第20話 ショタとロリ

 ライトがミッドナイトを連れて帰宅すると、リルとアートが出迎えつつ匂いを嗅ぐ。

 ーースンスンスンスンッ、フスーッ、スンスンスンッ、フスーッ!スンスンスンスンスンッ!ーー

 追加でリルのつがいであるフェンという狼も加わり、ライトとミッドナイトは念入りに匂いを嗅がれていく。


「お、フェンも居たのか。珍しいな」

「ポイっ、リルが居ない間、縄張りを守っていてくれたっポイ」


 汗を拭き取った手拭いを取り出し、明後日の方向へと投げるライト。いい加減に鬱陶しいので、アートとリルを引き剥がす一手を打つと、アートとリルは手拭いを追い掛けて離れるも、フェンはミッドナイトから離れない。


「……お手」

 ーーなんやその手は、噛んでもいいのか?

「フェン、おいで」

 ーーなんやライト、おらはフェンぞ。

「ポイポイ」

「くっ、負けた!」


 手拭いを咥えたリルが近づき、差し出されたライトの手のひらに前足を置く。

 アートは悔しげな顔をしつつ、フェンの尻を押して、強制的に押し退ける。

 当然、唸って威嚇するフェンに対し、アートは履いていた草履の片方を脱いで構えると、フェンは唸るのを止め、耳を伏せつつ逃げていく。

 ーー止めろ、その物騒なモノを向けるな!

 近くの犬小屋に入るまで追い掛け、アートは草履を再び履いた。

 どうやらアートは、ライトよりもヒエラルキーが上のようだ。留守の間にジェネや軽量と連携して、フェンと散歩したりしたのだろう。

 ヘビーがリードと首輪を持って出てくると、フェンは小屋から顔を出して首輪を着けさせる。

 ーー散歩か、よし、おらが散歩に連れて行ってやるぞ。

 尻尾を振って両方の前足を沈めて尻を上げつつ、一声吠えると腰を落として引っ張るように走り出す。

 ヘビーはオートマトンなので、フェンに追随して走って行くが、普通の少女だと引っ張られて転倒し、そのまま引き摺られてしまう事だろう。


「ミッドナイトさんは客間にどうぞ」

「わかりました、お邪魔しますね」


 アートはミッドナイトを連れて家の中へと向かう。

 ライトはリルと少し遊ぶ様子。


「お座り」

「ポイ」

「お手」

「ポイ」

「おかわり」

「ポイ」

「もう一回お手」

「ポイ」

「おーて」

「ポーイ」

「伏せ」

「ポイ」

「追っ手」

「ポイ?」

 首を左右に振っているリル。

「王手」

「ポイッ」

 右前足を地面につく。

「鎮座」

「ポイ」

 両前足を上げ、腹を突き出すように胸をはる。

「ち〇ちん」

「?」

 首を傾げる。メスに前尻尾は無いのだが、それは百も承知のライト。

「超お手」

「ポイッ!」

 座ったまま跳躍してお手をするリル。

「ダイナミックお手」

「ポイポイ!」

 立ち上がり、月面宙返りをして着地と同時にお手をする。

「アルティメットお手」

「ポイ」

 飽きて来たのか、リルは両前足を重ねてお手する。

「バーン」

 銃撃の仕草をすると、リルが倒れて仰向けになった。

「よし、またなリル」

「ちょっと待つっポイ。リルは肉が欲しいっポイ」

「ジェネに伝えておこう」


 ご褒美をお預けになる所だったが、リルが抗議するとライトはジェネに強請たかるようにと返す。

 その後、リルも散歩へとフェンを追い掛けていった。


 家に入ると、ミッドナイトを客間に押し込んだアートが、悪質なタックル気味に駆け寄りつつ、ライトの胴体を大好きホールドしてきた。足を背中でカニの如く挟み、腕も肩や首に回してロックし、懐に顔をうずめる。


