第5話 暗殺者、同僚と再会する

 「お前は……リステリカか!?」

 「覚えてくれていてうれしいよ」


 そう言った女の長い黒髪は、窓の外から照らす月あかりに艶めいていた。


 「なぜ、お前が俺らを襲う!? 俺ら【冥府からの使者】の暗殺者は、狩られる側だぞ!! お前もだ」

 「すまないな……時によって事情は変わる。仲間からのせめてもの慈悲だ。私がお前らを狩ろう」


 リステリカは、両手の短剣を構えた。

 それに合わせて、ほかの暗殺者たちも己の得物を構える。

 こんな狭い室内で殺り合うつもりか……。

 短剣を握る手に力が入る。


 「ちったぁ話が分かると思ったのによぉ。ったく変わっちまったな」

 

 ルカがそう吐き捨てると獲物を構えた。

 イゼリナとルカも迎撃態勢を整えた。


 「死にな!! 『フェルカーモルト』のルカ様が直々に冥府へと送ってやんよ」


 ルカは、そう言い放ち突貫する。


 「殺れ!!」


 リステリカは、暗殺者たちに無情の命令を下す。

 四人の暗殺者たちはがルカに向かっていく。

 ルカの実力を疑うわけではないが相手の実力が分からない以上こちらも加勢するべきだろう。


 「ルカを手伝うぞ」

 「はい」


 目線でリステリカをけん制しつつイゼリナとともに四人の暗殺者たちに突っ込む。

 ルカは、自分に向かってくる暗殺者たちに部屋にあった花瓶を投げた。

 向かってきた暗殺者の顔面に当たり鈍い音を立てる。

 俺とイゼリナは、一瞬の隙をついて低姿勢で間合いに入り短剣を振り上げる。

 左右両方から短剣で引き裂かれた男は派手に血を噴き上げて倒れた。

 壁を血が赤く染める。

 リステリカ以外はあと二人か……。

 と思った矢先、視界の端に月あかりで煌めく物体が映った。

 

 「くっ…!!」

 

 慌てて後方に飛び下がる。

 さっきまでいたところを二つのナイフが、飛び去っていった。

 そして壁に突き立つ。

 投げナイフか……。

 

 「やはり、投げナイフなどでは仕留められないか…」

 「そろそろ、リステリカが危ないぜ?」


 ルカは、リステリカを守るように戦っていた暗殺者を串刺しにした。

 鮮血が噴き上がる。

 残りは一人。

 そいつは、ルカではなく俺に向かってきた。

 勢い任せに短剣を突き出してくるので、それをよけてすれ違いざまに脇腹に短剣を突き立てる。

 鈍い手ごたえとともに床を血が濡らす。


 「今日は挨拶ということにしよう。残り少ない人生をせいぜい楽しめ」


 リステリカは窓枠に立ち外に向かって飛び降りていった。


 「負け惜しみを吐いて逃げようってか!? 逃がさねぇーぜ!!」

 

 リステリカを追うようにルカが窓枠に手をかけ外へ出ようとしたので止めた。


 「今から追っても見つけられない。やるだけ無駄だ」


 ◆◇◆◇


 眠気が覚めたので今後のことを考えることにした。


 「イゼリナ、お前に当たってきたのは偶然じゃなかったな」

 「不覚でした」


 あれは、おそらく顔を確認するためなのだろう。


 「いや、いい」

 「リステリカはどうしたんだろうな?」


 彼女は【冥府からの使者】に所属していた暗殺者だ。

 見つかったら即、捕縛されて処刑だろう。

 そうでないならばどこかの国家に属しているか、どこかの貴族が雇っているかのどちらかだ。


 「彼女の配下がいたことから考えるとどこかに雇われたと考えるべきでしょう」


 イゼリナも同じ考えだった。


 「そうだな。俺らを襲ってくることから考えると俺らのことを快く思わない者たちに雇われているのだろう」

 「だとしたら、この麻薬事件関連か?」


 ルカにしては珍しく頭のいいことを言った。


 「かもしれないな」


 こちらから動きようがないのなら相手を誘い出すべきだろう。

 おそらくリステリカたちがこの事件解決の糸口になるはずだ。


 「あいつらからの接触を待とう」

 「それしかありませんね」

 「だな」


 こちらに比べて相手の数は多い。

 三人でまとまっているほうが安全だろう。

 ということで当面は三人で行動することが決まった。

 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る