第46話 観察

「次、前に出ろ!!」

「は、はい!!出席番号は……」

「いいから使用する魔法だけを答えろ!!」

「ファイアランスです!!」



白髪の教師は男子生徒を下がらせると次々と他の生徒を呼び出し、的当て人形に魔法を撃ち続け出せる。流石に上級生なだけはあって一年生と違い、全員がしっかりと的に魔法を当てていた。


しかし、白髪の教師が生徒達が的に魔法を当てたとしても褒める事は一切なく、それどころか魔法を完全に使いこなしていない生徒には厳しく指摘する。



「何だ今の魔法は!!当てる事に集中し過ぎて肝心の威力が落ちているぞ!!」

「ご、ごめんなさい!!」

「謝る暇があるならさっさと下がれ!!よし、次!!」



教師は厳しい態度で魔術師たちに指導を行い、そんな彼の態度に生徒達は怯えたり、あるいは不満を抱く生徒も多かった。しかし、マオが見た限りでは教師の言葉は確かに厳しく聞こえるが、的を射ている指摘ばかりだった。



「お前の魔法は無駄に魔力を使いすぎている!!ちゃんと吸魔石の訓練は受けているのか!?」

「え、いや、その……」

「言い訳をするな!!ちゃんと毎日吸魔石に触れる訓練を行えっ!!」

「う、ううっ……」



三年生にも関わらずに杖から魔光を放つ生徒に対して教師は厳しく当たり、怒られた生徒は大人しく引き下がる。少しだけ可哀想に思ったが、マオは教師の言う事は間違ってはいないと思った。


マオの目から見ても上級生の中には魔法を扱う際に魔光を生み出す生徒が多数存在した。それはつまり彼等が魔力操作の技術に粗がある事を示しており、そのせいで魔法の効果を完璧には引きだせていない。



(リオンも魔法を使う時は魔光が出てなかったな……そう考えるとリオンは魔力操作が上手かったんだな)



リオンの魔法は魔法学園の三年生の風属性の魔法の使い手よりも巧みであり、しかも魔力操作を完璧に行っていた。そう考えるとリオンは正に天才だったが、マオはリオンに対して対抗心を抱く。



(リオンは僕よりもずっと先にいる……けど、負けたくない)



少しでもリオンに追いつくためにマオは上級生の魔法の授業を観察し、彼等が扱う魔法を観察する。他人の魔法を見て何か思いつくのかはマオにも分からないが、他の人間が魔法を扱う場面は滅多に見られない。


廊下の窓から気付かれないようにマオはこっそりと観察を続けていると、ここで彼はリンダが魔法の訓練に参加していない事に気付く。彼女だけではなく、数名の男子生徒が魔法の訓練に参加せずに離れた場所で見学している事に気付く。



(あれ?リンダさんは参加しないのかな?そういえばさっき、魔術師組とか魔拳士組とか言ってたような……)



教師は最初に「魔術師組」の訓練を行うと告げた事をマオは思い出し、その後に「魔拳士組」と呼んだ生徒は見学を行うように告げた事を思い出す。どうやらリンダと他数名の男子生徒は「魔拳士組」と呼ばれ、魔術師組とは別れているらしい。



(魔拳士なんて聞いた事がないけど……いや、あったかな?)



マオは昔読んだ絵本の中に「魔拳士」なる存在の話が出てきたような気がしたが、考えている間に最後の一人が魔法の練習を行う番が訪れた。



「次!!最後は……お前だ、バルト!!」

「へいへい……だるいなぁっ」



最後に前にでてきたのはぼさぼさの髪の毛の男子生徒であり、この生徒だけは他の生徒と違って白髪の教師を前にしても全く緊張した様子はない。しかし、白髪の教師はバルトの態度に眉をしかめ、一方で他の生徒達は緊張が走る。



「おいおい、バルトさんの出番が来たぞ」

「さあ、今日はどんな魔法を見せてくれるんだ?」

「ドキドキするな……」



同級生にも関わらずにバルトと呼ばれた生徒は他の生徒からさん付けで呼ばれているらしく、そんな彼の態度と周囲の反応が気になったマオは様子を伺う。



「バルト!!言っておくが手を抜くなよ、もしも下手な魔法を使えば貴様の星を剥奪するぞ!!」

「はいはい、ご自由に~」



白髪の教師が怒鳴りつけてもバルトは余裕の態度を崩さず、この時にマオはある事に気付いた。それはバルトの制服には星の徽章が既に3つも付けられており、他の生徒の中で一番高い評価を受けていた。


彼の他に星の徽章を身に着けているのはリンダだけであり、しかも彼女の場合は2つしか身に着けていない。この星の徽章は上の学年に上がるために必要な評価の証であり、三年生の場合は年内に三つの星の徽章を集めなければ上の学年に上がれない。


バルトは他の生徒の中で唯一に学年に上がるために必要な星の徽章を集めきっており、しかも今回の授業に失敗すれば大切な徽章を一つ失う事になるにも関わらず、全く緊張した様子がない。



「それじゃあ、行きますかね」

「……早くしろ!!」



白髪の教師が再度怒鳴りつけるとバルトは前に出て小杖を構えた。この時にマオはバルとの手にした小杖には他の生徒が持っている学園が支給する小杖ではない事に気付く。

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