第22話 逃げ切れないなら……
「ひっ!?」
「見つけたぞ……ガキィッ!!」
人込みの中から自分に向けて近付いてくる通り魔の姿を発見し、あまりの恐怖にマオは表情を引きつらせる。既に通り魔はマオを狙いに定めて近付き、それに気づいたマオは慌てて逃げ出そうとした。
(に、逃げないと……いや、無理だ!?)
街道には逃げ惑う人々が行き交い、仮に逃げようとしても人々が邪魔になって上手く移動できない。その一方で通り魔は身軽に逃げ惑う人々を避けながらマオに接近し、仮にマオが全力で逃げたとしても追いつかれてしまう。
このまま逃げても通り魔に捕まってしまうと思ったマオは兵士に助けを求めようとした。だが、先ほどまでいたはずの兵士達の姿が見えず、どうやら逃げ惑う城下町の住民に巻き込まれて見失ったらしい。
(これじゃあ、助けを求められない!!)
街道を巡回している兵士に助けを求めようにも人々が
(こうなったら……やるしかない!!)
再び昨日のようにマオは路地裏に駆け込むと、通り魔はマオの方から人気のない路地裏に逃げ込んだのを見て笑みを浮かべる。彼としては人目が多い街道よりも路地裏の方が犯行を行いやすく、マオを追って路地裏に移動を行う。
「に、逃げても無駄だ!!か、必ず、こ、殺す!!」
「くっ……!!」
相変わらず呂律がおかしい通り魔の声を聞いてマオは焦りを抱き、路地裏を駆け抜ける。しかし、前回の時はたまたま建物に取り囲まれた空き地に出れたが、今回の路地裏は行き止まりに突き当たり、すぐに逃げ場を失う。
「そ、そんなっ……!?」
「はあっ、はあっ……も、もう、逃がさないぞ!!」
行き止まりに辿り着いたマオは通り魔に追い詰められ、通り魔は兵士に気付かれる前にマオを殺そうと懐から短剣を取り出す。それを見たマオは小杖を取り出すと、通り魔は笑みを浮かべる。
「そ、そんな玩具で俺を、ど、どうにかできると、お、思っているのか?」
「…………」
昨日の一件で通り魔はマオが普通の魔術師のように強力な攻撃呪文を使えない事は把握しており、昨日に自分が左眼をやられたのは油断していただけだと思っていた。
実際に昨日の時点でマオが通り魔を撃退できたのは相手が油断していた事、そして近くに人がいた事が大きな要因だった。しかし、今回は他の人間の助けは期待できず、マオは自分自身の力で切り抜けなければならない。
(やるんだ……練習通りにすればきっと勝てる!!)
昨夜と今日の練習を思い返しながらマオは小杖を構えると、即座に通り魔は右手に短剣を握りしめながら左手は顔を覆う。昨日の様に顔を狙われないように警戒しているらしく、それを見たマオは内心安堵した。
(やっぱり、昨日の事を気にしてる。今が好機だ!!)
昨日の一件で通り魔はマオに迂闊に近づくような真似はせず、下手に接近すればまた顔に小杖を突き出されて魔法の反撃を受けるのを恐れている様子だった。昨日の先頭で通り魔は左眼を負傷して視界が半分封じられている事も都合が良く、マオは魔法を発動させる余裕があった。
「アイス!!」
「ふ、ふんっ……そんなちっぽけな氷で、お、俺を殺せると思ってるのか?」
マオが魔法を発動して小杖の先に氷の欠片を作り出すと、通り魔は小馬鹿にした様な態度を取る。確かに昨日はマオの魔法は最後の攻撃以外は通り魔には通じなかった。しかし、今のマオは昨日とは違い、自分の魔法の特徴を把握して新しい戦法を生み出す。
「喰らえっ!!」
「馬鹿がっ!!」
小杖を突きつけた瞬間に氷の欠片が射出され、それを見た通り魔は昨日と同じように腕で振り払おうとした。しかし、マオは氷の欠片に意識を集中させて途中で軌道を変更させる。
氷の欠片は通り魔の腕に振り払われる寸前、軌道を僅かに変化させて腕を回避する。そのまま腕を回避した氷の欠片は通り魔の額に直撃し、氷の尖った部分が突き刺さって通り魔は悲鳴を上げた。
「ぎゃああっ!?」
「よしっ!!」
氷の欠片を見事に通り魔の顔面に当てる事に成功したマオは喜ぶ。本当ならば右目を狙いたかったが、練習の時とは違って相手(標的)が動いたせいで狙いが僅かにずれてしまう。
それでも通り魔に攻撃を与える事に成功し、この調子でマオは容赦せずに魔法を発動させる。通り魔が取り乱している間にマオは呪文を連呼して氷の欠片を次々と作り出す。
「アイス、アイス、アイス!!」
「な、何だぁっ!?お、俺に……何をしたぁっ!?」
通り魔は額に突き刺さった氷の欠片に手を伸ばし、どうにか欠片を引っこ抜くと血走った右目でマオを睨みつける。しかし、彼を見た瞬間に通り魔は目を見開く。
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