第60話 氷刃VS炎爪
人間離れした反射神経でミイナは後方から迫った氷塊を破壊すると、それを見たマオは慌てて彼女から離れる。バルルはその様子を見て冷や汗を流し、想像以上のミイナの運動能力に焦りを抱く。
「……今のはびっくりした。だけど、不意打ちはもう引っかからない」
「うっ……」
「怯えるんじゃないよ!!思い出しな、あたしが言った事を忘れたのかい!?」
ミイナの言葉を聞いて顔色を悪くするマオにバルルは怒鳴りつける。彼女の言葉を聞いてマオはここに来るまでに彼女から受けた特訓を思い出す。
――バルルはマオにミイナを捕まえさせるために協力して貰い、彼女は自分がまとめたミイナの情報を頼りにマオに特訓を行う。彼女はミイナがどのように動いて攻撃を仕掛けてくるのかを予想し、それをマオに教えて対処法をいくつか教える。
今回の作戦はマオがミイナを打ち勝つ以外に方法はなく、バルルがミイナに勝負を持ちかけたで彼女は素直に従うとは思えない。しかし、年下でしかも最近入ったばかりの生徒であるマオならば油断して勝負を引き受ける可能性も高かった。
実際にミイナはマオが自分と戦うと聞いて油断し、決闘の条件を受け入れて勝負をした。彼女は二年生の間では他の生徒と比べても頭一つ分抜けており、今まで同級生相手に負けた事はない。しかも相手が自分達よりも年下で未熟な一年生ならば負ける道理はないと考えたのだろう。
しかし、その彼女の油断を利用してバルルはマオに特訓を行わせ、様々な作戦を叩き込む。今日はバルルが教師でいられる最終日であり、今日中にミイナにバルルが教師である事を認めさせないと彼女は教師として残れない。
(頑張りな!!あんたならできるさ!!)
心の中でバルルはマオを応援し、そんな彼女の気持ちが彼にも伝わったのか、マオはバルルに頷いて改めてミイナと向き合う。ミイナは先ほどのマオの予想外の攻撃に驚いた様子で迂闊に近づくような真似はせず、その隙を利用してマオは小杖を構えた。
「行きます!!」
「っ……!?」
自ら敢えて攻撃を仕掛ける事を宣言すると、マオは小杖を構えて氷塊を作り出す。無詠唱で新しい氷塊を作り出したマオだったが、今度は氷塊の形を円盤型に変形させた。しかもさらに周端をギザギザに尖らせる事で「丸鋸」のように変換させる。
マオは特訓の時に「
『こいつは大したもんだね……当たればファング程度なら切り裂けそうな威力はあるね』
『本当ですか!?』
訓練場にてマオは木造人形を氷刃で切り裂いた際、バルルは素直に彼の攻撃魔法の威力を褒め称えた。しかし、彼女は氷刃を見た際にもっと威力を上げる方法を授ける。
『マオ、あんたは氷塊を自由な形に変えられるんだろう?なら、この氷刃の端の部分に小さな刃を作り出せるかい?ギザギザみたいな感じにさ』
『えっ……ギザギザですか?』
『そうさ、そうすればもっと威力が上がると思うよ』
バルルの言葉にマオは従い、まるで「丸鋸」のような形に変化させた氷刃は以前よりも切れ味が増した。これを確認したバルルはミイナとの戦闘でも役立つと判断し、彼にいざという時は氷刃で戦うように促す。
(この人は強い……手加減なんてする余裕はない!!)
これまでマオが氷刃を作り出さなかったのはミイナを傷つけてしまうのではないかと不安を抱いていたからだが、彼女の身軽さと炎爪の威力を思い知らされ、手加減すればこちらが負けると思ったマオは氷刃を作り出す。
見た事もない形をした氷刃を作り上げたマオにミイナは一瞬だけ驚いた表情を浮かべるが、彼女は気を取り直してマオの元に向けて炎爪を放つ。それに対してマオも氷刃を作り出した小杖を振り払う。
「はああっ!!」
「にゃあっ!!」
二人の掛け声が重なると炎の爪と氷の刃が交わり、先ほどまではマオの作り出した氷塊は炎爪に触れた瞬間に溶けてしまった。しかし、高速回転と終端に無数の小さな刃を作り出した氷塊は炎を掻き消す。
「おっしゃあっ!!」
「や、やった!?」
「嘘っ……!?」
バルルの歓喜の声が上がり、マオ自身も驚きの声を上げ、ミイナは自分の炎爪が掻き消された事に戸惑う。ちなみにミイナの炎爪は彼女の掌に纏う炎でしか過ぎず、炎を掻き消されたところで彼女の肉体に傷はない。
氷刃で炎爪を打ち破る事に成功したマオはミイナに振り返り、自分の持っている杖を構える。しかし、それを見たミイナは咄嗟に彼が小杖を振り抜く前に反対の腕に纏った炎爪を放つ。
「にゃああっ!!」
「くぅっ!?」
残された左腕で攻撃を仕掛けてきたミイナにマオは咄嗟に右手に掴んだ小杖を放つと、氷刃が再び炎爪を掻き消そうとした。
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