第61話 特訓の成果

「はああっ!!」

「うにゃっ!!」



再び炎爪と氷刃が交じり、結果は氷の刃がまたもや炎を掻き消す。これで両手の炎を失ったミイナだが、彼女はマオの至近距離まで近付いていた。



「とうっ!!」

「うわっ!?」

「しまった!?」



マオに近付いたミイナは彼に飛びつき、そのまま地面に押し倒す。この時にマオは握りしめていた小杖を落としてしまい、彼の手元から杖が離れた事で氷刃が消えてしまう。


ミイナに押し倒される形となったマオは彼女を見上げ、ミイナの方は汗を流しながらも笑みを浮かべる。先ほど氷刃に両手の炎爪を掻き消された際に彼女も魔力を消耗したが、それでもまだ片手だけなら発動できる余裕はあった。



「これで……終わり!!」

「っ……!?」



勝利を確信したかのようにミイナは右手を振りかざし、炎爪を発現させた。しかし、それを見たマオは目を見開き、バルルが声を上げる。



「今だよ!!」

「やああっ!!」

「っ……!?」



マオは服の中に隠し持っていたもう一本の「小杖」を取り出し、それをミイナの顔に突きつける。ミイナの顎の部分に杖先が構えられると、彼女は振り下ろそうとした炎爪を止める。


先ほどマオが落としたのはリオンから受け取った小杖であり、服の中に隠し持っていたのは学生に支給用の小杖だった。まさか二本目の小杖を隠し持っていたとはミイナは思わず、彼女は焦りの表情を抱く。



「に、二本も小杖を持っていたなんて……ずるい」

「……する、これは魔術師の中でも常識らしいですよ。なにしろらしいですからね」

「っ……!?」



ミイナはマオの言葉に驚き、彼女は魔術師でありながらそのような常識すら知らなかった。その理由は彼女が普段から授業をさぼっていたためであり、一流と呼ばれる魔術師の間では予備の武器を常に携帯しておくのは当たり前の事だった。


マオを救ったリオンも二つの杖を装備しており、そしてマオも二つの杖を持ち歩いていた事でミイナに勝利した。しかし、もしもミイナが真面目に一年生の時に授業を受けていれば相手が杖を二つ持っている事を考慮して戦っていたはずである。



「そこまで……勝者はマオだ!!異論はないね!?」

「うっ……」

「この距離なら外しません」



いくら人間離れした反射神経と運動能力を誇るミイナでも顎先に突き出された杖を避ける事はできない。仮に杖ではなく、武器の類ならば相手の動きを先読みして避ける事もできるだろうが、マオの場合は小杖からで魔法を発動できる。


魔法の言葉を彼が口にすればそれに反応してミイナも回避行動を取れるが、無詠唱の場合は攻撃の予備動作が見抜けず、マオが魔法を発動させた途端に彼女の顎が大変な事になる。それを理解しているだけにミイナは素直に負けを認める事にした。



「……私の負け」

「よしっ!!よくやったね、マオ!!」

「はあっ……」



ミイナから敗北の言葉を聞き出すと、マオは力が抜けた様に腕を下ろす。ミイナは未だに自分がマオを押し倒している事に気付き、少し恥ずかしく思って彼から身体を退く。そして倒れているマオに手を差し出す。



「今回は私の負け……でも、次は負けない」

「……ど、どうも」



勝負を通してミイナはマオの実力を認め、彼を立ちあがらせると笑顔を浮かべる。その一方でバルルの方はマオの頭をに手を伸ばし、わしわしと頭を撫でる。



「よしよし、よくやったね!!これであたしも教師を続けられるよ!!」

「いててっ!?」

「むうっ……マオに乱暴しないで」

「うわっ!?」



力任せにマオの頭を撫でまわすバルルを見てミイナは何故か苛立ち、彼を抱き寄せる。ミイナに抱き寄せられたマオは年齢の割にはふくよかな胸元に顔を突っ込む。


リンダも大きかったがミイナは彼女よりも一回りは大きく、その柔らかさにマオは頬を赤らめる。その一方でバルルは誓約書を取り出し、それにミイナに署名するように促す。



「さあ、これに名前を書きな。約束だよ、今日からあんたはあたしの生徒だ」

「……分かった。でも、痛い事はしないでね」

「あんた、あたしの事を何だと思ってるんだい!!」



バルルに言われた通りにミイナは署名すると、続けてマオにも彼女は名前を書くように促す。二人分の署名を手に入れたバルルは急いでマリアの元へ向かう。



「よし、今日は二人とも疲れただろうから授業は無しでいいよ!!あたしは先生の所に行ってくるからね!!」

「あ、はい……気をつけて」

「行ってらっしゃい」



誓約書を手にしたバルルはマリアの元へ急ぎ、これで彼女は晴れてこの学園の教師として正式に認められるはずだった――






――だが、翌日の朝にマオとミイナは教室に赴くと、そこには難しい表情を浮かべたバルルが教卓の上に座っていた。普通ならば教師にも関わらずに机の上に座るという行儀の悪さを突っ込むべきなのだが、どうにも彼女の様子がおかしい事に気付いたマオとミイナは顔を見合わせて首を傾げる。

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