第6話 本物の魔法使い
「プギィイイイッ!!」
「うわぁあああっ!?」
オークは雄たけびを上げながらマオに両手を伸ばした瞬間、自分が死ぬと思った悲鳴を上げる。だが、彼の身体をオークが掴む寸前、森の中に突風が発生してオークの両腕に異変が起きた。
「プギャアアアアッ!?」
「えっ……!?」
マオとオークの間に一陣の風が通り過ぎたかと思うと、マオの身体を掴もうとしたオークの両腕に血飛沫が走り、まるで鋭い刃物か何かで切り裂かれたかのようにオークの両腕が地面に落ちた。
突如として両腕を切り落とされたオークの悲鳴が森中に響き渡り、何が起きているのかマオには理解できなかった。しかし、鋼鉄の剣さえも弾き返す程の硬度を誇るオークの腕が切り落とされた事は紛れもなく事実であり、マオは先ほど遠すぎた突風を思い出す。
(今のはまさか……魔法!?)
咄嗟にマオは突風が発生した方向に視線を向けると、そこには人影があった。そこには杖を構える何者かが存在し、暗くてよく見えないが背丈はマオとそれほど変わらない事から子供だと思われた。
「き、君は!?」
「動くな、巻き添えを喰らうぞ」
「えっ!?」
「プギィイイイッ!!」
聞こえてきた声にマオは驚き、その一方でオークの方は両腕を切り落とされた直後にも関わらず、唐突に現れた少年に襲い掛かろうとした。
「プギャアアアッ!!」
「豚が……身の程を弁えろ!!スラッシュ!!」
「うわっ!?」
少年が手にしていた杖を振り下ろすと、先端部分から突風が発生して先ほどオークの両腕を切り落とした時と同じように一陣の風が吹き溢れる。そして正面から突っ込んできたオークは今度は真っ二つにされた。
オークは悲鳴を上げる暇もなく、身体を左右に切り裂かれて地面に倒れ込む。その光景を見届けたマオは唖然とするが、少年の方は額の汗を拭い、マオの元へ近づく。
「……子供か」
「き、君は……!?」
マオの前に現れたのは銀髪の髪の毛が特徴的の少年であり、年齢はマオと同じぐらいだと思われるが凛々しく整った顔立ちをしていた。よく見ると少年は白を基調とした服装であり、その手には絵本の魔法使いが扱う「杖」のような物を持っていた。
(杖?それにさっきの風は……まさか、この子も魔術師!?)
先ほど少年がオークの両腕や身体を真っ二つにした事を思い出したマオは彼が「魔術師」であると知り、自分とそう変わらない年齢なのにあれほどの化物を倒した事に驚きを隠せない。
その一方で少年の方はマオを見下ろし、彼に手を差し出そうとした。だが、すぐに少年は鼻を引くつかせて嫌な表情を浮かべ、彼が失禁している事に気付くと距離を置く。
「……臆病者め」
「えっ……」
「死にたくないなら付いてこい」
少年は黙って背中を向けると、マオは彼が自分が漏らしている事に気付いたと知って恥ずかしさのあまりに頬を赤く染める。しかし、助けてもらってなんだか初対面の相手に臆病者と蔑む少年に不満を抱く。
(何だよ、臆病者って……!!)
マオは立ち上がると少年の背中を睨みつけるが、すぐに先ほど彼が魔法を使った事を思い出す。少年がその気になれば先ほどのオークのように自分を切り刻む事ができる事を思い出すと、途端に彼の事が怖くなってしまう。
(この子、僕と年齢は変わらなそうだけど魔法が使えるのか……そういえば絵本の魔法使いも杖を持ってたな)
少年が持っている杖にマオは視線を向け、今まで忘れていたが絵本の魔法使いも杖で魔法を使っていた事を思い出した。マオは自分も杖があれば魔法を使えるようになるのかと思ったが、試しに勇気を振り絞って少年に聞く。
「い、今のって……魔法?」
「……何だ、お前魔法を見た事がないのか?とんだ田舎者だな」
「田舎者って……」
いちいち癇に障る話し方をする少年にマオは苛立つが、少年は振り返って自分の杖を見せつける。マオはよくよく観察すると杖の表面には紋様のような物が刻まれており、そして先端の部分には緑色の水晶玉のような物が取り付けられていた。
「これは
「小杖?」
「何だ、そんな事も知らないのか。魔術師が魔法を扱う際には主に杖を扱う、この小杖は初心者用の杖だ。尤も僕の小杖は特別製だがな……」
自分の持っている小杖を少年は誇らしげに見せつけ、その態度は自分の道具を自慢する子供同然だった。しかし、マオが気になったのは魔術師が魔法を扱う際に杖を使うという点であり、やはり魔法を扱うには杖がないといけないらしい。
辺境の地で暮らしていたマオは魔術師の事をよく知らず、この機会を逃さずに少年に色々と話を聞く。彼の正体も気になったが、今は魔法の知識を少しでも知りたい彼は恥を忍んで少年に色々と話を聞く。
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