第13話 魔術師としての限界

――マオが意識を取り戻すと、最初に見えたのは見覚えのない天井だった。マオは自分がベッドに横たわっている事に気付き、まだ頭痛や気だるさを感じながらも起き上がる。



「こ、ここは……?」

「やっと目が覚めたか」

「えっ?」



聞き覚えのある声を耳にしてマオは振り返ると、ベッドの傍で椅子に座ったリオンの姿があった。リオンの顔を見てマオは咄嗟に声を上げそうになるが、この時になってマオはリオンの名前も尋ねていない事を思い出す。



「君、名前は?」

「……起きて早々に尋ねる事がそれか?」



最初に目を覚まして口を開いた事が自分の名前を尋ねる事にリオンは苦笑いを浮かべ、彼も改めて自分が名乗っていない事を思い出す。そしてしばらく考えた末にリオンは名前を名乗った。



「リオンだ」

「リオン……君?」

「リオンでいい、お前の名前は?」

「あっ……マオ、です」

「そうか」



お互いに自己紹介を行うとリオンとマオは何となく気恥ずかしく感じ、そこからしばらくの間は静寂に包まれる。マオは自分の身体を確認し、いつの間にか服も着替えている事に気付く。


部屋の中を確認してマオは何処かの村か街の宿屋に泊まっている事を知り、リオンがここまで運んでくれたのかと不思議に思う。そんな彼の疑問に気づいたかのようにリオンがマオが気絶した後の出来事を話す。



「安心しろ、ここは王都の宿屋だ」

「えっ……王都!?」

「そうだ、お前の身元を調べさせてもらった。魔法学園に入学する予定だったらしいな」

「どうしてそんな事まで……」

「お前が乗っていた馬車の主人と話をした。殺されたのは護衛として雇った傭兵だけだったからな」



リオンも後で知ったがマオを王都まで運ぶ約束をしてくれた商人を彼に仕える騎馬隊が保護していたらしく、森の中で傭兵を置いて逃げ出した彼等だが、偶然にもリオンを森の中で捜索していた騎馬隊の別動隊に保護されていた。


商人からマオの素性を聞いたリオンは自分の予想通りに彼が辺境の地の出身である事、そして魔法とは無縁の生活を送っていた事も知る。彼の両親は商人に頼み込んで息子を王都まで送り届けるように頼んだ事も知ったリオンはマオが気絶している間に王都まで運ぶ(実はマオ達が迷っていた森は王都からそれほど離れておらず、あと少しで森を抜けられるという所で馬車がオークに襲われた)。



「お前が気絶してから半日が経過している。具合はどうだ?」

「まだちょっと頭が痛いけど……」

「魔法を使った反動だな。だが、喋れるぐらいには回復したのなら十分だ」

「え?」

「……落ち着いて最後まで話を聞け」



――マオの容体を確認したリオンは彼が気絶した原因を一から話す。この時にリオンはマオの魔力量が同世代の魔術師の子供達と比べても少ない事も告げ、その話を聞かされたマオは愕然とする。



「そんな……じゃあ、僕は魔術師になれないの?」

「なれない、というよりはだ。魔法学園で技術を学べばお前でも魔力消費の少ない魔法ぐらいは扱えるだろう。だが、はっきりと言うがお前が知っている絵本に描かれるような魔術師のように戦う事はできない」

「ど、どうして!?」

「魔力量が少ないという事は威力の高い攻撃呪文は使えないからだ。王国が欲するのは強力な攻撃呪文や回復魔法を覚えられる魔術師だ。それ以外の魔術師は必要としないし、そもそも役には立てない」

「そんな……嘘だ!!」



リオンから話を聞かされたマオは彼の話が信じられず、自分が魔術師として「欠陥」があると言われても信じられるはずがない。否、と思うのは当然の事だった。


しかし、そんなマオの反応を予測していたようにリオンは小杖を差し出す。その小杖はリオンがマオに貸していた小杖であり、彼に小杖を渡されたマオは戸惑う。



「使ってみろ」

「えっ……?」

「魔法を今すぐ使ってみろ」

「で、でもそんな事をしたら……」

「いいから早く使え」



部屋の中であるにも関わらずに魔法を使うように告げるリオンに対し、小杖を渡されたマオは戸惑いながらも小杖を掴む。昨日と同じように小杖を掴んだマオはどうすればいいのか戸惑うと、リオンは自分の小杖を取り出して彼の正面に移動する。



「僕に向けて魔法を撃て」

「で、でも……」

「安心しろ、いざという時はこっちも魔法で防御する。さあ、早く撃て」

「……わ、分かった」



リオンがオークを倒せる程の魔法の腕前を持っている事はマオも知っており、彼の言葉を信じてマオは小杖を掴む。そして彼から教わった呪文を唱えた。



「アイス!!」



小杖を構えたリオンは昨日と同じように呪文を唱え、杖の先端に青色の光が宿る。しかし、昨日と比べて光は小さく、しかも先端から出てきたのは指先程の大きさの氷の塊だった。


昨夜に初めて魔法を唱えた時は数十センチほどの大きさの氷塊を生み出す事に成功したが、今回はその10分の1にも満たない大きさの氷の塊しか作り出せず、リオンに目掛けて発射される。それに対してリオンは小杖を下ろして掌で氷塊を受け止める。



「えっ……!?」

「……これがお前の限界だ」



昨日と比べてもあまりにも小さな氷の塊しか生み出せなかった事にマオは愕然とするが、リオンによればこの小さな氷の塊が現在のマオが生み出せる魔法だと告げる。

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