第58話 ミイナ捕縛作戦

「いいかい、あたしの言った作戦通りに動くんだよ」

「は、はい……分かりました」

「相手が女だからって容赦するんじゃないよ。魔物を相手にするぐらいの気概で挑みな」

「それは少し言い過ぎじゃ……」

「いや、あんたはあいつの事を知らないからそう言えるんだよ。あの猫娘、見た目は可愛いけど本当に厄介な奴だからね。絶対に油断するんじゃないよ!!」



マオはバルルと共に屋上の扉の前に移動し、もう既にミイナは屋上で昼寝をしているはずだった。彼女の運動能力ならば屋上から地上に飛び降りても問題ないため、仮に校舎の出入口を塞いだとしても追い詰める事はできない。


バルルも今回はミイナを本気で捕まえるために万全の準備を行い、彼女は冒険者時代に愛用していた銀色の腕輪を持ち出していた。



「こいつをガキ相手に使う日が来るとはね……」

「師匠、それは?」

「魔法腕輪さ、これを付ければ小杖がなくても魔法を作り出せるんだよ。あんたも見た事はあるだろう?」



魔法腕輪なる道具を取り出したバルルは右腕に装着し、そして赤色に光り輝く水晶玉を取り出す。それを見たマオは彼女が取り出した水晶玉の正体を魔石だと見抜く。



「それは火属性の魔石ですか?」

「そうさ、そういえばあんたはまだ魔石を使った事がなかったね……今度、用意してあげるよ」

「あ、ありがとうございます!!」

「馬鹿、声がでかい!!気付かれたらどうするんだい!?」

「す、すいません……」



魔石を渡す約束をしてくれたバルルにマオは嬉しさのあまりに大声を上げてしまうが、ミイナに気付かれたら全てが台無しになってしまう。二人は気付かれないようにそっと扉を開き、屋上へ乗り込む。


魔法学園の屋上は上級生専用の訓練場でもあり、屋上には的当て用の人形も並べられていた。但し、学校の裏にある訓練場と違う点はこちらの人形は素材が異なる。こちらの訓練場の人形は特別な木材が利用されており、魔法の力に耐性がある。



「あれ……ここにある人形、何だか雰囲気が違いますね」

「ああ、下の方にある人形は普通の木材だけど、ここにある人形は世界樹を素材にして作り出されているからね」

「世界樹?」

「陽光教会が管理するこの世界で一番の大きさを誇る大樹さ。この大樹はあらゆる魔法の耐性を持っていてね、しかも鋼鉄なんかよりも頑丈で耐久力も高いから武器として利用される事もある貴重な木材なんだよ」

「へえっ……」



バルルの説明を聞きながら世界樹製の木造人形にマオは視線を向け、自分の魔法で試しに攻撃したい気分を抱く。だが、今は逃げ出したミイナを捕まえるのが先であり、二人はミイナの姿を探す。



「大人しく眠っていて貰えると楽なんだけどね……」

「あっ……それは無理みたいです」

「あん?」



マオの言葉にバルルは不審に思って振り返ると、彼の視線の先にはミイナの姿があった。既に目を覚ましていたらしく、彼女は瞼を擦りながら二人に顔を向ける。



「……おばさん、流石にしつこい」

「誰がおばさんだい!!ぶっ殺すよ!!お姉さんと呼びな!!」

「師匠、落ち着いて!!」



ミイナの言葉にバルルはブチ切れそうになるが、それをマオが止めて作戦通りに動くように説得する。事前に取り決めた作戦もミイナが起きている事を想定しており、彼女が目を覚ましていても特に問題はない。


いつも追いかけてくるバルルの傍にマオが居る事にミイナは気付き、彼がバルルと行動を共にしている事に不思議そうに首を傾げる。



「……どうして君もここにいるの?その人に捕まったの?」

「いや、この人は僕の師匠で……」

「そんな事はどうでもいいんだよ!!」



バルルは二人の会話に割り込むと、彼女はミイナを指差して堂々と言い放つ。



「猫娘!!今日はあんたを捕まえに来たんじゃない、決闘しに来たのさ!!」

「決闘?」

「但し、教師のあたしが生徒に手を出すのは色々とまずいからね。そこであたしの一番弟子であるこいつと戦ってもらうよ!!もしもあんたが勝ったら大人しくあたしは引き下がってやる!!だけど、あんたが負けたらあたしの授業を受けてもらうよ!!」

「……面倒くさい」



急にバルルから決闘を申し込まれたミイナは面倒そうな表情を浮かべ、実際のところバルルが提示した条件は彼女にとってはあまり益はない。授業を受けたくないのであれば今まで通りに逃げ続ければいいだけであり、万が一に負けたら面倒な授業をうけなければならない。


しかし、ミイナの反応を予測していたようにバルルは前に出ると、彼女は一枚の羊皮紙を取り出す。その羊皮紙を見てミイナは眉をしかめるが、バルルは羊皮紙を突き出しながら答える。



「こいつは誓約書だよ!!もしもあんたが勝ったらあたしはもう二度とあんたの前には現れない。そしてあんたが勝ったらこの一年間、あんたが授業を受けないように免除してやる!!これはマリア先生も承知済みだよ!!」

「っ……!?」

「えっ!?」



バルルの言葉にマオとミイナは驚くが、彼女が取り出した誓約書には確かにマリアの署名があり、彼女はこの決闘を承認する旨も記されていた。バルルはミイナを捕まえるためにマリアに直談判し、誓約書を用意して貰った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る