第5話 双子の弟、創らない?
Androdiaに到着すると、外まで人が溢れていた。
数名の人間が列整理や整理券の配布をしているが、累とユイが着ているカフェの制服ではなくやけにカラフルでピエロのような服装だった。
あまりにも奇抜で別の店になってしまったかと思ったが、いつもメニューが書いてある黒板を見ると『本日貸し切り』と書かれている。
「イベントに貸してるのかな……」
「そ。今日はNICOLAの新サービスリリースイベント」
「わっ!累さん!」
「面白い物見れるからおいで」
「え?あ、は、はい」
累が連れてきてくれた場所はこの前と同じカウンターキッチンの中だった。
普段客席になっているフロアからテーブルと椅子が片付けられ広いホールのようになっている。壁際には見たことの無いアンドロイドが数体立っていて、ユイ専用のソファ席にはいつも通りユイが座っている。
だがユイはいつものエプロン姿ではなかった。だぼだぼとした白のオフショルダーシャツにインナーはノースリーブの黒ハイネック、下はジーンズという服装だ。他のアンドロイドも似たような服装をしているが、半数は外で列整理をしていた人間同様ピエロのような服を着ている。黄色に赤紫、エメラルドグリーン、目に突き刺さるような派手な色ばかりで視界がチカチカする。
千夏は頭がくらくらしてしまい、思わず目をこすった。
「あれ何ですか……」
「NICOLAシリーズ。聞いたことない?美作アンドロイドファッションの火付け役」
「アンドロイド詳しくなくて。でもいかにも人形ですね」
「性能よりカスタマイズによるオリジナリティを追及してるから」
「美作でもユイさんほどのアンドロイドは少ないんですか?」
「さあ。そんな内情は知らないよ」
累はNICOLAのパンフレット見せてくれた。
そこには、累が言った一言一句そのまま、性能よりカスタマイズによるオリジナリティを追及したシリーズと書かれていた。どうやら読んだ知識をそのまま語ったようだ。
NICOLAのボディは廃材を再利用しているから格安だが細かい作業はできないが、固有のカスタマイズ機能やファッションが豊富に用意された『動くマネキン』を追求したシリーズであると書かれている。
「色々あるんですね。でもなんでここに?」
「新しいラインのリリースイベントにユイを貸してくれって頼まれたんだよ。でも実験以外ではカフェから出せないからさ」
「だからここでやってるんですね」
ユイが言っていた面白いことというのはこれか、と視線を向けるとユイの周りにきゃあきゃあと女子が群がっている。
彼女達はユイがアンドロイドだと分かっているのだろうか。
昨日のユイは口数が多くどこか冷ややかな表情をしていたが、今日はいつもどおりのんびりしたにこやかなユイだった。確かに昨日のパーソナルではこういったモデル活動には向かないだろう。
「凄い人気ですね、ユイさん」
「ユイは可愛いからなあ」
「嫌じゃないですか?ユイさん取られて」
「嬉しいよ。結が笑って動き回る姿を見れるんだから。そう思わない?」
「それは……」
これが仮に千春だったらどうだろうか。
千春だってまだまだやりたいことがあっただろうに、それはもう叶わない。叶えていく姿を見ることもできない。
仮に千春に見立てたアンドロイドに代行させたとしても、アンドロイドの外見は人間そっくりにはならない。千春である錯覚を得ることはできないだろう。
だがユイは違う。棗結とユイは全く同じ姿をしている。
あちこちに置いてある写真だって、累が弟だというから棗結だと認識をしているだけで、実はユイだとしても千夏には分からない。
それに棗結を知る人間にとっては『ユイは棗結じゃない』のだろうが、千夏にとっては『棗結はユイじゃない』のだ。
そっくりな存在がいるというのは、見る人間によってどちらが主体なのかが変わってしまう。これでは棗結という人間が存在していなかったとしても分からない。
千夏は妙な寒気を覚えてぎゅうっと拳を握りしめた。
だが累は、それはそうと、とからりと明るい声で千夏の顔を覗き込んでくる。
「実はね、今日は君に相談があるんだ」
「僕ですか?」
「うん。今度スタッフアンドロイドを増やすんだ。ユイの後継機」
「え?作るん、ですか?ユイさんレベルのを?」
「そう。人間とアンドロイドの双子ってのがウケてるから次も双子にするんだ」
人間とアンドロイドの双子。
千夏はどきりとした。
「モデル探してるんだけど、自分そっくりのアンドロイドに抵抗を覚える人も多くてさ。長期的な実験にも協力してもらう必要があるし」
「……そ、それって……」
累はにっこりと微笑んだ。
「双子の弟、創らない?」
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