第86話 師弟の絆

「き、君!!最後に使った魔法はなんだい!?」

「爆発や凍結しなかったという事は火属性や水属性の魔法じゃないわよね!?風属性の魔法を使ったの!?」

「いったい何をしたんだ!!早く答えるんだ!!」

「え、あの……」

「そこまでにしな!!」



教師陣に詰め寄られたマオは試合後という事もあって疲れ切っており、彼等の質問に応える余裕もなかった。そんな彼を見かねてバルルが大声を上げると、教師たちは彼女のあまりの声の大きさに驚いて硬直してしまう。



「あんたら、それでも教師かい?生徒が頑張って試験を突破したんだよ、それなら最初は一言ぐらい褒めたらどうだい?」

「え、あ、いや……」

「で、でも……」

「それは……」

「そうね、褒める事は大切な事ね」



バルルの言葉に教師たちが咄嗟に言い返せずにいると、学園長も闘技台に上がってマオの元へ向かう。彼女が赴くと他の教師たちは慌てて左右に別れ、座り込んでいるマオに対してマリアは腕を伸ばす。



「試験は合格よ。おめでとう、頑張ったわね」

「あ、ありがとうございます!!」

「よくやったねマオ!!ほら、あんたらも拍手ぐらいしたらどうだい!?」

『…………』



マリアの手を借りてマオが立ち上がると、そんな彼を褒めながらバルルは拍手を行う。他の教師たちは顔を見合わせ、言われた通りに拍手を行う。その中にはタンも苦い表情を浮かべながらも拍手し、試験に合格した以上は認めるしかなかった。


コボルトを倒した時点でマオは試験の合格を果たし、これで正式に彼は月の徽章を持つに相応しい生徒と認められる。同時にバルルも教師として認められ、教室を借り出す事に問題はなくなった。



「マオ、頑張ったね。だけど、いつものお前ならもっと早く倒せただろ?緊張して上手く動けなかったのかい?」

「そ、そう言われても……」

「ま、待て……試験の合格は認める、だが最後の魔法に関して説明をしろ!!」



闘技台から立ち去ろうとするマオとバルルをタンは引き留めると、彼はどうしても最後にマオがコボルトを倒す際に使用した魔法を聞き出そうとした。他の教師たちも同じ考えであり、彼等はマオが小杖を構えただけでコボルトが死んだようにしか見えなかった。


氷弾の移動速度は並の人間の目では捉えきれず、コボルトの胸元を貫通した氷の弾丸は結界に衝突して砕け散ってしまった。そのために教師たちにとってはマオが小杖を突き出した瞬間にコボルトの胸が貫通し、そのまま絶命したようにしか見えずに戸惑う。



「答えろ!!いったいどんな魔法を使った!?風属性か?それとも別の……」

「……情けない連中だね、あんたはそれでも魔術師かい?」

「な、何だと!?」

「あんたも一端の魔術師なら自分で少しは考えな、あらゆる魔法を分析して理解する。それが一流の魔術師だとあたしは教わったよ」

「ふふふっ……」



バルルの発言にタンは怒りを浮かべるが、そんな彼に対してバルルは疲れているマオの身体を抱きかかえ、闘技台を降りて訓練場を後にした。そんな彼女の後姿をマリアは微笑み、一方でタンは心底悔し気な表情を浮かべていた――






――試験を終えた後、マオは一先ずはいつもの教室に戻る。そこにはミイナが待機しており、何故か教室には大量のご馳走が用意されていた。



「二人ともお帰り……試験はどうだった」

「当然、合格に決まってるだろ?」

「……そうだと思った」

「あの……それより、このご馳走は何?」



ミイナはバルルの返事を聞いて嬉しそうな表情を浮かべ、猫耳と尻尾をふりふりと振る。それよりもマオは教室に用意されたご馳走を見て戸惑うと、扉が開かれて見覚えのある3人が姿を現わす。



「よう、バルル!!持ってきてやったぜ!!」

「へへへ、祝いの席ならやっぱりこれもないとな!!」

「金は後で払えよ!!」

「トムさん!?それにヤンさんとクンさんまで……」



教室に入って来たのは先日に世話になった冒険者3人組であり、彼等は何故か大樽を抱えて教室の中に入ってきた。それを見たバルルはマオの背中を叩き、教室に用意されたご馳走と彼等が来た理由を話す。



「あんたが試験を合格する事を見込んで用意させていたのさ。今日の宴の主役はあんただよ、もっと胸を張りな!!」

「ええっ!?」

「はははっ、こいつ昨日から俺達に用意させたんだよ」

「わざわざ弟子のために宴を開くためにギルドに依頼するなんてとんだ親馬鹿だな!!いや、この場合は師匠馬鹿か?」

「誰が馬鹿だい!!ほら、そんなことよりも祝杯を挙げるよ!!ほらほら、全員杯を持ちな!!」



バルルは全員に杯を持たせると、トム達が運んできた大樽から中身の葡萄ジュースを注ぐ。学校内の飲酒はまずい事を考慮して葡萄ジュースを用意させたのだろうが、勝手に部外者を招いている時点で問題である。


しかし、自分を合格する事を信じて宴の用意をしていたバルルにマオは戸惑いながらも嬉しく思い、ここにいる全員が自分が合格する事を信じてくれていた事に感動する。そして全員が杯を持つと、バルルは祝杯を上げた。



「マオの試験の合格を祝って……」

『かんぱ~いっ!!』



全員が杯を重ねると盛大に祝杯の音頭を上げ、この日のマオは学校に来てから一番楽しい思い出ができた――






※ちなみにこの後、学校内に部外者を勝手に連れ込んだ事がバレてバルルは学園長から減給(一か月)を言い渡されました。

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