「あぁ~、ダンナニウムが鼻と脳に効くぅ」

「デカい赤ちゃんだなぁ」

「みーんみーん、みん」

「蝉だったか」


 ライトは一端、玄関口の脇にそのまま移動して、家の壁とサンドしながら蝉なアートを退治する。

 白い樹液を吸って御満悦なアートを下ろし、ライトは風呂場へと向かう。

 勿論、アートも震える小鹿のような足取りで付き従い、小判鮫のように引っ付いて行く。


「金魚のフンかな」

「……お尻ですか、先っちょだけですよ?」

「いや、今は賢者グワーッ!!」


 ライトが賢者ならばと、弱い肉弾戦で挑み、元気にさせる。


「元気になれっ、元気を出せっ、元気よ出ろっ!」

「濃い元気出る?!」


 絞り出した元気を啜り、アートは顔の艶が最高潮となった。


 夕食はミッドナイトも交えて摂り、さっさと客間に追い返すと、寝室ではショタ薬を飲まされたライトに、アートが赤ちゃんプレイを迫る。


「いいですか、ライト君。これは予行練習です」

「よこーれんしゅー」


 目から光が消えた状態で、ライトが復唱する。

 肉体が若返り、記憶もトランス状態で朧気になるので、効果が切れると忘れてしまう。

 また、記憶も若返った頃から続くので、一時的な上書きも可能だし、ショタやロリ薬は五年刻みでの若返りなので一桁代の年齢にして、擬似的な親子にも兄弟にもなれる。

 あと、多少の欠損も治るので、打撲や擦り傷が出来るプレイをしてもバレにくい。

 ただ、トランス状態になるとはいえ、個人差は当然あるので、若返った後のプレイ内容を覚えている事もある。


「子育てはVRでもやりましたが、現実とゲームは違いますからね」

「ぼくは赤ちゃん?」

「はい、ママですよ~。オシメ着けましょうね」


 推定四歳児なライトを半裸にして、濡れタオルで尻や仙骨部を刺激する。

 我慢したがライトは少し漏らしてしまい、更にアートがシモの処理を行う。


「……四歳くらいだと、ちょっと大きすぎる赤ちゃんで、やや趣向とは異なりますね。はい、加齢薬です。九歳くらいに成りましょうね、ライト君」


 加齢薬は五年程歳をとる。五十路や四十路の熟女、または枯れ専向けの魔法薬。若返った後に飲むか、老けた後に若返ると相殺される。

 ちなみに肉体が成長する過程で細胞分裂を促すので、ある程度の欠損が治るもガンになりやすい副作用がある。また、時間を巻き戻したり早めたりもしているので、体力や精力も回復するらしい。

 九歳児なショタボディのライトは、アートによる卑猥な手付きにより、熱膨張してしまう。


「はうっ、お、お姉さん誰?」

「ライト君のお姉ちゃんですよ。久しぶりだから忘れてしまったんですか?」

「えぇ? ……お母さんに似ているような?」

「お母さんであり、お姉ちゃんでもあります」


 執拗に股間へ刺激を与え、強制的に精通させるアート。


「これが初モノ……」

「うぅ、何か出ちゃった。お股熱い……」


 二時間後、興奮して暴走したアートによって、無理矢理色々と奪われたライトだが、アートは己の体質の事を忘れていたので、簡単に返り討ちにされる。

 結果、一桁代の性欲と精力に好き放題にされ、ショタに逆転負けとなった。

 主導権を奪われたので、おねショタからショタおねにジャンルも変わる。精通したてのショタに、撫でポチョロインは勝てないのだ。

 エキスと潮で悲惨な布団から、震えつつも何とか這い出したアートは、ライトにショタ薬を飲ませ、無力な四歳児に更に薄めたショタ薬を飲ませて、約一歳と六ヶ月の赤子を引き寄せる。

