第23話 マオの戦法
「な、何だと……!?」
「はあっ、はあっ……どうだ!!」
マオは息を荒げながらも自分の杖の先端に「5つ」の氷の欠片を生み出す。それを見た通り魔は戸惑い、一方でマオは小杖に意識を集中させる。
早朝の魔法の訓練でマオは複数の氷の欠片を同時に発動させた状態で維持できる事を知る。今現在のマオが同時に作り出せる氷の欠片は5つが限界であるが、先ほどたった1つの氷の欠片に苦しめられた通り魔はそれを見て顔色を青ざめた。
「喰らえっ!!」
「う、うわぁあああっ!?」
通り魔に目掛けてマオは小杖を突き出すと、再び氷の欠片が通り魔へと向かう。先ほど顔面に攻撃を受けた通り魔は咄嗟に顔を両手で包むが、それを見越してマオは狙いを顔面から別の箇所へ変更させる。
(ここだ!!)
5つの氷の欠片は全く同時に軌道を変更させ、通り魔の右足に叩き付ける。たった1つの氷の欠片では大した損傷は与えられないが、5つも合わせれば人間相手ならば十分に効果がある攻撃ができた。
氷の欠片は男の右足を切り刻み、予想外の箇所の攻撃を受けた通り魔は咄嗟に膝をつく。実際の所は足の怪我はそれほど大した傷ではないが、顔面を警戒していた所に足元を攻撃されて過敏に反応してしまう。
「いでぇえええっ!?」
「やああっ!!」
マオは通り魔が隙を見せたのを見逃さずに駆け出し、右足を負傷して体勢を崩した通り魔に対して杖を突き出す。それを見た通り魔は昨日の事を思い出し、再び顔面を攻撃される事を恐れて顔を覆い隠す。
「ひいいっ!?」
「うおおおおっ!!」
雄叫びを上げながらマオは駆け出すと、通り魔は身体を縮こまらせて身を守る。だが、そんな通り魔の横を素通りしてマオは路地裏を駆け抜けた。
「あっ……!?」
「おおおおっ……!!」
自分を横切って路地裏を駆け抜けるマオの姿を見て通り魔は唖然とするが、すぐに彼はマオが逃げ出した事に気付く。攻撃を恐れて防御に徹していた通り魔はまんまとマオに出し抜かれ、彼は
「く、くそガキがぁあああっ!!」
自分から逃げ出したマオに対して通り魔は怒りを露わにして追いかけようとした。しかし、それを見越してマオは路地裏から抜け出す直前に振り返り、小杖を構えた。
逃げ出したと思われたマオが振り返って小杖を構えた事に通り魔は驚き、慌てて立ち止まろうとしたが既に時は遅かった。マオは小杖を構えると通り魔の顔面に狙いを定め、最後の呪文を唱えた。
「アイス!!」
「うわぁっ!?」
自分の顔面に目掛けて放たれた氷の欠片を見て通り魔は表情を青ざめ、怒りのあまりに走っていたせいで顔面を塞ぐ余裕がない。自分の顔面に向けて接近する氷の欠片に通り魔は恐怖を抱き、表情を引きつらせる。
先ほどまでは通り魔はマオがちっぽけな魔法しか使えないと思い込んでいた。しかし、今の彼はマオの繰り出す魔法に心底恐怖を抱き、自分の顔面に向けて迫る氷の欠片に心の底から恐怖した。
「うわぁああああっ!?」
「っ……!!」
氷の欠片が通り魔の顔面に迫り、あと少しで右目を貫こうとした瞬間、マオは寸前で氷の欠片を止めた。右目に突き刺さる寸前に氷の欠片が止まった事で男は怪我をせずに済んだが、文字通りに目の前で停止した氷の欠片を見て腰を抜かす。
「う、ああっ……!?」
「はあっ、はあっ……」
「君、そこで何をしているんだ!?」
「こっちから悲鳴が聞こえたが……こ、これは!?」
やっと騒ぎを聞きつけたのか路地裏に兵士が駆けつけると、地面にへたり込んだ通り魔と、その前に小杖を握りしめた立つマオの姿を見て戸惑う。兵士達は座り込んでいる男に視線を向け、すぐに昨日のうちにマオの話を参考に描かれた似顔絵の人物だと特定する。
「こ、こいつ……例の通り魔か!?」
「何だと!?ではこいつが……」
「おい、待て……君は昨日の子じゃないか!?」
「……あ、どうも」
「ああっ……あっ……」
兵士の中にはマオから話を聞いた兵士も存在し、彼はすぐにマオの元へ訪れると、へたり込んでいる通り魔を見て驚く。そして事情を察した兵士は信じられない表情を浮かべながらマオに尋ねた。
「こ、この男……まさか、君が捕まえたのかい?」
「えっと……」
マオは兵士の言葉を聞いて咄嗟にどう答えるべきか迷い、確かに彼の魔法で通り魔を追い詰めた事は事実だった。しかし、それを正直に伝えても信じてくれるかどうか分からなかった。
彼の扱う魔法は普通の魔術師と比べると威力も弱く、とても魔法と呼べる代物ではない。しかし、それでもマオは自分なりに工夫して扱う事で通り魔を倒す事に成功した。だからこそマオは自信をもって答える。
「はい!!僕の魔法でこいつを捕まえました!!」
マオの言葉に兵士達は驚愕の表情を浮かべ、その一方でマオにやられた通り魔は項垂れたまま動けなかった。もうこの状態では逃げる余裕はなく、マオのような子供に負けた事で完全に心が折れてしまった――
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