3話 人生初!ダンジョン攻略!


 学生の頃から陰気な私は、友だちも作らず日々を消費してた。

 家と学校の往復を繰り返した、空虚な日常。

 

 そんな私を救ってくれたのが、二次元の王子様たちだったんだよ。

 きっかけは、本当に些細なことだった。

 家でなんとなく見ていたテレビに映し出されたアニメ。


 タイトルはもう覚えていないけど、物語がすごく印象に残ったことだけはわかる。

 きっとそれが、私にとってのオタクのルーツ。

 どんなときでも、自分の力で困難な状況を乗り越える姿にはいつも勇気づけられた。


 今までたくさんの物語に触れて、たくさんの推しを見つけてきた。

 その中でも、あんきも──アンラッキーモータリティは特別だった。


◇ ◇ ◇


 私の目的が決まったところで、私は人生初のダンジョン攻略とやらに来ちゃった。

 ダンジョンっていうのは、いわゆるこの世界の人たちが憧れる職業のひとつ──〝冒険者〟が仲間とパーティーを組んで挑む場所って感じかな。

 危険はたくさんだけど、そのぶん夢が詰まってるからこの道を選ぶ人が多いみたい。


 そんなわけで、私は生まれて初めて杖を握って、岩造りの洞窟の内部を進んでいた。


 ダンジョン内に生息している〝魔光虫まこうちゅう〟がほどよく照らしてくれて、それとプラスでグラさんの補助魔法で明かりを灯してるから特に不自由なく動けてるけど……。

 やっぱり雰囲気あるよね、普通に怖いもん。


 明かりで照らせる箇所にもある程度限界はあって、その先になにがあるのかわからないもの。

 そんななかでも、ノルくんとグラさんが特に気にすることもなくズンズン歩いているのは、これまでの経験があるからこそなんだよね。


「せい!」


 気合一閃。

 ノルくんが横薙ぎに剣を振りぬいた。

 彼の振るう一撃で、群がったゴブリンたちを引き裂き、道を切り開く。


 ああ、ゴブリンっていうのは人型の小さい〝魔物〟のことね。

 魔物は、この世界オリジナルの生き物、って言えばわかりやすいかな。

 冒険者たちは、こういう魔物を狩って生計を立ててるってわけ。


 で、ゴブリンはダンジョンの浅い層だと、ばんばか出てくるのね。

 ぼろ切れに身を包んで粗末なこん棒を持った姿は、ぱっと見弱そうだと思うでしょ?

 実際、単体での戦闘力はそうでもないんだけど、基本的には群れと戦うことになるから本当に厄介なんだよ。


 それにしても。 

 普段のノルくんもステキだけど、戦ってる姿もまた一段とビジュがええ……。

 こんなに間近で推しのいいところを見られるって、最高の状況よね……。


 ゴブリンの群れが相手でも、ノルくんもグラさんも、ちゃんと相手の動きを予測して立ち回ってるもん。

 経験者、恐るべし。


「──コヤケさん、なにをボサっとしているんです! モンスターがそちらへ行きましたよ!」


 って待ってよ!?

 今、グラさんがモンスターどうのこうの言ってたよね!?

 呑気してる間にめっちゃゴブリン迫ってるぅぅぅ!?


「ふう、危ないところだったな」


 颯爽と私の前に立って、モンスターたちを両断したノルくんの笑顔が眩しい。

 

 前衛でばっさばっさと斬り伏せるノルくん。

 周りの状況を見ながら、補助魔法でパーティーをサポートするグラさん。


 もしかしなくても、めっちゃ迷惑かけてるじゃん!?

 私、こんな調子でノルくんのこと助けられるのかな……?


 う、ううん! ここで弱気になっちゃダメよ!

 私は今ヒイロちゃんの体に転生したんだもん!


 ──それはつまり、今は私も彼女の力が使えるってこと。


 ヒイロちゃんは魔法による攻撃を得意とした魔導士。

 その中でも、得意なのは炎を扱った魔法が得意だった。


 で、ヒイロちゃんがどんな魔法を使うのか、名称は暗記済み!

 こういうとき、オタクでよかったなあ、としみじみ思う。


「さ……てと!」


 じゃあ、あとは言葉にするだけ!


暴焔ランペイジフレイム!!」


 ヒイロちゃんが最も得意とする魔法、ランペイジフレイム。

 あたり一面に爆発を起こす、ただそれだけ。


 だけど、シンプルゆえに強力。汎用性も高いってものよ。

 だからこそヒイロちゃんが愛用していたし、私の中でも強く印象に残ってるんだと思う。


「ナイス、コヤケさ……ってええええええ!?」

「なにやってるんですかあなたはああああ!!」


 魔法を発動するところまではよかった。

 でも、問題がひとつあったことをすっかり忘れていた。

 アニメではちゃんとした使い手であるヒイロちゃんが扱っていた。

 でも今はどうだろう。


 魔法を扱うのが初めての私。

 で、ヒイロちゃんにはちょっとした秘密があるんだけど、今の私がそこまで配慮できるわけなかった。


「え、ああああああああああああああああ!!」


 叫んでもどうしようもないんだけど、精いっぱいの抵抗だよね。

 だけど、私の絶叫もむなしく景色は紅蓮一色に包まれた。

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