 ジェネとヘビーを呼んで布団を新しい物に換え、アートはライトを抱き、乳房を出しておちちを与えようとする。


「あぁっ! スッゴい吸い付き!! 貪欲に出るように歯茎での噛みつき、反対側もつねるなんて?! この子、いつの間にこんなテクニックを!」


 乳首に吸い付くライト、しかし、アートは授乳が出来ない。執拗にお乳をねだるライトの口撃にアートは、新喜劇のネタの如きリアクションをして身悶える。

 しばらくして、お乳を貰えないと悟ったのか、赤ちゃんなライトは泣き始めた。米の磨ぎ汁をお乳の代用品として、布に染み込ませてライトの口元に当て、布に吸い付かせる。


「はぁ、はぁ……。やはりVRとは違いますね。赤ちゃんなライト君がこんなにも激しいなんて。ここはもう少し薄めたショタ薬を使って、胎内回帰で旦那様を産み直しますか」


 とは言え、産み直してからの育成は時間が掛かるので、ミッドナイトの指導が滞る。

 この時、アートの目にショタ薬が映り、ライトと見比べていく。


「おにロリ。でも犯罪臭がする。親子、父子家庭、難しいかな。そもそも旦那様の説得がまだだし……」


 出逢いのやり直し、あわよくば幼馴染として記憶を上書きして、主導権を握り尻に敷く。そんな事を考えていると、最初に飲んだショタ薬の効果が切れたのか、ライトが赤ちゃんから幼児に急成長した。


「ママー、おんぶー」

「よーしよし、髪を引っ張らないでね?」


 このままだと次々と効果が切れていくので、首や腰がライトの体重に負けてしまう。

 少しおんぶしてあやすと、布団に座って抱っこに変え、幼児の頬をつつき、頬擦りする。

 嫌がる内に効果が切れていき、変化の最中に優しく押し倒し、さも寝ている間に覆い被さったかの様な構図を取る。


「……アート。変な薬を飲まされたのは、誤魔化されないからな?」

「えー。覚えていたら赤面どころか、黒歴史になっちゃいますよ?」

「記憶が無い。意識不明な俺に何をしたんだ、言え! 言わないと、三時間も弄んだ仕返しが、アートの考えよりも凄い事になるぞ!?」

「そ、そんな脅しで言うとでも? 吐かせたかったら、拷問でもするといいです! そう、性的な!」

「分かった、三時間連続絶頂の刑な」

「……ま、待って下さい。それはちょっとアヒんッ!」


 十分後、白目を剥いたアートに、ライトが囁く。


「記憶が曖昧な三時間、何したんだ?」

「イヒッ、しっ、ショタにして、精通したての旦那様と、色々してました!」

「まぁ、どうせショタな俺にも負けてたんだろうが、その色々を知りたいんだよ」

「わ、若いって凄いんですね。私も若返っていれば負けなかったんです!」

「そうかな? いや、チョロくなければワンチャンあるかも」

「ロ、ロリとショタの絡みなら、処女捨ててすぐは痛いけど、童貞の敏感さは簡単には治まらないから勝てるんです」

「……で、ショタな俺に何をしたんだ?」

「まず、お薬を飲ませます……」


 アートの身体は屈したが、心までは屈しなかった。

 責められている間にカバーストーリーを考え、赤ちゃんプレイやショタに好き放題された事実を隠す事にしたのだ。

 ショタにしたライトの息子を立たせ、尻から前立腺を刺激しつつ、亀の口に髪の毛を突っ込む。尿道を魔法的念動で自由自在に髪の毛を使ってほぐし、前立腺と中の射精官を通り、精嚢、精官を通過する際、ミクロサイズにまで髪の毛を分割していき、精巣上体と精巣を蹂躙する。

