10話 警鐘


 自己紹介を交わして、さっき助けた女の子──セイマネ=リフューズをダンジョンの外まで送ることになった。

 軽くケガをしてたし、なにが起こるかわからないダンジョンの中を、ひとりで帰らせるわけにはいかない。


 話を聞けば、セイマネは戦う力を持ってなくて、それでもダンジョン内に用事があったみたい。

 そこで、サグズ・オブ・エデンのふたりにダンジョン攻略を手伝ってもらってたんだけど──


 どういうわけか、ふたりが襲いかかってきたんだって。

 なんの前触れもなく、突然。

 

 私の知ってる情報と、ノルくんから聞いた話とかけ離れすぎてて、やっぱりすぐには受け入れられないかな……。


 でも、サグズ・オブ・エデンのふたりから事情を聞いたわけじゃないからなんとも言えないのが現状。

 今はこの子の話が全て、っていうことになる。


「危ないから、俺の側を離れないで」

「ありがとう、ノーブルくんって本当に頼りになるんですね」

「誉めてくれてありがとう。そんなこと言ったって、なにも出ないからな?」


 ノルくんの言葉に、頬を染めつつ隣を歩くセイマネ。

 多分、普通に考えたら、ダンジョン内に迷い込んでしまった女の子を守る王子様然とした推しの立ち振る舞い。

 オタクとしては喜ぶべきところなんだろうけど──


「……」


 ──正直、すっごく不快だった。

 しかも、一番モヤモヤするのはその原因がはっきりしてない、ってこと。


 この子がこれといって悪いことをしてるわけじゃない。

 むしろ、危険な状況を救ってもらったノルくんを頼りにするには当然のことだと思う。


 でもなんなんだろう、この違和感は。

 確かにノルくんはお顔がいい。それ以外にも、魅力はたくさんある。

 ただ、私の直感が告げてる。


 この子は、ノルくんの近くにいちゃいけない。

 はっきりと言葉にできるものじゃないけど、確かに私の心が訴えかけてきた。


 大きめな丸メガネに、おさげ姿のごく一般的……というか、この世界っていうより私が元いた世界にいそうな見た目だよね。


 あれ、ちょっと待って? こんな子、作中にいたっけ?

 

「ノーブルが異性に絡まれている姿が、そんなに気に入りませんか?」

「え?」


 私の横を歩くグラさんが、唐突にそんなことを聞いてきた。


「顔、すごく歪んでましたよ。それはもう、しわくちゃです」

「う、ウソ!? 私、そんなに変な顔してた!?」


 驚きすぎてグラさんに確認しちゃったけど、彼はただ張りついたような笑みを浮かべるだけだった。逆に怖いわ。


 それにしても、私、ずっと前を向いていたはずなのによく気がついたね。

 本当、周りをよく見ているというか、気が回るというか……。


 グラさんがたびたび厳しい指摘をくれるのは、そういうところからきてると思うけどね?


「まあ、あなたの顔のことはいいでしょう。それよりも、彼女の存在に違和感を抱いたのは私も同じです」

「なにかわかったの?」

「いえ。ただ、警戒するに越したことはないでしょう。ノーブルの身になにかあってからでは遅いのでね」


 ──私が慎重になりすぎているだけかもしれませんが、とグラさんがつけ足す。


 確かに、そうかもしれない。

 でも、グラさんの慎重さにあんきものみんながどれだけ救われてるか、私は知ってる。

 彼と、この感覚を共有できてつくづくよかったと思う。


◇ ◇ ◇


 無事に街までセイマネを送り届けたけど、私たちには帰れない理由があった。


 あんなことがあったばかりだけど、今日の目的は私の強化。

 それが中途半端な形で止まっちゃったから、ここで諦めるわけにはいかないもの。

 せっかく付き合ってくれてるんだし、ふたりの気持ちに応えたい。


 だから、再びダンジョンへ向かおうとしたときだった。

 

「おっす、お疲れさん」


 そんな、軽い調子の声に引き留められてしまった。


「三人とも、ダンジョン攻略の途中だったんじゃねえの?」

「え、ええ。そうですけど……」

「そいつはちょうどいい。礼と詫びを兼ねて、俺にも手伝わせてくれよ。お前たちに話したいこともあるしよ」


 それは、あまりにも急なお誘いだった。

 理解もできず、私たちが立ち尽くしているとバドさんが不思議そうな顔をして振り返ってきた。


「なにしてんだ。ボサっとしてるとおいてくぞ? それとも、そんなに俺とダンジョン攻略すんの嫌だったか?」

 

 あのサグズ・オブ・エデンのバドさんとダンジョン攻略ができるなんて、思ってもないことだ。

 サグズ・オブ・エデンオタクのノルくんはさておき、あのグラさんだってびっくりしてる。


「す、すみません!」


 ズカズカ進んでいくバドさんに置いていかれないように、私たちも必死で後を追った。

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