第48話 収穫有り

「先生、この手を離してくださいよ。俺だってわざとやったわけじゃないですから……」

「……次にふざけた真似をしてみろ、その時はその胸の徽章を全て剥奪すると思え」

「別にいいですよ、こんなもん欲しければいくらでも手に入りますからね」

「図に乗るなよ、小僧が……」



バルトの言葉に白髪の教師はこれ以上の説教は無駄だと悟ったのか、彼を離すと地面に散らばっている木造人形の破片に視線を向けた。認めたくはないがバルトの魔法は成功し、彼は見事にまだ授業でも教えていない「中級魔法スライサー」を身に着けた。


この魔法学園では中級魔法の授業を行うのは三年生からになってだが、既にバルトは他の生徒よりも多くの中級魔法を習得している。彼の才能は教師も一目置いており、だからこそある程度の不遜な態度は見逃されていた。



「……バルト、今のは本当に事故なんですか?」

「何だよリンダ?俺がわざとその女を傷つけようとしたと思っているのか?だったら安心しろ、俺は女に手を出すクズじゃねえよ」

「その言葉、決して忘れないでください」

「う、ううっ……」



危うく木片が当たりかけた女子生徒は泣きじゃくり、そんな彼女にリンダは優しく頭を撫でて慰める。一方で様子を見ていたマオはこれ以上にこの場に居ると気付かれると思い、急いで離れる事にした――






――マオはバルルから借りた鍵を利用して自分の教室に一旦戻ると、先ほどの上級生達が扱っていた中級魔法を思い出す。魔力量の少ないマオでは下級魔法よりも魔力消費量が多い中級魔法を扱うのは危険だとは自覚していた。


そもそも授業に参加していた生徒の中にマオと同じように「氷」を扱う生徒は一人もいなかった。そもそも氷の魔法を扱う人間は滅多に居らず、マオは氷の中級魔法を知らないので真似はできない。



「凄かったな、あの人の魔法……それとリンダさん」



教室の椅子に座ったマオは吸魔石に触れた状態で考え事を行い、彼の頭の中にはバルトとリンダの姿が思い浮かぶ。バルトの中級魔法も凄かったが、リンダの風の魔力を纏った姿も一度見たら忘れられない。



(リオンのスラッシュも凄かったけど、あのスライサーという魔法はもっと凄かったかもしれない……)



マオの見た限りではスラッシュは三日月状の風属性の刃を放ち、スライサーは円盤型の風の渦巻を作り出し、相手を切り刻む魔法に見えた。恐らくだが白髪の教師の口ぶりだとスライサーの方がスラッシュよりも習得が難しいらしく、バルトはリオンよりも上位の魔法を扱ったらしい。



(リオンも同じ魔法を使えたりするのかな……)



何処かへ行ってしまったリオンの事を思い浮かべながらマオは自分の持っている小杖に無意識に視線を向け、正直に言えば風属性の魔法を扱える彼等が羨ましい。


マオは風属性と水属性の中間の適性らしく、生憎と氷の魔法以外は扱えない。前に風属性と水属性の下級魔法を発動しようとした時は小杖に僅かに反応はあったが、どちらも発動には失敗している。



(僕もあの二人みたいに凄い魔法が仕えたらな……)



今現在のマオが扱えるのは下級魔法の「アイス」だけであり、このアイスは氷塊を作り出して相手に当てる事しかできない。この数日の訓練のお陰でマオはある程度の大きさの氷塊を作り出せるようになったが、それでもリオンの「スラッシュ」やバルトの「スライサー」ほどの威力の攻撃ができるわけではない。



(あ~あ、僕が風属性の使い手だったらよかったのに……いや、それだとあの時に殺されてたか)



マオは森の中でリオンと共にファングの群れに襲われた時、もしもマオが風属性の適性があったとしても二人とも風耐性の能力を持つファングに抵抗できずに殺されていた。そう考えるとマオは自分が「氷」を操れる属性だったからこそ命拾いしたのだと思い直す。



(そうだよな、僕の魔法だって役に立たないわけじゃないんだ。悲観する必要なんてない、僕は僕なりに強くなればいいんだ)



扱えもしない属性の魔法に憧れを抱くよりも、自分が使う事ができる魔法(氷)を信じて磨いていく事に決めたマオは気を取り直して頬を叩く。



(バルルさんもいつ戻ってくるか分からないし、吸魔石の訓練以外の事もやろうかな)



マオは吸魔石に触れた状態で小杖を取り出し、いつまでも戻ってこないバルルを待つのも暇なため、この時間を有効利用するために魔法の研究を再開する。


吸魔石の訓練をさぼるわけにはいかないため、マオは左手で吸魔石に触れた状態で魔力が吸い込まれないように維持し、反対の右手で小杖を掴んで魔法の練習を行う。

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