 ミクロな髪の毛はストローのように空洞で、長さも錬金術の応用で魔法的に継ぎ足していき、金の玉二つを隅々まで侵食し、精子の生産を促しては吸い出す。

 また、種切れしたら、電気信号並みの微弱な雷魔法の応用で、睾丸マッサージと神経伝達による生産の促進もする。

 耳から髪の毛を入れて、ミクロサイズの毛髪で鼓膜や内耳、三半規管を通り、脳へ直接的に電気信号を送り、無理矢理にでも前立腺や精巣を稼働させて貪り食らう。

 そんな搾精のプロセスを聞き、ライトは己の息子を見る。


「えへへ、搾精プレイは楽しいです。あの出ないのに刺激で悶える表情……種切れから寸止めプレイに移行して、出るとか出したいとか懇願するのは、目にも耳にも良かったのです。あぁ~、ショタの懇願は万病に効く~。ショタからしか得られない素がある~」


 ライトはドン引きの視線だが、それを見たアートは、助かる~と嘯く。

 ヤンデレ、ショタコン、撫でポチョロイン、こいつは真性のヤベー奴だ、ハッキリ分かんだね。

 玉ヒュンな話を聞いて、ライトは仕返しを決意するべく息子に喝を入れる。


「三時間寸止めの後、三時間連続絶頂、ロリの姿で前後の口と上の口も責めてやろう」

「ちょ、ちょっと待って約束が違うこのベッドヤクザアアア!!?」


 ロリ薬を二本飲まされ、中学生並みの体形になり、今度はアートが一時的に記憶を上書きされていく。これぞ因果応報だ。

 しかしながら、やり過ぎると撫でポが常に絶頂状態へと悪化するので、一時間寸止めして、一時間連続絶頂で止めておく。仕返しが怖いから日和った訳では、決してない。





 翌日、アートはライトの朝の一番絞りを啜り摂り、取れたてのサラダに白いドレッシングをかけて食べ、コーヒーにミルクを入れつつ、納豆にとろろを入れていく。

 マヨネーズや醤油もいいが、食物繊維を少しでも多く摂らないと、女性は体内に子宮や卵巣があるので便秘になりやすい。

 アミノ酸をライトから搾取するので、顔色や肌艶は良好だが、家庭菜園からの自給自足にも限度がある。

 そこで水晶玉を使うのではなく、近隣の集落へと買い出しに行くのだ。安易に水晶玉のショップ機能に頼ると、家の周りの交通網が全滅してい事に、気付くのが遅れる。

 ライトは辺境に住んでるので、積雪や川の増水、落石や倒木がそのままだと死活問題となるので、散歩がてら見回り、取り除けるならその場で対処し、直ぐには無理なら人手や道具を準備して、二・三日以内には片付ける。


