第44話 訓練の日々
「今日は学園中を探したんだけどね、他の奴等から話を聞くと外に逃げ出したみたいでしばらくの間はそいつを捕まえるのにあたしは忙しいのさ」
「外に逃げ出したって……」
「まあ、悪いけどしばらくの間は一人で訓練を続けな。そうそう、明日からは部屋で訓練していてもいいよ。一人でこんな馬鹿みたいに広い教室を使うのもあれだろうしね……まあ、どうしても教室が使いたい時はこれを使いな」
しばらくの間はバルルはマオの訓練を見れないらしく、その詫びとして教室の鍵を渡してくれた。この鍵があればいつでも教室に出入りする事ができるようになり、これからマオは教室に自由に出入りして訓練を行える。
「じゃあ、あたしは帰らせてもらうよ。教員として色々と仕事が残ってるからね、あんたも今日は帰りな」
「あ、はい……」
「そうそう、それとこれも持って行きな。もう夕食も時間も過ぎてるしね、これを食べておくんだよ」
「あ、ありがとうございます」
去り際にバルルはマオに包みを渡すと、中身は大きなおにぎりが入っていた。彼女に言われてマオは今日は一度も食事をとっていない事に気付き、有難く受け取っておく事にした。
結局はマオは今後も一人で訓練を行う事が決まり、バルルが問題児を見つけ出すまでの間は一人で魔法の練習を行う事になった――
――それから更に二日ほど経過すると、マオは学生寮に閉じこもって訓練を行う。教室の鍵を借りたのはいいが、誰もいない教室で一人で魔法の練習を行うよりは自分の部屋の中で訓練を行った方が集中できた。そして訓練を開始してから三日が経過すると、マオは吸魔石を手に触れた状態でも殆ど魔力を吸われなくなっていた。
「くぅっ……よし、大分色が薄まって来たぞ」
マオは机の上に置いた吸魔石を両手で触れても水晶玉は僅かに青色に染まるだけであり、最初の頃と比べても水晶玉の色合いが薄まっていた。今では1分以上も触れ続けても問題はなく、もう少しでマオは魔力を操る感覚を完璧に掴めると確信する。
(集中しろ……魔法を扱うのに重要なのは精神力、取り乱したらいけないんだ)
両手で水晶玉に触れた状態でマオは瞼を閉じて自分の体内に流れる魔力を感じ取る。この三日の間にマオは体内の魔力の流れを感じ取れるようになり、そして遂に彼の手にした吸魔石から色が完全に失われる。
吸魔石が吸収しようとする魔力をマオは体内に完全に留める事に成功し、彼は遂に「魔力操作」の技術を身に着けた事に嬉しく思う。
「よし、成功した……あっ!?」
しかし、少し気が緩んだ途端に水晶玉がまたもや青く光り輝き、慌ててマオは魔力を体内に押し留める。どうやらまだ完全に魔力操作を極めたわけではなく、それでも最初に比べたら魔力を操る技術は磨かれていた。
(よし、今ならきっと魔法も……)
小杖を取り出したマオは緊張した表情を浮かべ、実を言えばこの二日の間はマオは一度も魔法を使用していない。理由としては訓練の成果を確かめるため、完全に吸魔石に魔力を吸われない段階まで訓練を進めるまでは魔法を使わないようにしていた。
そして遂にマオは吸魔石に魔力を奪われずに済む段階まで到達し、今ならば前よりも精度の高い魔法を生み出せる自信があった。マオは小杖を掴み、そして下級魔法「アイス」を発動させる。
「――アイス」
呪文を唱えた瞬間、杖の先端から唐突に氷の塊が出現した。今までは魔法を発動する時は杖の先端から魔光が迸ったが、今回は全く光輝かずにしかも魔法を発動し続けても光は生まれない。
「やった、前よりも大きくなってる!!」
変化したのは杖の光だけではなく、マオが作り出した氷の塊は以前よりも大きくなっていた。数日前のマオの魔法では数センチほどの大きさの氷の欠片しか作り出せなかった。
しかし、現在のマオは無駄な魔力を消費せずに魔法を発動する事に成功し、氷の大きさは数倍にまで増していた。この3日間の訓練でマオの魔法は強化され、今ならば他の生徒にも劣らぬ下級魔法を繰り出せる。
(凄い、こんなに大きくなるなんて……それに今なら別の使い方もできるかも)
杖の先端に出現した氷塊を確認し、試しにマオは氷塊を操作してみる事にした。前よりも魔力操作の技術が磨かれたせいなのか、氷塊はマオの意思に応じて自由に動かせるどころか形を変形させる事もできた。
「わっ……形が変わった。へえ、これは便利そうだな」
氷の形を自由自在に変形できるようになり、しかも氷塊の移動も前よりも自由に行えるようになった。マオは掌に移動させた氷塊を確認し、試しに前に的当てに利用した熊の木彫りの人形の形に変えてみる。
「えっと……こんな感じかな?」
氷塊は徐々に形を変形させ、マオの掌の上に氷の熊の氷像が出来上がる。複雑な形をした物に変形させるのは時間はかかるが、更にマオが魔力操作の技術を磨けば一瞬で彼の想像した形の物に変わると思われた。
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