っていなければジイ達も二人の居場所を掴めず、延々と森の中を彷徨っていたかもしれない。




そして二つ目の理由、それはマオとリオンの境遇が似ている事が関係している。実はリオンもある事情があって本来ならば「魔術師」になる事は許されない立場だった。


魔力量の問題で一流の魔術師になる事は難しいマオ、魔法の才能はありながらのせいで魔術師を目指す事が許されないリオン、二人が共通しているのは「魔術師」という存在に憧れを抱いている事である。



(マオと言ったな……それなりに頑張っているようだが、まだまだ甘い。呑気に学園生活を過ごしているようではとの差は縮まらないぞ)



この一か月の間に成長したのはマオだけではなく、リオンの方もそうだった。彼の足元にはかつて深淵の森で苦しませたが無数に横たわっていた。


リオンが手紙を読み終えると懐にしまいこみ、その場を立ち去ろうとした。しかし、この時に息を吹き返したのか倒れていたファングの1頭が起き上がる。



「グルルルルッ……!!」

「リオン様!?後ろを……」

「……まだ生きていたか」



ジイが立ち上がったファングを見て慌ててリオンに注意しようとしたが、彼は取り乱した風もなく振り返ってファングを見下ろす。その冷たい瞳を向けられたファングはたじろぐが、仲間と自分を傷つけた彼に対して憎しみに満ちた表情を浮かべる。



「ガアアアッ!!」

「リオン様!!」

「手を出すな、こいつは俺の獲物だ」



ファングは最後の力を振り絞ってリオンに駆け出すと、それを見たジイは咄嗟にリオンを庇おうとした。しかし、リオンはそんな彼を押し退けて前に出ると、腰に差していた「剣」を掴む。


リオンの腰には宝石のような装飾が施された剣を装備しており、かつて深淵の森に訪れた時には装備していなかった代物だった。この剣こそがリオンの最強の武器であり、彼は迫りくるファングに向けて踏み出す。




「――疾風剣」




大抵の魔物は鋼鉄程度の硬度の武器では通用しないが、リオンが抜いた剣はであり、彼の武器も魔法金属と呼ばれる特殊な金属で構成されていた。王都の冒険者は「ミスリル」と呼ばれる魔法金属を素材にした武器を扱う事が多いが、彼の武器はミスリルよりも希少価値を誇る「オリハルコン」と呼ばれる魔法金属で構成されている。


オリハルコン製の長剣を抜いたリオンは攻撃の際に風の魔力を送り込み、武器その物に風の魔力を纏わせる。魔拳士は自分の身体に魔力を纏って攻撃するが、彼の場合は自分の武器に魔力を纏わせた。


本来であればファングは「風耐性」と呼ばれる能力を身に着け、風属性の魔法に対して強い耐性を誇る。だからこそオークをも切断するリオンの魔法でもファングを仕留める事はできないが、彼が手にした長剣は風の魔力を利用して加速を行う。



「はああっ!!」

「アガァッ――!?」



風の魔力を先端に集中させ、一気に後方に噴出させる事でリオンは刃の攻撃速度を加速させる。そして加速した刃がファングの頭部にめり込み、真っ二つに身体を切り裂く。


あまりの威力の地面に亀裂が走り、ファングの死骸は左右に割れた状態で地面に落ちる。それを見届けたリオンは長剣にこびりついた血を振り払うと、鞘に戻してジイに告げる。



「訓練はここまでだ……この程度の相手では話にもならん」

「リオン様……」

「次の修行場所へ向かうぞ」



リオンはそれだけを告げるとジイの返事も聞かずに歩む。そんな彼を見てジイはため息を吐き出し、彼の後を追いかける。







※その後のリオン


ジイ「リオン様、そっちではありません!!道はこちらですぞ!?」

リオン「…………////」

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