「ハーピーの卵を使った、温泉卵でありんす」

「旦那様、ドレッシングが少ないです」

「同人誌のような量は出せない」

「金の玉が小さいからです。デカくすれば量も増えます。脳と精巣上体に髪の毛を突っ込みましょうか」

「奥方、朝食中です。下ネタは控えて下さい」

「飯どころか血すら吸ってないカースさんは黙ってて下さいね。ミッドナイトさんをモルモットにしても良いんですけど、浮気を疑われたくないので、旦那様のを弄ります」

「アート、男の股間のブツは簡単には肥大化しないんだ。そりゃあ大きくて長くて硬いのに憧れはあるが、玉は体内に収納する事も出来るので、大き過ぎると困る」


 空手や拳法には、睾丸を収納するすべがあるし、普通に生活していても引っ込む事がたまにある。


「男は度胸!」

「うぐっ! はうっ!? 止め、尿道ガバガバになりゅう! 赤玉出りゅううう!!」

「脳を刺激して、前立腺や精嚢も液体をひねり出させます」

「テクノブレイクすりゅううぅぅ!!」


 ミクロ単位で拡張していき、前立腺や精嚢、精巣上体や精巣を二倍くらいに肥大化させ、最終的には同人誌並みの液量を出させる。

 結果として水分不足で腎虚か、腹上死するだろう。

 ただ、心停止くらいなら雷魔法で、心臓を電気マッサージが可能だ。ついでに睾丸マッサージもすれば痛みから意識が戻る可能性もある。

 股間を蹴られたりするとその痛みで気絶や失神するが、気絶している男の股間を蹴りあげると、逆に起き上がって悶絶する事もある。

 しかし、強く蹴ると玉が潰れるので、男として死ぬ。

 ライトが悶絶しつつ吐精するのを見て、ミッドナイトはかなりドン引きして隅へと移動し、アートから距離を取る。

 ちなみに、ミッドナイトの視界と意識を共有しているネイビーが、アートの凶行をラーニングしていたりする。


「うぅ……玉が、玉がいた、痒い」

「耐えますか。抜けないように貞操帯を着けましょうね」

「あの、せめて別室で……」


 移動してアートはライトの股間に髪の毛を入れたまま尿道プラグと貞操帯で栓をする。


「これってトイレは……」

「あら、もよおしたので? 目の前に便器があるでしょう?」

「屋内外で肉便器扱いな嫁って、なんか嫌だな」

「意識そのままなショタ薬飲みます?」

「遠慮する。ところで、なんで魔法薬の効果がバラバラなの?」

「魔法って科学と違い、安定はしていないんです」


 同じ作り方で効果や質が安定しているのが科学的なアイテムで、ヘビー・アームズのパーツとかが該当する。一方、質はいいが効果が安定せず、効果時間や意識の有無が不安定なのが魔法的なアイテムとなる。オートマトンの核が個別の意識を持つのは、量産品でも同一性が無いためだ。


「いっ! 痒い」


 激痛を耐え、痛みを口にしないように、ライトは強情に振る舞う。

 弱点を突かれてもポーカーフェイスを押し通すと、相手との心理戦で優位になりやすい。


「うっ……リョナって、虐められている相手の反応が、性的に興奮するって感じですかね」

「好きな女の子をいじめて、泣かせる男子のような?」

「振り向かせる為にいじめて、反抗する際のやり取りが、女の子と関わる手段となる奴です。まぁ、嫌われるか、嫌いな男子の括りとなって、距離を取るのが一般的です」

「政略結婚がそれの発展系だよな」


 貴族同士の結婚とかは、嫌いな男子に嫁ぐ事もあるし、借金のカタや寄り親寄り子の繋がりとかもある。


「……うちは借金とか」

「無いです。そもそも人間の行商は来ない」


 逆に言うと、亜人の行商は来る。ただし、物々交換が主流なので、金銭は絡まない。

 戻って朝食を摂り、外へと向かう。


「そう言えば、ミッドナイトは食事しないのか?」

「大気中にある負のエネルギーを取り込んでます。あと、ネイビーが食事すると、空腹感は消えますね。疲労も共有してますが、どちらかが休んでいる間はずっと動けます」


 双子特有の共感能力に加え、体力や呪力の共有化、双方同時ラーニング、戦闘力の常時向上もある。

 つまり、戦闘となればミッドナイトが動いている間、ネイビーは休むので、二人同時に相手しなければ、どちらかが絶え間なく攻撃してくるのだ。

 VR空間だろうが、戦闘指導で学習すれば共有し、本の内容や釣りの経験も共有するので、時間さえかければ娯楽も冒険も堪能出来るし、どんな職業でも即戦力となれる。

 他人に嫌われるだけで、負のエネルギーは生成される為、食料の心配はいらない。恨み、妬み、嫉み、僻み、嫌み、怨み、苦しみ、辛み、苦み、負のエネルギーには困らない。味覚の辛みや苦みを感じると、人はほんの少し不快となる上、病気になると辛さで不幸となるし、何かに病みつきとなると、他人は不快感を覚えたりする。愚痴をこぼせば、ストレス緩和となるが、ストレスそのものが負のエネルギーだ。

