第57話 中級魔法の危険性
「あの、どうかしました?」
「っ……いや、何でもないよ」
声を掛けられてバルルは正気を取り戻すと、改めてマオの魔法を見て考え込む。この短期間の間にマオは下級魔法「アイス」を完璧に扱いこなしつつあり、普通の魔術師ならば次の段階へ移行する。
下級魔法を覚えた後は今度は中級魔法を覚えるのが基本だが、下級魔法と中級魔法では習得の難易度に大きな差がある。ちなみに魔法学園の三年生は中級魔法を扱う授業も行うが、彼等の場合は二年生の時に中級魔法の基礎を学び、三年生になるまで中級魔法を扱えるように訓練を行う。
(こいつに中級魔法を教えるのは……多分、無理だろうね)
もしもマオが普通の魔術師と変わらない魔力量ならば中級魔法を教えても問題なかったが、魔力量が少ない彼に下級魔法よりも魔力消費量が大きい中級魔法を教えるのは危険だった。その事をバルルは包み隠さずに話す事にした。
「マオ……悪いけど、あたしが教えられるのはここまでなんだよ」
「えっ……」
「普通ならあんたに他の魔法を教えるべきだろうけど、魔力量が少ないあんたに下級魔法以外の魔法を教えるのは危険なんだ」
バルルは正直にマオは今後も下級魔法以外の魔法は扱える可能性は極めて低い事を話す。魔力消費量が少ない下級魔法ならば魔力量が低いマオでも問題なく扱えるが、下級魔法以外の魔法となるとマオが習得したとしても身体に危険が及ぶ可能性が高い事を話す。
「下級魔法と中級魔法には大きな差がある。攻撃威力や効果範囲、それに魔力の消費量も桁違いの差がある。仮にあんたが中級魔法を使った場合、1回使用しただけでぶっ倒れるかもしれないね」
「そんな……」
「こればっかりはどうしようもないんだよ。あんたの魔力の器を大きくさせない限り、中級魔法を覚えるのは危険過ぎる」
「じゃあ、僕は下級魔法しか使えないんですか!?」
「いや……前にも言っただろ?魔力を伸ばす方法はあるさ」
マオは自分は下級魔法しか扱えないのかと落胆しかけたが、そんな彼にバルルは笑みを浮かべて自分自身を指差す。
「かくいうあたしも学園に通っていた時は魔力量が低くて碌な魔法を使えなかった。だけど、冒険者になって魔物を倒していくうちに魔力量が伸びたのさ」
「じゃ、じゃあ……僕も魔物を倒せば魔力量が伸びるんですか!?」
「前にも言ったけど魔物を倒して魔力が増えるかどうかは人によって違うんだ。もしかしたらあたしのように魔力が増えるかもしれないし、下手をすれば全然魔力が増えないかもしれない。そもそも魔物と戦う事自体が危険な行為だからね……命を落とす可能性もある」
「うっ……」
魔物と言われてマオは森の中で遭遇したオークやファングの事を思い出す。あの時はリオンに助けてもらったが、もしもマオが一人だけだった場合は成す術もなく殺されていた可能性が高い。
バルルは魔物を倒し続けていくうちに自然と魔力量が増えていたらしいが、必ずしも全ての魔術師が魔物を倒す事で魔力量が伸びるとは限らない。それでもマオは可能性があるならば魔物を倒して自分の魔力量を伸ばしたいことを伝えた。
「お願いします!!師匠、僕に魔物を倒す方法を教えてください!!」
「……本気で言ってるのかい?」
「はい!!」
強い意思を宿した瞳でマオはバルルを見つめると、彼の覚悟を感じ取ったバルルは考え込む。今の時点ではマオを魔物と戦わせるのはあまりにも危険であり、できればもう少し人手が欲しいと思っていた。
「よし、なら協力してやるよ」
「本当ですか!?」
「ああ、嘘は言わない。但し……あんたにもあたしに協力してもらうよ」
「えっ?」
バルルの言葉にマオは戸惑うと、彼女は笑みを浮かべて拳を突き出す。その行為にマオは不思議に思うが、バルルは拳を更に突きつけると、マオは意図を理解して自分も拳を突き出して拳同士を重ね合わせる。
「それじゃあ、師匠としてあんたに最初に命令するのは……あの猫娘の捕縛を手伝いな!!」
「ええっ!?」
バルルの言葉にマオは驚いたが、別にバルルも楽をしたくてマオの力を借りようと思ったわけではない。だが、今後も彼女が教師を続けるため、そしてマオの願いをかなえるためにはミイナの存在が必要不可欠だった――
――マオはバルルに半ば強制的にミイナの捕縛に協力させられる事になり、二人は作戦を立ててミイナの捕縛のための準備を行う。
魔法学園の二年生にして獣人族の少女であるミイナは身軽で足が速く、元冒険者で体力にも自信があるバルルでさえも正攻法では彼女は捕まえられない。だからこそ彼女を捕まえるには罠を用意する必要があった。
バルルが考えた罠はマオの協力が必要不可欠であり、彼の下級魔法が鍵となる。ミイナを捕まえるためにはまずは学園外に逃げるのは阻止し、校舎内に追い込む必要があった。だが、これに関してはそれほど難しくはない。
この一週間の間にバルルはミイナの行動を調べつくし、彼女は屋上に忍び込んで昼寝をする事が多い事を見抜く。校舎の屋上は本来は生徒の立ち入りは禁止されているのだが、ミイナは誰も来ない場所だからこそ昼寝の場所として選ぶ。それを利用してバルルは作戦を立てた。作戦の決行日は彼女が教師でいられる最終日に決め、万全の準備を整えた上で二人はミイナを探す。
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