20話 開始


ランペイジ……フレイム!!」


 今日、何度撃ち込んだかわからない爆炎を唱える。

 練習の成果、っていうのもあるけど今はそんなことを気にしてる場合じゃない。


 巨大な体に、剣を持った魔物──オークの何体かを焼き払えた。

 見た目通りに、力と体力が自慢の魔物。

 その体格を活かした接近戦が得意だからこそ、私の炎が有効な攻撃手段になるんだよ。


 でも、少し奥にいたオークには炎が届ききってなかったみたい。

 体に焦げ痕を作りながらも、こっちに突っ込んできた。


「今回ばかりは、あなたのその馬鹿火力も褒めてあげますよ……! ノーブル!」

「わかってる!」


 掛け声と同時。

 ノルくんが一気に跳躍し、オークの頭上へ。


膨力フォティア!」


 ノルくんが剣を振り下ろす直前、グラさんの補助魔法バフが重なる。

 今回は、腕に特化したバフだった。


 必要最低限。だけど、効果はじゅうぶん。

 落下の勢いと、バフの力で増した剣がオークの体を引き裂いた。


「お、終わったぁ……」


 今ので何体目かな……。

 数は全然数えてないけど、結構な魔物を倒したはずだよね?


「なにをしているんです、まだ序盤も序盤ですよ」


 ペタッと地面にしゃがみこんでいた私へ、グラさんからキツイお言葉が飛んできた。

 外からの情報が一切ないダンジョンの中で、グラさんみたいに時間の感覚がキッチリしている人がいると本当に助かる。


「とはいえ、休めるときは休んでおきましょう。少しでも体力は温存しておきたいですからね」


 た、助かったあ……。


◇ ◇ ◇


 グラさんの魔法で簡易的な結界を展開したのち、軽食をつまむ。


「にしても、予想以上だな。〝ユナイトダンジョン〟は」


 〝ユナイトダンジョン〟。

 ノルくんの発したこのダンジョンは、ある意味突然変異で現れる場所。

 文字通り、複数のダンジョンが混ざり、ひとつのダンジョンとなっている。


 特殊なのは起源だけじゃなくて、中身も。

 ダンジョンは、普通どんどん深層に潜るにつれて強力な魔物が出てくるんだよ。

 だから、駆け出しの冒険者は浅い層を攻略して、腕に覚えのある冒険者はもっと奥に潜るのね?


「ええ、ある程度は覚悟していたつもりだったんですがね」

 

 でも、ここは違う。

 奥に潜る、っていう概念がないの。

 だから最初から全力。強力な魔物といきなり遭遇するなんてこの場所では当たり前。ごく自然なことなんだよ。


 私たちがここにきて、いったい何分ぐらい経ったのかな。

 外との情報が一切絶たれたダンジョン内で、時間の感覚は吹き飛んじゃう。


「コヤケさん、私たちの中で唯一範囲攻撃ができるあなたが頼りなんですよ? 普段あんな感じなんですから、こういうときぐらいしっかりしてくださいね」

「わか……てるよ……」


 ノルくんは剣士、グラさんは補助魔導士。

 ふたりともものすごく優秀な冒険者、っていうことは重々理解してる。

 だって、作品でもこの目でもふたりの活躍を見てきたんだよ?


 そんなふたりの弱点が、数で押されること。

 

 だから私が魔法で足を止めつつダメージを与えて、グラさんの魔法でバフをかけてもらったノルくんが死角から各個撃破。

 これが、今の私たちにできる最善の策だった。


 まだ魔法をコントロールできてない私が、ふたりの役に立てる。

 張り切らないなんて、オタクが廃るってもんでしょ?


「では、そろそろ行きましょう。あまりゆっくりもしていられませんからね」


 グラさんの体が、わずかに崩れる。

 戦闘時の補助魔法、休憩中の結界。

 気丈に振舞っていたけど、グラさんの体には確実に疲労が蓄積されていた。

 

 私たちの視界は白一色に染まった。



 次の瞬間。

 視界が戻るよりも前に、私の耳に届いたのはけたたましくて、おびただしい数の叫び声だった。

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