 カースとしては負のエネルギーは食料であり、呪力の元でもあるので、実質的に無限の呪力ひいては魔力へと変換が可能となる。

 まぁ、変換効率が悪いので、魔法はそんなに使えないが、呪術はかなり使える。

 人が居なくても、負のエネルギーは野生動物の無念さや、狩りでの殺しによる恨みもあるので、別に人間が必要という訳ではない。

 また、人間並みの、知能や知性がある亜人でも負のエネルギーが発生する。

 魚や植物、虫も僅かに恨むので、星そのものが呪いに満ちていると言えるだろう。


「おさらいも含めて、古流とは何かを問おう」


 獣道や森を走り、川が近くで流れて鍛練後の休憩にも適した、ライトがよく訓練する場所にて、青空の下で座学を行う。


「合理的な人体駆動」

「効率化された戦闘技術」

「どれも違う。それは一つの側面でしかない。そもそも、古流という流派は剣術や槍術、柔術に拳法、色々あるものの良いとこ取りをして、戦闘で生き残る術が強調されているが、本質は違う」

「研鑽の果てにより、手段と目的が入れ換わったんですか?」

「まぁ、廃れさせないように弟子をとるのは普通の事だ。興味を引かせるのに剣や拳で、硬いモノをどうにかする」

「それを学ぶために、弟子入りするのでは?」

「それを会得したら、そこで終わるから、存続はしないよな」

「私との子供は古流存続に利用すると?」

「それは子供が決めるから、強制はしない。興味を持つ子供が現れるまで、何人も子作りするのか?」

「……サッカーチーム」

「えぇ、野球じゃないのか」

「そんなに生んで、子育てに掛かる費用はどうするんですか。俺やネイビーに子守りしろと?」

「たまに遊ぶくらいは……」

「遊ぶのに付き合うのは構いませんが、ケガしても責任は取れませんよ」

「と言うか、十人以上生む事に反対されないんですね」

「生めるならね。別にここら辺は亜人しかいないし、土地も開拓すれば増築も出来るし、自給自足するからお金はほとんどいらないし。亜人相手には物々交換だからなぁ」

「教育とかは?」

「VRがある。五歳くらいから、VR内で何十年と学習や転生をすれば、現代の常識なんてすぐに覚えられる」

「なるほど、サッカーではなく、電脳スポーツ部を作れるくらいに生めと」

「それって部員数は何人ですか?」

「さて、話が脱線したが、古流武術とは使い手が生存する事こそ、本質だ」

「どんな手を使ってでも、立っていれば勝者。ですか?」

「そう。こだわりがあれば、尚良し。剣術でどんな環境にも立ち向かえる、どんな相手にも戦えるようになる」


 槍が折れたら、剣で立ち向かい、剣が折れる前に相手の武器を奪う。魔物相手なら剣で切りつけつつ、衝撃で内部を傷つけたりする。魔法が使えるなら魔法も使っていき、相手の攻撃は避けつつも、付かず離れずの距離に留まる事で、持久力やスタミナを削るのだ。勝てない相手でも、嫌がらせは出来る。


「古流は対人特化だが、二足歩行の知的生命体なら、龍人にも対抗出来る。ちなみに、剣聖は銃撃や狙撃を防げるし、古竜にも装備が整っていれば勝てる」

「なら、旦那様は剣聖ですね」

「剣聖は国王や皇帝が認めないとなれない。だから、俺はサンドロックを降しても剣豪なんだよ」

「そう言えば、真龍の紅玉様がお認めになるそうです」

「……誰それ?」

「サンドロックを含めた、真龍と呼ばれる種族のトップです。ドラゴンの王様が認めるんですから、旦那様は剣聖を名乗れますよ」


 懐から七龍冠を出す。これはちょっとした通信も可能であり、恩人であるアートが頼めば、ライトを剣聖にする旨の書状やら勲章やらを送るのは造作もない。


「それは、名誉な事だが、人間が認めないとだな……」

「ちょっと向こうに頼めば、この辺境が属する国の王様が、書状を書いて下さいますよ。たぶん、マリア教の教皇様も、頼めば貰えるのでは?」

「打診はあったが断ったんだよね」

「……何故?」

「剣聖になると王宮や教団に出向する。要するに職場に出社する必要があるし、他国の剣聖とやり合う事もある。あと戦争になると総大将の側から離れられない。剣神に挑む権利がほとんど無くなる」


 故に剣豪が剣聖よりも融通が効く。

 剣聖は国を背負って戦う事もあるので、負けると名声と資金を失う。力と命は負けた時点で無いに等しい。


「剣神は俺と同等に強い。いや、神を名乗る分、勝負運が絡まないと、割りとあっさりと負けるだろうな」

「剣豪を名乗る人は、皆同じくらいの戦闘力や経験があると?」

「ミッドナイトとは相性が良かったのと、戦闘経験が皆無だったのが大きい。アートとミッドナイトが戦うと、俺と会う前ならアートが苦戦していただろう。今なら、腕一本犠牲にすれば勝てるかな」


 その場合、次が無いので詰む。こちらが隻腕の剣士で、両腕がある普通の剣士に勝つには、隻腕への慣れと片手でどう抜くかのコツ、不利な現状の中にある長所と短所を見つける必要がある。

 片腕では侮られるのが普通だし、油断していない強者でも、ふとした拍子に負ける。


「片手や片足になるのは避けられない。むしろ、無傷で勝てると思う方がおかしいし、魔物相手なら余計にあり得ない」

「まぁ、防具にお金を掛けない初心者や、慢心した冒険者はよくいますね」

「カースには分かりません」

「腕を身体に縛って、正座したまま戦えるか?」


 ミッドナイトは両腕を紐で身体に固定し、地面に正座する。影が立体化して、簡易的な脚となる。また、三つ編みの髪の毛が毛先で二股に分かれ、更に伸びて木刀を両手で握る様に持つ。


「魔法や呪術無しでは?」

「これ、影を消したら浮いたような状態に、なるだけなんですけど」

「カースって素で髪の毛を操れるのか。呪力の放出で浮くのは、仕方ないか。殺気の気中りで投げる奴もいるし」

「魔力のオーラだけで、ゴーストを消す神官も居ます」


 ミッドナイトは五感がなくても、手足がなくても、普通に戦闘力の変動が起きない。仮に手足が再生しなくとも、首から上だけで戦える。カースはそう簡単には死なないし、生活面も不便を感じない。


「……人間は片腕になると戦闘力が落ちる。カースは肉体が欠けても平気か。つまり、真正面から全力で何度も切り伏せられるな」

「勝てるならですけどね。首だけでも死なないのは、アンデッド系にもいますし」

「あの、カースはサンドバッグでは無いので、木刀を構えないで下さい」


 ライトが縮地並みの歩方で接近し、いつの間にか抜いた木刀が、ミッドナイトの眼前に迫る。

 無我の一撃がトラウマ並みに怖いのだ。


「武術の達人は、大体が縮地や無拍子を使えると思え。無我の一撃は、使えない奴も戦闘中に使えたりするが、本人は気付いていない。なんて事もある」


 そもそも、意識的に無意識な攻撃を繰り出すのが至難の業だ。反射神経やカウンターとは違うし、先の先を見越した攻撃でもない。

 ちなみに、無我なので武器や体勢は関係無く、咄嗟に繰り出されるようなモノなので、何が起きたか相手も分からない事があり、気付いたらダメージが蓄積し、何故か死んでしまう状況となる。


「剣聖や剣神も同様だな。ピンキリとは言え、達人は極めているから強いんだ」

「フィジカルやステータスのゴリ押しにはならない、と?」

「種族のパラメーターやらは個人差の括りだ。如何に裏をかき、先の先や後の先を読むかで、手数は埋められるし、不利も引っくり返る」

「だから継続戦闘となると、何でも使っていくのですね」

「生き残る為だからな」


 武器や防具が良い物なら、それだけお金も掛かるが、コスパも良くなる。ただ高いだけの武器は二級品で、古流は三級品だろうが使って戦う。

 取り巻く環境やフィールド、天候すら利用して、地の利を生かし、逆境をはね除ける。石ころだって武器にする。

 古流武術は、体勢や場所、得物すら選り好みしない。

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デストロイヤーズ 元音ヴェル @1991

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